春のメジロ

 いよかんを袋で買ったら、五つ、六つ入っている中に、汁気がほとんどないかすかすした不良品が一個混じっていた。不味いのだが、鳥だったら食べるだろうと思って庭の木に刺しておいたところ、そういう代物は、やっぱり鳥でも不味いらしい。木の高いところの枝先に訪れたメジロは、頭をきゅっきゅっとひねって、そこにあるのが不味いいよかんだと確認すると、これじゃあ結構ですと言わんばかりに、さっと飛び立って行ってしまった。
 あるいは、もう春になって、ほかにも食べるものがたくさん出てきたから、庭のみかんを食べに来る必要がなくなったのかもしれない。メジロは花の蜜や果物などしか食べないのかと思っていたら、昆虫も食べるらしい。このあいだ、アマチュアの映像大賞か何かをもらった人の作品をニュースでやっていたけれど、メジロの子育てから巣立ちまでを記録したもので、巣の中で大きな口を開けて待つ雛鳥に、親のメジロがバッタのような緑色の虫を与えていた。
 そうかと思ったら、その後みずみずしいみかんを庭に出しておいたら、ヒヨドリもメジロも食べに来た。来てくれるのはうれしいけれど、やっぱり春日の庭でみかんをつついている姿は、どこかしら違和感がある。お山へ行って、昆虫や春の花の蜜を食べなくてもいいのかい、と心配になる。
 それでもやはり、一日に訪れる回数はだんだん少なくなっていて、今日はメジロもヒヨドリも一度も姿を見せなかった。今朝出したみかんが真新しいまま、明るい陽光の中でしんと木に刺さっているのを見るのは寂しいけれど、でもそれでいいのだと思う。今芽吹こうとしている木の葉がまた散っていくまで、しばしのお別れ、それまでにもときどき姿を見せてくれたら、なおうれしい。


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