小野寺史宣(著) 講談社(刊)
同い年の妻が事故で死んだ。それから3ヵ月、心が動かない。北野は亡き妻の鍵のかかった携帯電話に、4ケタの数字を順番に打ち込むだけの毎日を過ごしていた。ついにロックの解けた携帯には、妻の秘密が残されていた。4年間を一緒に過ごした女性のことを、僕は何も知らなかったのかもしれない―北野俊英、33歳。喪ってから始まる、妻の姿を追いかける旅。(「BOOK」データベースより)
ある日突然かかってきた電話は、妻・絵美の死を告げるものでした。
友だちと一泊旅行に行くと言った妻は、宿に向かう途中で乗っていたタクシーが転落して死亡したのです。
絵美の死を受け入れられない北野は、現実から目を逸らすように毎晩ビールのロング缶を4本空けながら、無事だった彼女の携帯電話のロックを外すために暗証番号を1万通りの組み合わせの0000から打ち込んでいきます。
解除して中を見ることが重要なのではなく、その行為に没頭することで現実から逃避していたのかも。
ある日5963で突如として解除された電話のメールにはどう見ても男性からの5通のメールが残されていました。ショックを受けた北野は、「8」と登録されていたその相手を突き止めようとします。
ふとしたことからそれが絵美の姉・久美の婚約者の秋山栄人だと知った北野は、思わず栄人(エイト)を呼び出して問い詰めますが、彼は理由を作ったのは北野自身だと突き放します。
絵美は3年前に流産していましたが、北野はその後の妻への距離感を読み間違えていたのです。久美からも、北野が気付いていなかった絵美の別の顔を指摘され当惑します。
浮気をした妻ではなく自分に非があるのか?これはなかなか認めがたいことです。ただ、ここまで読むと、北野という男がこれまでの人生においてどこか投げやりだったのではないかと思わされます。相手に真っ直ぐ向き合おうとせずに全てにおいて逃げを打っているような印象なのです。
流産を夫と共に悲しみ苦しみ、共に乗り越えたかった絵美は、(夫にすれば「優しさ」であり「気遣い」だったのですが)夫から突き放されてしまったと感じ、夫以外の近くにいる「誰か」に救いを求めたのかもしれません。絵美は
栄人だけではなく北野の弟の優平にも声をかけていましたが、二人とも絵美に誘惑されたというのではなく、彼女の傷に寄り添ってあげただけという気もします。彼女が一番一緒にいたかったのはそれこそ夫だった筈なのです。
優平は名前の通りに優しく心の広い穏やかな人であり、栄人は北野が抱いた第一印象の「頭の切れる理系」ではあるけれど、実はやはり優しく人間のできた男だと示されます。
妻の死から3カ月が経つ9月から始まる物語は、一年が経つ6月で終わります。
北野が妻の死を受け入れ、前に進むための時間でもあったように感じました。
ところで、このストーリー展開をTVドラマで見た事があるような気がするのだけれど、思い出せない(^^;