アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

ギーレンのブルックナー全集

2016-08-17 15:00:00 | 音楽/芸術

超ド級のブルックナー全集が発売されたので、書き留めておきたい。

ミヒャエル・ギーレンの指揮するブルックナー全集のことである。最近、ギーレンの名を中々聞かなくなってしまったが、どうやら2014年に指揮者を引退していたらしい。レコーディングも少なく、日本でもどのくらいの認知度があるのかよくわからないが、知る人ぞ知ると言ったかなりマニアックな指揮者だろう。来日も過去に何度となくあるが、アントンKは、実演には触れたことがない。20年以上前の1992年が最後の来日らしいが、当時の印象も、いわゆる「辛口」の演奏だったらしい。

アントンKはこのギーレン、録音でしか触れていないが、その定評通り、何の情感も音楽に感じないストレートな解釈であり、自分の求める音楽とは違っていた印象を昔から持っている。あらゆる楽曲に冷たさや暗さを感じていたのだ。時にその表現が、的を得てとてつもない感動を呼ぶことがあるが、(昔聴いたムラヴィンスキーのように・・)、概して鳴っている音楽からは鳥肌の立つような感覚はなかった。

今回のブルックナーの交響曲全集は、録音が、1968年から2013年まで実に45年間のスパンで録音されており、この全集のうち第1・第2・第8.第9番の4曲は初録音となっている。そしてそれは録音用ではなく、演奏会のライブ音源なのである。既存の楽曲については、(第3・第4・第5・第6・第7)以前から所有しており、ギーレンのブルックナー解釈の印象は、他と大して変わらない印象だった。つまり音楽が硬直していてゴツゴツと音の塊が迫る印象を持っていた。そこには、温もりや情感は皆無であり、他の楽曲同様ドライな演奏が展開されていた。ブルックナーに人間的な情感は求めないが、あまりにも冷めている味気ない演奏は、求めるものとは隔離していたのだ。

しかし近年(とはいっても5年以上前だと思う)、NHK・FMのライブ放送番組の中で、ギーレン指揮のブルックナーの第1の演奏会の放送があり、エアチェックしながら聴いた時、以前までのギーレンの印象がまるで変わり、見違える様な演奏になっていたのだ。それまでの無機質でクールな解釈は影をひそめ、ドラマティックな熱い演奏がラジオスピーカーから聴こえてきた。残念ながらその時の放送は途中緊急地震速報が割り込み、放送自体中断してしまい、録音は失敗に終わったが、ずっとその時の演奏は強く心の中に残っていた。そして晴れて今回正規なCDとして発売され、この第1番(おそらく同じ時期のものだと思う)も聴くことができたという訳だ。

長くなるので詳細は書かないが、この第1番は、ウィーン稿で演奏されており、現状この版での演奏の中ではベストだろうと思う。この間、シャイーの第1が良い演奏と書いたばかりだが、これを大きく飛び越えてしまったから仕方がない。全ての楽章に新しい発見があり、特にフィナーレの後半は、これぞウィーン稿と言ってよいほど的を得た解釈に感じている。近年に録音された第8や第9も素晴らしく、この45年間で指揮者ギーレンは別人になっている。円熟の境地とかいう簡単な言葉で片付けられるのかよく判らないが、ここまで激変した指揮者をアントンKは知らない。そして良く分からなくなってきた。今一度、ゆっくり聴き返してみようと思っている。

ミヒャエル・ギーレン指揮

バーデン・バーデン南西ドイツ放送交響楽団

ザールブリュッケン放送交響楽団(第2)

 



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