2018年2月3日公開 70分
俳優・斎藤工の長編監督デビュー作です。彼の短編「バランサー」の脚本も担当した放送作家・はしもとこうじの実体験を基にした家族の物語です。
借金を残して蒸発した父親の消息が13年ぶりにわかったと思ったら病気で余命いくばくもない・・・散々苦労してきた母親もそれを間近で見ていた兄も関わりを持つことを拒否します。まぁ当然の反応よね また借金背負わされたくないし。弟の方はまだほんの子供だったから、父親が遊んでくれた楽しい思い出が多少残っているんですね。で、見舞に行くんですが、そこでまたお金の工面の電話をしているのを聞いて、「あぁ変わってないんだな」と思ってしまい足が遠のいてしまうのです。彼女のサオリ(松岡茉優)に促されてもう一度行った頃にはもう父はかなり弱っています。
冒頭で葬儀会場の受付をしているサオリが、すぐ近くのお寺で盛大な葬儀をしている苗字の同じ故人と間違えてやってくる弔問客に応対している様子が映し出されます。立派な会場と大勢の弔問客と対照的に、こちらは集会所みたいな所で弔問客も数えるほどです。
葬儀の喪主は兄で、母親は出席していません。(喪服姿の母が公園で父が好きだったタバコをくわえる描写があるのですが、このシーンを入れることで、母の躊躇いと迷いと夫への愛情の名残が伝わってくるんですね。)読経の後で、お坊さんが弔問客全員にお別れの挨拶を促します。いや、こういうの初めて聞いたぞ
父親と交流のあったギャンブル仲間や入院仲間たち(佐藤二郎もその一人として出演していますが、喋り方がまんま「ジローさん」で笑えます。)の挨拶は、かなり個性的ですが、愛情のこもったあったかい言葉に溢れてて、誰もが父の死を心から悲しんでいます。お人好しで頼まれたら嫌と言わず、自分もお金がないのに他人の金の工面までしてやり、居場所のない奴を家に同居させてやり・・・それは兄弟の知らない父の姿です。でも、コウジの過去の回想が加わることで「うんうん、そうだよね、確かに優しいお父さんだったよね」と思わせられるんですね~~
兄が「その人の人生の価値は葬式でわかる」というようなことを言いますが、初めに出てきた盛大な葬儀の故人は、実は会葬者の中に仕込み(盛大にすすり泣いていた女性もその中の一人だったと最後に明かされます)もいて、本当には誰も悲しんでいないんですね。 逆に父の葬式は質素で会葬者も少ないけれど、心のある血の通ったあたたかい式です。兄の言葉は葬儀の規模や参列者の数のことを示したものだったと思うのですが、実は中身の問題だったのだと、観る側は気付くのです。
彼らの挨拶を最初は唖然と聞いていた兄が、次第に感情を高ぶらせ、遂には喪主挨拶の途中で飛び出していってしまいますが、今まで抱いていた父への負の感情が、本当の父の姿を知ったことで混乱した結果ですよね。いや、実は家族の誰もがそんな父を心のどこかでは愛していたのだと思います。
いくら根は善い人でも、こんな父は困ってしまいますが、余韻の残る作品でした。