2017年1月28日公開 イギリス 111分 PG12
自閉症スペクトラムと診断されたネイサン(エイサ・バターフィールド)は、他人とのコミュニケーションは苦手だが、数学に関してはずば抜けた才能を持っていた。普通の学校では適応できない息子の才能を伸ばそうと、母のジュリー(サリー・ホーキンス)は数学教師ハンフリーズ(レイフ・スポール)に個人指導を依頼。ネイサンは国際数学オリンピックのイギリス代表チームの一員に選ばれるまでになる。(映画.comより)
国際数学オリンピックで金メダルを目指す天才少年を描いたドラマで、数学のように正解のない様々な感情に揺れる少年の内面が描かれた作品です。
ネイサンのモデルになったのは、アスペルガー症候群と診断されながらも2006年の国際数学オリンピックで銀メダルに輝いたダニエル・ライトウィングです。(ウィキより)
ネイサンの父は、数字や図形に強い興味を示す息子の良き理解者で、ネイサンも父によく懐いていました。けれど、ある朝、父の運転する車の助手席で事故に遭い、父は亡くなってしまいます。(このエピソードの描写が真に迫っていてPG12の理由かな?)
大好きな父を喪ったことでますます頑なになっていくネイサンは、度々母を困らせてしまいます。彼の強いこだわりは、例えば好物の中華料理のエビの数も素数でなければなりません。心から愛している息子が懐いてくれず心を閉ざしていることに、母は深い孤独を感じていました。
9歳になったネイサン(エドワード・ベイカー=クローズ )は小学校では教えきれないため、数学を高校の教師マーティンに個人授業で教えてもらうことになります。マーティンはかつて数学オリンピックにも出場したことがあるのです。多発性硬化症を発症し希望を失っていたマーティンでしたが、ネイサンを教えることで少しずつ変わっていきます。ネイサンの方もマーティンに気を許して数学の力もどんどんUPしていきます。母にとってもマーティンの存在は心安らぐものになっていきました。
高校生になったネイサンは、国際数学オリンピックのイギリス代表チームの選抜候補に選ばれて、台北での合宿に参加することになり、初めて家を離れ一人で行動することになります。代表チームの監督リチャード(エディ・マーサン)とマーティンは、かつての代表仲間でした。
候補生は16人です。合宿では強豪国である中国の高校生たちとペアを組んで勉強することになり、ネイサンはペアになったチャン・メイ(ジョー・ヤン)と、英語と北京語で会話して心を通わせ互いに好意を持つようになります。
その頃、母は、マーティンに頼んで数学を習い始めていました。数学が苦手な彼女はネイサンと少しでも心を通わせたかったのです。
授業で見事に証明問題を解いて皆から拍手をもらったネイサンは誇らしい気持ちになります。その一方で、周囲から浮いて協調性のないルーク(ジェイク・ディヴィス)が他のメンバーから「彼は自閉症スペクトラムだ」と陰口を叩かれているのを耳にして複雑な気持ちになります。
マーティンは、これまで拒否していたグループミーティングに参加して、やがて身体が動かなくなるため恋愛に踏み出せない悩みを語ります。
リチャードに呼び出されたネイサンは、マーティンが数学オリンピックで失敗したのは病気のせいではなく心の弱さに原因があったと言い、君も強くならねばと説いてチャン・メイとの交際もほどほどにと忠告します。
ルークとの接戦を制して6人目で選ばれたネイサンは、中国代表入りを果たしたチャン・メイと一緒に家に帰ってきます。相変わらずそっけないネイサンですが、チャン・メイを思い遣る姿を見て母は喜びます。
大会前日。ケンブリッジ入りしてトリニティ・カレッジの寮で休んでいるネイサンの部屋にチャン・メイがやってきて、そのまま寝入ってしまいます。朝、中国代表の監督が部屋にやってきて、親戚の恥さらしだとチャン・メイを叱りつけると、監督と親戚だからコネで選ばれたというなら大会に出ないと言って部屋を飛び出していきます。
試験が始まる中、突然席を立って会場を出て行ったネイサンを慌てて追いかけるリチャードをボランティアとして参加していたマーティンが止めます。会場の外で待っていた母はネイサンが走り出てきたことに驚きますが、マーティンから「彼の目を見たら安易に止めることができなかった」と言われて頷きました。
中華料理屋にいたネイサンを見つけた母は、初めて息子とじっくり話をします。父の死、チャン・メイのこと、そして「愛」というものについて。
チャン・メイを探すため駅に向かおうと車に乗り込んだ時、これまで母の隣を嫌がっていた(事故の記憶がトラウマになっていた可能性もある?)ネイサンが助手席に乗り込んできます。その姿を見て、長い間の孤独がゆっくり溶けていくような気がする母なのでした。
少しずつ周囲と関わりを持って成長していくネイサンが主人公ではあるけれど、彼の母の気持ちも十分すぎるほど伝わってきます。時に感情を露わにすることもあるけれど、大抵は息子を精一杯理解しようとする良き母親であり、何とか彼の愛を自分にも向けて欲しいと願ってもいます。ラストで助手席に乗ってきた息子に、夫同様に受け入れられたことへの喜びが溢れているように思えました。