もう「第九」のレビューを書く時期になってしまった。
いつものことながら、目まぐるしく時間が過ぎ去り、今年も残り半月となった。来年への展望などゆっくり考える時間もない、ギリギリの生活態度には我ながら呆れてしまうが、今は1日1日を大切に積み重ねていく他はない。
毎年暮れに開催のベートーヴェン「第九」のチケットは、選り好みしながら早々に決めて手に入れるのが通例だった。近年では、年間通して鑑賞している新日本フィルの第九のチケットを手に入れている。もちろん今一番好みのプレーヤーであるコンマスの崔文洙氏を率いる楽団であるからだが、今年はドイツ出身のシモーネ・ヤングが振るというから更に楽しみだった。しかしここへ来て、再び感染症が流行はじめ渡航禁止となり、あえなくヤング氏の来日は叶わなかったのである。
かくして指揮者が変更となり、鈴木秀美氏へスイッチした。もちろんその演奏は、今年3月に鑑賞した第5の時と同じような、無色透明の透き通った響きが、「歓喜の歌」を支配した。前半に演奏された「レオノーレ第3」をも含めて、鋭角的なくっきりした音色の世界。まさしく古楽器奏法、ピリオド奏法の世界だった。アントンK自身としては、長年第九を鑑賞してきた中でも、この手の演奏は皆無であり、CDも含めて古楽器奏法の第九は初かも知れない。最初から最後まで、目が離せない演奏だったと言える。ノンビブラートが徹底されて、かつ音色が減衰するからか、かえって聴きなれないフレーズが聴こえてきたり、いつになく新鮮に鑑賞することができたのだった。しかし毎年第九を聴きながら、感動してしまうポイントでも、何事も無く過ぎ去ってしまった感覚で、どこか空しくなったことも事実だ。どうやらアントンKには、ベートーヴェン演奏は感情的に気持ちを乗せた演奏の方が合っているようだ。大好きな第3楽章の出の部分、早めのテンポで1stヴァイオリンが奏でる第一主題も、悲しいくらい透き通っていて美しい音色。でもここは、やはりたっぷりと歌い、情感深く響かせた演奏を取りたくなるのだ。目の前のコンマス崔氏の演奏も、いつもの情感溢れ出る響きは徹底して消し去り、ノンビブラートに徹していた演奏だったから、なお更残念に思えてしまったのだ。
指揮者によって求める音楽の相違は当然のことながら、ここまで指揮者に寄り添い極限まで追求していくオーケストラの技術の高さは流石だと言いたい。スケジュール直前、突然の指揮者変更にも、何事も無かったように素晴らしい演奏を繰り広げたコンマス崔氏をはじめ、新日本フィルの団員たち全員にエールを送りたい。終演後、アントンKの目の前で終始熱演を繰り広げ、元ミュンヘン・フィルのザードロ並みの音とテクニックを披露していたティンパニの川瀬氏に、あまりにもその演奏が素晴らしかったので、気が付いたら思わずお声がけしてしまっていた。
新日本フィル・クリスマスコンサート2021
ベートーヴェン 序曲「レオノーレ」第3番 OP72b
ベートーヴェン 交響曲第9番 ニ短調「合唱付き」 OP125
指揮 鈴木 秀美
ソプラノ 森谷 真理
アルト 中島 郁子
テノール 福井 敬
バリトン 萩原 潤
合唱 二期会合唱団
合唱指揮 キハラ良尚
コンマス 崔 文洙
2021年12月18日 すみだトリフォニーホール
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