杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

予告犯

2015年12月11日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2015年6月6日公開 119分

ある日、動画サイトに新聞紙製の頭巾で顔を隠した謎の男(生田斗真)が現われ、集団食中毒を起こした挙句に開き直った食品加工会社に火を放つと予告する。警視庁のネット犯罪対策部署として設立されたサイバー犯罪対策課のキャリア捜査官・吉野絵里香(戸田恵梨香)は、ネット上で通称“シンブンシ”と呼ばれる男は単独犯ではなく複数犯だと見抜く。その後もシンブンシは、SNSで無思慮な発言をして炎上騒ぎを起こした者らに予告の上制裁を加えていき、模倣犯まで出現する。遂には政治家(小日向文世)の抹殺予告動画までUPされるにいたって、警察&公安は彼らの正体や動機を探るべく本腰を入れて調査を始めるが・・・。


筒井哲也の同名コミックの実写映画化。クライムサスペンスとジャンル付けされているけれど、サスペンスというには犯人は初めから観客に曝されているし、謎解き(彼らの犯行の真の目的)にスリルもなくちょっと肩透かしかも。斗真君主演だし、窪田君も出てると聞いたので劇場で観たかったけど見逃した作品でした。たぶんちょい役だしな~と思ってたんだけど・・・いやいや、すっごい重要なセリフもあるし、全然存在感あるじゃないっすか、窪田君あ~あ、やっぱり劇場で観れば良かったと後悔しても始まらないので、そこはDVDの利点、彼のシーンだけ何度もリピして楽しませていただきました

斗真君演じる主犯格のゲイツこと奥田宏明の境遇は悲惨の一言に尽きます。一度挫折したら這い上がれない社会の仕組みとか、派遣に対する横暴な仕打ちとか、ネットで尻馬に乗るばかりの一般ピープルとか、色々社会問題提起してくれちゃってる作品ですね

シンブンシは4人組でした。三年前に劣悪な労働環境の中で共に働いた仲間だったのね。バンド崩れのカンサイ/葛西智彦(鈴木亮平 )、腹の出たメタボ/寺原慎一(荒川良良)、元ひきこもりのノビタ/木村浩一(濱田岳)。彼らは人生のドロップアウト組ワーキングプアです。でもそれは怠惰から引き起こされたのではなく、ふとした躓きが負の連鎖を引き起こした結果だったの。努力が足りないと批判するのは簡単だけど、努力だけで何とかなるなら彼らもあそこまで追い込まれなかった筈。

もう一人、ヒョロ/ネルソン・カトー・リカルテ(福山康平)と呼ばれたフィリピン出身の日系人の人懐こい青年がいました。彼は日本人の父親を探すため、腎臓を売って来日したのですが、劣悪な環境の中で体を壊し死んでしまいます。遺体にシャベルを投げつけた現場監督の鬼畜な振る舞いが彼らの今回の事件の呼び水となっています。ヒョロが持っていた「OTPトークン」と呼ばれるセキュリティキーを利用し、ネットへ犯罪予告をして世間を騒がせた彼らの制裁の方法は、ターゲットを監禁拉致して肉体的、精神的な苦痛を与える。世間の評判を失墜させるなど様々ですが、実際に殺人は犯していません。このことからも彼らの目的は別にあることが示唆されています。

彼らの本当の目的はヒョロのたった一つの願いを叶えてあげることだったのです。そしてそれが達成されたかどうかを見届けることなく彼らは自らへ罰を下すのですが・・・。

一方、エリートで人生の勝ち組に見えた吉野女史ですが、実は貧困の中から努力して這い上がってきたことが明かされます。彼女にとって、彼らは努力の足りない人間に見えていたのですが、ゲイツらワーキングプアの置かれている実情を知ることでその視点が揺らぎます。努力できる人間はまだ救いがあり幸せなんだよね。

ネットカフェの店員・青山祐一(窪田正孝)が、ゲイツの身代わりを買って出たことも彼女の理解の範囲外でした。何の得にもならない行為を何故したのかと問う彼女に「大きなことじゃなくても動くんです、人は。それが誰かのためになると思えば。」と答える青山。(取調べ室で黙秘を続ける青山がこのセリフを言う時の目の動かし方とか表情とか、やっぱり窪田君上手いなぁと思ってしまう)その言葉はそのまま彼らの行動の動機でもあるのよね。
(余談ですが、ネットカフェ内を逃げ回るシーンでは新聞紙を被ったままでよく飛び回れるな~とか、これってスタントじゃなくて本人なのかなぁとか、物語と関係ないことを考えてしまったぞついでに戸田さんとは「サマーヌード」では恋人役だったのにとか役者って大変だな~)

カンサイが持っていた青酸カリで服毒自殺を図った彼らですが、ゲイツだけが命を落とします。彼は初めからそのつもりだったのね。(そういえば、彼の願いは「友達」が欲しいでした。)その大切な友達が罪に問われぬよういくつか細工も施していました。その真意を汲み、敢えて計画に乗る三人ですが、それで良いの?後悔しないの?と疑問も残りました。あまりにもささやかで哀しい想いが切なかったな~。

ネット犯罪のジャンルではありますが、彼らがしたことより、一連の事件を「楽しんで」いた世間の人々こそ罪悪感を持って然るべきなんじゃないかとも思いました。

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