杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ホテルローヤル

2021年11月21日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年11月13日公開 104分 PG12

北海道、釧路湿原を望む高台のラブホテル。雅代(波瑠)は美大受験に失敗し、居心地の悪さを感じながら、家業であるホテルを手伝うことに。アダルトグッズ会社の営業、宮川(松山ケンイチ)への恋心を秘めつつ黙々と仕事をこなす日々。甲斐性のない父、大吉(安田顕)に代わり半ば諦めるように継いだホテルには、「非日常」を求めて様々な人が訪れる。投稿ヌード写真の撮影をするカップル、子育てと親の介護に追われる夫婦、行き場を失った女子高生(伊藤沙莉)と妻に裏切られた高校教師(岡山天音)。そんな中、一室で心中事件が起こり、ホテルはマスコミの標的に。さらに大吉が病に倒れ、雅代はホテルと、そして「自分の人生」に初めて向き合っていく・・・。(公式HPより)

 

桜木紫乃の自伝的小説が原作。桜木の実家だったラブホテルを舞台にした七編の連作を、現代と過去を交錯させ一つの物語として映像化しています。監督は武正晴。脚本は、連続テレビ小説「エール」を手がけた清水友佳子です。誰にも言えない秘密や孤独を抱えた人々が訪れるホテルローヤル。そんなホテルと共に人生を歩む雅代が見つめてきた、切ない人間模様と人生の哀歓が描かれます。

冒頭に登場するのは貴史と美幸のカップル。ヌード写真のモデルを頼まれ、釧路湿原を見下ろせる高台の上に建つホテル・ローヤルに連れて行かれます。カメラマンの夢に酔いしれる貴史についていけない美幸。撮影が進むにつれ二人の心の距離は離れていきます。

恵(内田慈)と夫の真一(正名僕蔵)は墓参りの予定を住職に忘れられ、財布から出る予定の五千円でホテルに行きます。狭い家で介護する親と子供たちと暮らしお金に余裕のない夫婦がホテルで過ごす二人だけのかけがえのない幸せな時間がそこにありました。またお金を貯めて来ようねと約束しあってホテルを出る二人です。

ホテルローヤルの掃除婦として働くミコ(余貴美子)は息子の仕送りに喜びますが、後日彼が悪事を働き逮捕されたことをニュースで知ります。雅代の母るり子(夏川結衣)や同僚はミコを気遣い帰しますが、夜になって妻が帰ってこないと夫がやってきて、皆で捜索することに。林の中でうずくまり星を見ながら子供時代を思い返すミコを夫が見つけて背負って帰るシーンに胸が熱くなりました。

高校教師の野島と担任の女生徒まりあ。カップルに見えた二人ですが、実は野島は妻の不倫に気付きながら何も出来ずにいて、まりあは二親から捨てられ孤独を抱えていました。互いの苦悩に共感共鳴した二人は心中してしまうのです。

るり子が不倫相手と去り、大吉が病を得て亡くなったことや、心中事件で客足が遠のいたことで、雅代はホテルを閉めることを決断します。(アダルト玩具販売会社は通称『えっち屋』なのね)宮川を呼んで玩具の引き取りを依頼した雅代は、宮川に新しい旅立ちのためホテルの部屋で玩具を使って抱いて欲しいとお願いをします。行為は成立しなかったけれど、雅代の中でそれは自分の想いに別れを告げる儀式でもあったのかな。

最後に登場するエピソードは、大吉とるり子の若き日の話で、二人でホテルを開業したきっかけが描かれます。二人は不倫関係で妊娠が判明して駆け落ちしていたのね。後にるり子が若い男と不倫して家を出ていくのも因果は巡るというか・・・。 ホテルの名前はつわりのるり子のために買ってきた蜜柑のブランドから付けられていました。ホテルの客室に蜜柑を欠かさず置く理由もそこにあったことがわかります。夢や希望の詰まっていたホテルの歴史が描かれることで物語に人生の深みを感じさせる余韻を与えていました。

だから何なの?という見方もあるけれど、どんな場所にも人の想いが詰まっているんだなぁと感じさせてくれるお話でした。

画家を夢見ていた雅代の部屋の窓枠がキャンバスのようで、外の景色が季節で変わる様が一幅の絵のように見えたのが印象的でした。

彼女はホテルを閉める時、描いていた絵を手に持ち部屋を出るのですが、廊下に置いて(捨てて?)行きます。それはホテルとも夢(画家)とも決別した証なのかな?


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