2008年5月31日公開 カナダ 110分
グラント(ゴードン・ビンセント)とフィオーナ(ジュリー・クリスティ)は結婚44年の仲睦まじい夫婦。しかし、フィオーナにアルツハイマー型痴呆症の症状が現れる。グラントは彼女を辛抱強く支えていくが、ある日自分の居場所がわからなくなってしまったフィオーナは、自らの症状を自覚し老人介護施設への入所を決断する。一ヵ月の面会謝絶期間が終わり施設を訪れたグラントが目にしたのは、自分の事を覚えていないフィオーナの姿だった。彼女は車椅子の男性オーブリー(マイケル・マーフィ)を、自分の初恋の相手と思い込んでおり、彼の世話を焼いていた。毎日の訪問の甲斐もなく、オーブリーとの絆を深めていくフィオーナの姿にいたたまれなくなるグラントを、看護士のクリスティ(クリステン・トムソン)が励ます。そんなある日、オーブリーの妻マリアン(オリンピア・デュカキス)が夫を自宅に連れ帰ってしまい、ショックを受けたフィオーナは、気力をなくしていく。彼女の容態を心配したグラントは、マリアンを訪ねてある提案を持ちかけた・・。
アリス・マンローの短編小説『クマが山を越えてきた』の映画化です。
「私の頭の中の消しゴム」は若年性アルツハイマーを発症した妻への献身的な愛を描いて感動を誘いましたが、こちらは決して若いとは言えない夫婦の姿を描いた作品です。
フィオーナ役の女優さんが綺麗。
環境に適応するために最初の30日間は誰も面会できないという施設の規則については疑問が残りました。フィオーナは自分の状態を受け入れ自ら決断して入所したわけですから、むしろ隔離期間は彼女の病状にとってプラスになるようには思えなかったのですが・・。
愛する人が自分の存在を忘れてしまうことも辛いですが、他の誰かを愛するようになるのはもっと辛い気がします。それでもその事実を受け入れようとし、更に踏み込んでオーブリーを再入所させようとするグラントに献身以上の何かを感じますが、それにはやはり理由がありました。
穏やかな結婚生活を送ってきたようにみえた夫婦にも過去がありました。
フィオーナは18歳の時に、大学教授だったグラントと結婚しますが、彼が女子学生と浮気を繰り返したことで深く傷ついていました。彼女は施設へ入所する日の道すがら、昔の辛い思いを彼にぶつけます。やがて、彼女がオーブリーに想いを寄せるようになると、グラントは自分が過去の罪で罰せられているのではないかと思い始めるのです。彼もまた心に秘めてきた彼女への負い目があったからでしょう。
一方、夫婦の立場が逆転するマリアンにとっては、グラントの申し出は孤独で閉鎖的な日常を脱するチャンスに思えたかもしれません。けれど、グラントの方にはマリアンへの愛情(男女としてだけでなく同じ境遇への共感も含めて)があったようには見えませんでした。それは何度も名前を間違えるシーンに顕著です。2人は欲望のはけ口として互いを求めたかのようでした。
しかし、グラントの真意がどうあれ、オーブリーを連れてきたその日、フィオーナは正気を取り戻していました。もちろん彼女の回復はほんの短い間のことで、また病に戻っていくのはわかりきっているけれど、グラントにとって、このことは更なる罰になったのか、それとも幸いだったのか、私には判じかねます。
綺麗事だけじゃない感情や欲望をもしっかり描き出した作品ですが、ラストに救いを感じられなかったなぁ。
グラント(ゴードン・ビンセント)とフィオーナ(ジュリー・クリスティ)は結婚44年の仲睦まじい夫婦。しかし、フィオーナにアルツハイマー型痴呆症の症状が現れる。グラントは彼女を辛抱強く支えていくが、ある日自分の居場所がわからなくなってしまったフィオーナは、自らの症状を自覚し老人介護施設への入所を決断する。一ヵ月の面会謝絶期間が終わり施設を訪れたグラントが目にしたのは、自分の事を覚えていないフィオーナの姿だった。彼女は車椅子の男性オーブリー(マイケル・マーフィ)を、自分の初恋の相手と思い込んでおり、彼の世話を焼いていた。毎日の訪問の甲斐もなく、オーブリーとの絆を深めていくフィオーナの姿にいたたまれなくなるグラントを、看護士のクリスティ(クリステン・トムソン)が励ます。そんなある日、オーブリーの妻マリアン(オリンピア・デュカキス)が夫を自宅に連れ帰ってしまい、ショックを受けたフィオーナは、気力をなくしていく。彼女の容態を心配したグラントは、マリアンを訪ねてある提案を持ちかけた・・。
アリス・マンローの短編小説『クマが山を越えてきた』の映画化です。
「私の頭の中の消しゴム」は若年性アルツハイマーを発症した妻への献身的な愛を描いて感動を誘いましたが、こちらは決して若いとは言えない夫婦の姿を描いた作品です。
フィオーナ役の女優さんが綺麗。
環境に適応するために最初の30日間は誰も面会できないという施設の規則については疑問が残りました。フィオーナは自分の状態を受け入れ自ら決断して入所したわけですから、むしろ隔離期間は彼女の病状にとってプラスになるようには思えなかったのですが・・。
愛する人が自分の存在を忘れてしまうことも辛いですが、他の誰かを愛するようになるのはもっと辛い気がします。それでもその事実を受け入れようとし、更に踏み込んでオーブリーを再入所させようとするグラントに献身以上の何かを感じますが、それにはやはり理由がありました。
穏やかな結婚生活を送ってきたようにみえた夫婦にも過去がありました。
フィオーナは18歳の時に、大学教授だったグラントと結婚しますが、彼が女子学生と浮気を繰り返したことで深く傷ついていました。彼女は施設へ入所する日の道すがら、昔の辛い思いを彼にぶつけます。やがて、彼女がオーブリーに想いを寄せるようになると、グラントは自分が過去の罪で罰せられているのではないかと思い始めるのです。彼もまた心に秘めてきた彼女への負い目があったからでしょう。
一方、夫婦の立場が逆転するマリアンにとっては、グラントの申し出は孤独で閉鎖的な日常を脱するチャンスに思えたかもしれません。けれど、グラントの方にはマリアンへの愛情(男女としてだけでなく同じ境遇への共感も含めて)があったようには見えませんでした。それは何度も名前を間違えるシーンに顕著です。2人は欲望のはけ口として互いを求めたかのようでした。
しかし、グラントの真意がどうあれ、オーブリーを連れてきたその日、フィオーナは正気を取り戻していました。もちろん彼女の回復はほんの短い間のことで、また病に戻っていくのはわかりきっているけれど、グラントにとって、このことは更なる罰になったのか、それとも幸いだったのか、私には判じかねます。
綺麗事だけじゃない感情や欲望をもしっかり描き出した作品ですが、ラストに救いを感じられなかったなぁ。