杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

リスペクト

2021年11月05日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2021年11月5日公開 アメリカ 146分 G

少女の頃から、その抜群の歌唱力で天才と称され、煌びやかなショービズ界の華となったアレサ(ジェニファー・ハドソン)。しかし、彼女の成功の裏には、尊敬する父(フォレスト・ウィテカー)、愛する夫(マーロン・ウェイアンズ)からの束縛や裏切りがあった。極限まで追い詰められる中、すべてを捨て、自分の力で生きていく覚悟を決めたアレサは、ステージに立ち観客にこう語り掛ける。「この曲を、不当に扱われている全ての人に贈ります」自らの心の叫びを込めた圧倒的な歌声は、やがて世界を歓喜と興奮で包み込んでいく。

 

伝説的歌姫アレサ・フランクリンの半生をアレサ本人から生前に指名されたハドソンが演じ、圧巻の歌唱力とパフォーマンスで魅了しています。

「リスペクト」「貴方だけを愛して」「シンク」「ナチュラル・ウーマン」など数々の名曲も見所(聴き所)です。

アレサは父・姉妹・祖母とミシガン州・デトロイトで暮らしていました。父親はバプティスト派の牧師で高名な説教者で、母親(オードラ・マクドナルド)は別居していますが、子供たちとは頻繁に会っていました。ところがアレサが10歳の時、心臓発作で亡くなってしまいます。母を慕っていたアレサはショックで言葉を話すことができなくなりますが、父は彼女に教会で賛美歌を歌わせることで「治療」します。

父が家に大勢の客を招いて開くパーティーで、アレサは請われるままに歌を披露していましたが、ある時、客の一人から思わぬ被害を受けてしまいます。10代で二人の男の子の母(少し時間が飛ぶので出産については何も語られていません。)となったアレサは、祖母に子供たちの世話を任せて父の説教巡回に同行して讃美歌を披露していました。二人の活動は、黒人社会の中では有名で、黒人公民権の運動家のマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師とも親交がありました。しかしこの頃になるとアレサは父の束縛を嫌がるようになります。そんな時、テッドと出会うのですが、父は彼を嫌い追い出し、アレサにNY行きのチケットを渡してコロンビアレコード社長のジョン・ハモンドを訪れ、契約に成功します。

4枚のレコードを出したもののヒット曲に恵まれずにいたアレサにダイナ・ワシントンは「自分が歌いたいと思う歌を歌いなさい」と忠告を与えます。テッドと再会し交際を始めたアレサはヒットが出ないストレスもありレコーディングをすっぽかして父と気まずくなります。父が自分を見限り姉妹をデビューさせようとしていると知ったアレサは、テッドを新しいマネージャーにして家族の元を去ります。

二人は結婚し息子が生まれますが、相変わらずヒットには恵まれず、遂に契約を切られてしまいます。更にテッドはアレサの意向を無視して勝手にスケジュールを決めてしまい、二人の間に温度差が生じます。

アトランティックレコードのプロデューサー、ジェリー・ウェクスラーと契約した二人は、アルバム制作のためにアラバマ州マッスル・ショールズを訪れます。NYに比べたら「田舎」で、おまけにミュージシャングループのスワンパーズは全員白人という状況に不機嫌になるテッドでしたが、アレサは彼らとのセッションに手応えを感じます。その「貴方だけを愛して(I Never Loved a Man the Way In Love You)」のレコーディングの様子は音楽関係者でなくても鳥肌ものです

レコーディングは順調に進んでいましたが、自分の思い通りに進まないことが気にくわないテッドはスタジオマネージャーとケンカし、アレサにも暴力を振るって予定を早めてNYに戻ります。彼のDVはエスカレートしていき、アレサは息子を連れて実家に戻ります。喧嘩別れのように家を出た彼女を家族は優しく迎え入れ、久々に平穏な時間を過ごしていたアレサですが、「貴方だけを愛して」がビルボードで最高2位に達したことで芸能活動を再開します。テッドの謝罪を受け入れてよりを戻したアレサは、姉妹のアーマとキャロリンをバックコーラスに加えてオーティス・レディングの「リスペクト(RESPECT)」をアレンジ・カバーし大ヒットとなります。キング牧師から賞を授与され「アレサ・フランクリンの日」も定められ順風満帆に見えましたが、テッドの暴力が再び頭をもたげます。メンフィスでの公民権運動に参加したいといったアレサに暴力を振るった事が記事になり、アレサはテッドとの結婚生活に見切りをつけます。その後、アレサはツアーマネージャーのケン・カニングハムと交際し、4人目の子供が生まれます。

7年後、キング牧師の暗殺事件が起こり、アレサは彼に歌を捧げますが、その晩、父親と口論となり再度袂を分かつのです。

ヒットを飛ばす一方、過度の重圧から逃れようと酒や薬物の依存症となり、家族の手助けも拒絶して独りになったアレサですが、亡くなった母親が傍にきて優しく抱き寄せてくれる幻覚を見たことで、やり直す決心をします。アルコール依存症を克服したアレサは、自分のルーツである讃美歌を歌いたいと考え、ジェリーにアルバムを作りたいと伝えます。讃美歌は売れないと渋るジェリーでしたが、アレサの決意が固いと知って、制作過程をドキュメンタリーとして録画することを提案します。アレサは同意し、讃美歌の第一人者のジェームズ・クリーブランドの協力を得て制作にとりかかります。不安に押しつぶされそうなアレサにジェームズは「神のご加護が感じられる教会で、賛美歌を歌うことだけに集中すればいい」と助言します。子供の頃から家族ぐるみの付き合いのあるジェームズのその言葉に強く背中を押され、また当日教会に現れた父と和解できたこともあり、「アメージング・グレース」のレコーディングは無事終了し、この讃美歌アルバム「至上の愛チャーチ・コンサート」は彼女の一番の売り上げを記録し200万枚以上を売り上げたのでした。

人気商売につきものの孤独と周囲の人間への不信感、自身の驕り、逃避の手段としてのお酒や薬物。お決まりの展開ですが、彼女の場合は信仰心が正しい道へと引き戻してくれます。凄いぞ!信仰の力

裕福な牧師の娘という環境で育った彼女には、貧しさからくる飢えや渇望感はないけれど、幼い時に受けた「暴力」と結果としての妊娠が、心に深い傷を残していることは伝わってきます。良き理解者だった母を喪い、父の束縛に苛立ち、愛する夫はDV男と悲劇を突き進んでいるようにみえて、大事な局面ではしっかり家族が手を差し伸べているんですね。アレサが傷ついて戻ってくるのはいつも実家。手を広げて「お帰り」と迎えてくれる優しい祖母や、敢えて辛辣な言葉を投げかける姉妹もいて、決してアレサは不幸ではなかったし、立ち直ることも出来たのだと思いました。 そして不当な扱いを受けた経験が彼女を女性解放・人種差別撤廃運動に駆り立てたとも考えられます。

正直、アレサって誰?状態だったのですが、オバマ大統領就任式で歌ったニュースは聞いたことがあるような。 映画に登場する曲も一度は耳にしているものばかりですが、今回はその歌詞に彼女の半生を重ねて聴いてしまいました。 それにしてもジェニファー・ハドソンの迫力ある歌声は圧巻でした。


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