2021年3月26日公開 105分 G
一本の川を挟んで「朝9時から夕方5時まで」規則正しく戦争をしている二つの町。津平町に暮らす露木(前原滉)は、真面目な兵隊だ。朝から川岸に出勤し、お昼は気まぐれなおばさん(片桐はいり)の定食屋。夕方になれば、物知りなおじさん(嶋田久作)の煮物を買って帰って、眠るだけ。川の向こうの太原町をよく知るひとはいない。だけど、とてもコワイらしい。ある日突然、露木が言い渡されたのは、音楽隊への人事異動?! 家で埃を被ったトランペットを引っ張り出したはいいものの、明日からどこへ出勤すればいいのやら…。そんな中、ひょんなことから出会ったのは向こう岸から聞こえる音楽だった。その音色に少しずつ心を惹かれていく一方、町では「新部隊と新兵器がやってくる」噂が広がっていて 。(公式HPより)
不条理な世界で生きる人間たちをユーモラスかつシニカルに描いた作品です。
いつの時代でもない架空の町が舞台で、川の向こう岸の町と、目的も分からない戦争を何十年も続けているのです。朝9時から夕方5時までと時間も決まっています。まるで会社に行くみたいに兵隊たちは出勤し仕事として銃を撃っているのです。
露木の同僚は、昇進することを夢見る藤間(今野浩喜)。毎朝、肝心なことばかり忘れてしまう町長(石橋蓮司)の訓示を聞き流して川岸へ出勤して昼は定食屋でご飯を食べます。おばさんの息子はもっと上流で兵隊として働いていると自慢します。どうやら上流に行くほど戦争は激しいらしくそこでの任務は出世コースらしい。昇進志向の藤間にはご飯の盛りが良いのですが否定的なことを言うと減らされます。まるでコントそれも無表情での会話なのがシュールです。
仕事が終わると煮物屋でおかずを買って帰ります。ある日煮物を盗んだ三戸(中島広稀)が捕まり、兵隊になります。本当は平一(清水尚弥)も盗んだのですが、彼は町長の息子だったので警官になるんですね。町長の秘書?は子供が出来ないからと妻の春子(橋本マナミ)を捨て若い愛人を妻にするし、この不条理さが何とも言えません 後に藤間と春子がくっついて子供が出来るというのも凄い皮肉だ
新しくやってきた技術者・仁科(矢部太郎)や、転属になった露木が所属する隊の場所を受付で聞いても全く要領を得ない問答が続くのは「お役所仕事」への痛烈な皮肉とも受け取れますね。ちなみに藤間は被弾して右手を失い除隊になりますが、その際の押し問答も同様です。
ようやく「自力で」探し当てた楽隊の基地は薄暗い地下。27代目指揮者兼、自称楽隊の頭脳・伊達(きたろう)は女性へのパワハラ男です。それまでいじめの対象だった女性が楽団員とカップルになり子供が出来たと知るとそのターゲットがそれまでおだてていた別の女性にシフトするのもえげつない 優秀なトランペット奏者・大木を演じていたのは竹中直人ですが・・・気付かなかった
そんな中、聞こえてきた川向うから聞こえるトランペットの音。同じトランペット奏者の露木はその音色に惹かれていき、やがて川のこちらとあちらで合奏するようになるのですが・・・
新兵器が出来、その一発で向こう岸の町が大変な被害が出ます。まるで原爆のような凄まじい威力です。次に待っているのは…当然相手の報復ですよね。露木が目にしたのは流木に引っかかった合奏の相手らしい女性の死体と楽器。
映画はここで終わります。
理由も目的もとうにわからなくなっている戦争を疑問すら持たず惰性で続けている町の人々。上からの指示を疑いも持たずに受け入れ言われるままに動く毎日の中でも絶えない、権力や男女・身体への差別の悩みは普遍です。あくまで架空の町の架空のお話なのに、現実にある日常と地続きにあることが何より背筋を凍らせました。笑っているうちに笑えなくなる、そんな作品かも。