皆それぞれに、早替えやら手伝いで忙しかったものの、
中でもかわいそうだった人、というのは、
袴を手伝ってもらっている、このお方。
新三郎役のアルフさん。
実は明治に入った折の怒涛の早替えには、
まったく無関係な人間もおりまして・・・、
幕末のうちに死んじゃっている、
遊女のお豊、私、そして新三郎。
この3人は、明治に入ったら登場しません。
(死んでるんだから当たり前!)
ただ、新三郎だけは、又右衛門の心の中に、
「まぼろし」となって登場するんですね。
「まぼろし」だから、武士の姿のまま。
それはいいんです。
ただアルフさんはもうひとつ仕事があって、
アンサンブルで明治政府軍の軍人役をやっていたんですね。
人手不足の折、空いているキャストは、
誰でもアンサンブルになったんですが、
お客様に顔がバレるとシラけきっちゃいますから、
顔を見せないように、後ろ向きで一瞬だけ、
ざわざわっと現れて消えます。
たったそれだけのために、
着物、帯、袴を脱いで軍服に着替え、
刀を差すための長-いさらしを巻いて、
(このさらし巻きが厄介!)
なおかつ、ぎっちり止めてあるチョンマゲを外して、
ハチマキを締めなきゃいけない。
その一瞬の出番を終えると、
今度はまた新三郎の「まぼろし」のために、
さらしを外し、軍服を脱ぎ、
着物、帯、袴をつけて、
またチョンマゲをつける。
これは誰がどのシーンに出るかをまとめた「香盤表」。
アルフさんは最後までマルがいっぱいあって、
みんなが明治の衣裳で落ち着いた頃、
一人、またバタバタと早替え・・・。
「せめてチョンマゲをつけたままだと楽なんだけど」
とぼやいていましたけど、
後ろ姿しか見せないから、
チョンマゲがあると見えちゃうんですね。
どんなお芝居でも、アンサンブルって、
本当に大変なんですよねぇ。
こんだけ苦労したんだから、
せめて顔ぐらい見せたいし、
ひと言くらい台詞を喋りたい、
と思っても、そうはいきません。
若手の場合、
アンサンブル専門で出演することもあります。
大きな舞台なら当然いますし、
小劇場でも、よくあります。
一番忙しく早替えをしながら、
裏の仕事も一番多い。
でもどんなに頑張っても、
目立つ所には行っちゃいけない・・・。
まっ、どこの世界でも若手とはそんなものでしょう。
ある意味、人手不足で、
キャスト全員がアンサンブルもやる、
今回の芝居なんかは、すごく公平といえるかも。
まぁ、なんであれ、
結果としてお芝居が面白くなれば、
なんでもやるのが役者なんですけどね(笑)
・・・ということで、
ダラダラと続けてまいりました「早替え編」はこれでおしまい。
それでもまだまだ続けるぞ~。
おつきあいのほど、何卒よろしくお願い致しまする~!