巷で色々と話題のノットのブルックナーを聴いてきた。
昔は、雑誌から演奏の評論などを読んで善し悪しの情報を得るのが関の山だったが、今ではSNSとかいう不特定多数のありとあらゆる情報なり意見が即座にわかってしまう時代。これが本当に良いことなのか、最近疑問に思うことがしばしばあるが、とにかく人の意見を簡単に知ることができる。そんな中、今回のジョナサン・ノットという指揮者が、昨年くらいから話題に上がり、機会を見つけて是非聴いてみたいと思っていた。
今日のオケは、東京交響楽団。ノットが現在音楽監督を務めている。アントンK自身、この東京交響楽団とは縁が浅く、近年は演奏会に出向けないでいたので、数年振りということになるが、団員たちの濃紺カラーが昔と変わらない印象で記憶が甦った。
今回は、この東京響の定期公演ということであり、定期会員の方々も多数来場されているはずだが、聴衆の雰囲気もどこかいつもとは違う。ここでは深く触れないでおくが、この時点であまり良いイメージがなかったことは事実。
さて肝心な指揮者ノットの演奏だが、今回のブルックナーの第8については、アントンKにとって至って普通の平均的な演奏。ということは、いつも言っている最も嫌っている駄演であった。指揮者ノットは、大変レパートリーが広く、古典から現代曲までその数は膨大らしいが、このタイプの指揮者は、オーマンディやヤンソンスあたりを連想させるオールマイティの何でも屋サンということだろう。今回のブル8を聴く限り、実に丁寧に各ポイントを一つ一つ仕上げていたように思える。アントンKの座席が、後方の壁に張り付いたような座席であったためか、Hrnの主張が強く、通常の演奏よりも鳴っていたように感じたが、実際はどうだったのだろうか。蚊の鳴くようなピアニッシモから、空虚な意味のないフォルテまで散見できたが、これがノットの思うところのブルックナーだとしたら、アントンKは今後はとらないだろう。とうとう最後まで、耳で聴こえる物以外の深い想いや歓び苦しみの魂の叫びが現れず不発に終わった。
今回の演奏評価だけで、指揮者ノットを語ることはできないが、やはり、アントンKとは求める音楽に隔たりがあるということはわかった気がする。そして世間の評価がどうあれ、最後は自分の耳しか頼りにならないことが今改めて判った。それは、大好きなブルックナーの第8をもって判ったことなのかもしれないが、次回がまたあるとすれば、今度は別の音楽、ベートーヴェンやブラームスを聴いてみたい。自分自身における彼の評価が決定的にならないことを期待して、その時を待ちたい。
2016年7月16日
東京交響楽団 第642回定期演奏会
指揮:ジョナサン・ノット
ブルックナー 交響曲第8番 ハ短調 ノーヴァク版第2稿
サントリーホール