大阪フィルが東京公演を開催しなくなってから、かなり時間が経ってしまった。朝比奈隆存命の時代は、主に毎年7月に東京公演があり、楽しみに待っていたもの。ベートーヴェンやブラームス、マーラーやブルックナーと数多くの作品に接し、感動や驚きを感じてきた。晩年になると、朝比奈のレパートリーもベートーヴェンとブルックナーに集約されていったが、今思えば、この毎夏の公演が、アントンKにとってのコンサートの試金石になっていたと感じている。海外からの来日オーケストラを含め、中々心に残る演奏会は数少ない中、朝比奈の演奏会は、良い事もそして悪い事も数多くの思い出が今も自分に息づいている。
最近の演奏会のプログラムもかなり昔から様変わりしてきたように思うが、特にベートーヴェンの交響曲は以前に比べると減ってしまった。もちろん暮れの第9は除かなくてはいけないが、第3の「エロイカ」など中々演奏されない。それこそ朝比奈時時代には、来日オーケストラを含めても、ベートーヴェンに接する機会も多かった。
この第3交響曲「英雄」は、初期の交響曲でも演奏時間が長く、それまでの第1や第2に比べると格段に複雑な構成になっているからか、アントンKには、初めやたらと取っつきにくかった。まだベートーヴェンを聴き始めの頃、名前の付いた楽曲から聴き始めるのは、アントンKも同じで、第5や第6、そして第9と進み、第3で少しつまずく。そんなイメージだった。第5や第6は聴きやすかったことに比べて第3は良く分からなかった。しかし第1から第9までおよそ全ての楽曲を聴き終えた頃、第3の存在の大きさに気づき、今ではベートーヴェンの中ではベスト3に入るかもしれない。譜面を見てもわかるように、第3の時代には、トロンボーンやチューバは載ってはいない。金管楽器は、あくまでも増音楽器としてのみ扱われていた時代だからか、ホルン、トランペットのみで構成されている。オーケストラが小編成だと感動の幅も小さいと思っていた当時のアントンKを目覚めさせてくれたのは、朝比奈の「エロイカ」だった。本物に触れると、オケの構成云々といった小さな事など吹き飛んでしまい、楽曲の内面から湧き出てくる精神性の高さにまず心打たれてしまう。もちろん今では録音でしか聴くことはできないが、数多く出回っている朝比奈隆の「エロイカ」。未聴の方は一度お勧めしておきたい。どれも甲乙つけがたい名演だが、今アントンKがあえて上げるなら、90年代に新日本フィルを振った録音を記しておく。大阪フィルではないが、この新日本フィルのシェフとなった朝比奈の全集は素晴らしい。反復を全て履行した演奏で、重厚で巨大なベートーヴェンが姿を現わしている。
2016-09 記