トラ猫キキ

 キキは大人しいトラ猫であると、このあいだ書いた。家に来た当初はずいぶんやんちゃで、やっぱりネロとちゃめの例に漏れずトラ猫はやんちゃなのだと思っていたら、ある時期が過ぎると、すっかり大人しくなってしまった。最初は顔が丸く、ふわふわの毛のころころした体で、あまりにも胴が短く猫らしくないので、母などは大丈夫かしらと心配したほどだったのが、どんどん長く伸びて、しなやかないたちのようになった。ふわふわと立っていた毛は、猫の中でもとくに「猫毛」で、体にはりついている。キキは体温が高く、そのうえ毛も薄いから、抱っこするととても熱い。
 やんちゃではないが、先代のネロに似ているところがあって、そのひとつは、人の輪に入りたがることだ。ネロは貫禄のある風貌とは裏腹に、寂しがり屋で甘えん坊な一面があって、居間にみんなが集まってくつろいでいると、何気なく真ん中のテーブルに上ってきて寝そべったり、食事の時にはいつも、自分の好きなおかずがあるなしにかかわらず、眠そうな顔をしながら食卓の端っこにきちんと座って参加していた。律儀なネロを見て、猫の集会に出席しているようなつもりなのかな、などと話し合った。キキは寂しがり屋かどうかはわからないけれど、人の集まっている場所へやってくる。家の一階で立ち話をしていたら、その話し声を聞いて、二階からすぐにキキが降りてきた。
 もうひとつ、キキとネロに共通するのは、人間の食べ物が好きなことだ。ネロは、ちょっとお行儀が悪いところがあって、お皿の魚につい手が出てしまったりするから、夕方など、食事を準備する台所から、「あっ」「ネロ!」「こら!」など、よく母の声が聞こえてきた。落ち着いてご飯が作れない、と母は愚痴をこぼしていたが、そのネロが亡くなって、数年のあいだ平穏だった台所が、近頃また慌しくなっている。このあいだも、ついうっかり油断して、母が居間へ来て話をしていたら、台所から物音がして、しまったと思ったときにはすでに遅く、キキに鯖のみりん干しの端っこをかじられてしまった。
 母はそんなキキを捕まえて抱き上げ、キキちゃん、最近ネロおじさんに顔が似てきたよ、と言った。
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