大原の朝市

 日曜日は早く起きたので、大原の朝市に行ってきた。
 もう日は昇っていたけれど、晴れた空はまだ薄いピンク色で、山あいの道にはもやがかかっていた。
 まだ朝が早くて車も少ないから、もしかしたら野生動物が見られるかも知れない、と思った矢先、進行方向左側の歩道に、ふたつ、みっつ、何かがうずくまっているのが視界に入ってきた。「ねこ?」と子どもがたずねたけれど、猫ではなくて野生の猿だった。それが群れの先頭で、車は次々と20頭ほどの猿の横を通り過ぎた。おのおの、ガードレールの上に座ったり、何かを拾ったり、親子で連れ立って歩いているのもいた。一番最後に、まだ小さな子猿が、群れに遅れまいとたどたどしい走り方で私の車の前を斜めに横切っていったので、慌ててブレーキを踏んだ。
 このあたりは猿がよく出るらしい。中学生のとき、この道路の下に広がる山あいの集落から通っていた同級生がいたが、しょっちゅう猿が出没して、迷惑しているという話を聞いた。窓から勝手に入ってきて、冷蔵庫の中の食べ物をとったり、あるときなど、家に帰ってくると、誰もいないはずなのに応接間のソファに人影があり、ぎょっとしてよく見ると猿が座っていた、という笑い話のようなのもあった。
 息子は、猿の群れを通過したあとも、もっといないかなと身を乗り出して窓の外を眺めていた。野生動物を見られたというのが珍しいのだろう。そういう気持ちは私の記憶にもあって、小学生の頃、家族で海へ行った帰り道に、渋滞を避けるために入った山すその迂回路で、車の前を大きな鹿が横切ったのを見たときは、本当にわくわくした。うれしくて、夏休みの絵日記にもその場面を描いて提出したほどだった。(今でも、猿くらいでは驚かないけれど、リスやカモシカなんかに出会えると、とてもうれしくなる。)
 大原に着くと、山里の朝は清々しかった。山影から昇った遅い朝日が、里の家の東側の土壁を明るく照らして、稲を刈り終わった田んぼには、朝靄が流れていた。空気は冷たかった。
 朝市では野菜を買った。今の季節は、夏野菜と冬野菜のあいだの時期で、市には夏の名残の万願寺とうがらしや巨大なきゅうり、冬野菜の大根や人参の間引き菜、すぐき菜などが並んでいた。かぶが好きなのでかぶの間引き菜と、二十日大根、すぐき菜を買って帰った。
 かぶの間引き菜は、ぎざぎざの葉っぱのついた細い茎の束の先に、プチトマトよりもまだ小さい、可愛らしいかぶがついていて、指でこすって泥を洗い落とすと、真っ白になった。きれいな野菜を見ると、幸せな感じがする。お揚げと一緒にたいて、晩御飯にいただいた。
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