ふくちゃんの食事作法

 その昔、みゆちゃんとふくちゃんに大好きな乾しカマをあげると、もしゃもしゃとゆっくり食べるみゆちゃんの横でふくちゃんはあっというまに自分のを平らげて、みゆちゃんの残りを横取りしてしまうことが多かった。だから、おやつをあげるときにはいつも、まずみゆちゃんにあげてから、みゆちゃんが食べ終わるまでの時間を稼ぐために、ふくちゃんを隣の部屋の反対側へ連れて行って、そこであげることにしていた。そうしてもまだ、ふくちゃんは自分のおやつをすぐに呑み込んで取って返し、みゆちゃんのまで食べてしまうことがあった。それだけみゆちゃんはのんびりしていて、ふくちゃんはすばしっこかった。
 子猫だったふくちゃんは、猫のルールをまだちゃんとわかっていなかったのかもしれない。その後、みゆちゃんがふくちゃんに、ひとのものは取ってはいけないと教授したとも思えないけれど、近頃は、みゆちゃんのおやつを横取りしなくなった。キッチンカウンターの上に並んでおやつを待っているふたりの前に、それぞれ乾しカマを置いてやると、みゆちゃんはその場でもそもそ食べはじめるが、ふくちゃんは、乾しカマを口にくわえて、そそくさと床に下りて食べる。みゆちゃんに取られないようにそうしているのだろうが、昔のふくちゃんを知っているから、いやいや、横取りしてたのはアナタでしょ、と可笑しくなる。みゆちゃんはというと、ふくちゃんのを取るつもりなど全然なくて、今も昔ものんびり食べている。
 おやつカリカリやまたたびを手のひらに乗せてみゆちゃんに勧めると、可愛い口を私の手に寄せて食べたり小さな舌で舐めたりするが、ふくちゃんは、慣れないのかなかなか私の手から直接食べようとしない。将来、もし病気になったりして自分でお皿から食べられなくなったときのために、手から食べることを慣れさせようと思うが、口元に差し出してももじもじして下を向いてしまうので根気がいる。我慢強く勧めると、ようやくおずおずと、極度に遠慮したようなおちょぼ口で指先から取ろうとするが、たいてい下に落としてしまう。一方でみゆちゃんはというと、遠慮がなさ過ぎて、たまにあんまり美味しいものだと手のひらを一緒に噛まれたりする。
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