杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

シャイロックの子供たち ネタバレあり

2023年02月17日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年2月17日公開 122分 G

東京第一銀行・長原支店で現金紛失事件が発生した。ベテランお客様係の西木雅博(阿部サダヲ)は、同じ支店に勤務する北川愛理(上戸彩)、田端洋司(玉森裕太)とともに、事件の裏側を探っていく。西木たちは事件に隠されたある事実にたどりつくが、それはメガバンクを揺るがす不祥事の始まりにすぎなかった。
(映画.comより)


井戸潤の同名ー小説の映画化で、監督は「空飛ぶタイヤ」を手がけた本木克英。小説版、ドラマ版にはない映画独自のキャラクターが登場する完全オリジナルストーリーだそうな。ドラマ見てないな~と思ったらWOWOW放送だったのね。

冒頭で登場するのは佐々木蔵之介演じる黒田。妻と舞台「ベニスの商人」(劇団四季協力)を観劇しながら何やら苦い過去を抱えている様子。妻が「シャイロックは悪役だけど、そもそも金を返さない方が悪いのでは」との感想に「金は返せば良いというものでもない」と心の中で呟いています。
そして場面は銀行のATMの裏側へ転換。黒田と九条の出会いのシーンが伏線になっていました。

東京第一銀行長原支店は業績に伸び悩んでいて、支店長の九条(柳葉敏郎)や副支店長の古川(杉本哲太)の部下への圧力も増していきます。
お客様一課の滝野(佐藤隆太)がかろうじて業績を上げる中、課長代理の遠藤(忍成修吾)は追い詰められていき、遂には心の病を発症してしまいます。巨額の融資を取り付けたと課長の鹿島(渡辺いっけい)を連れて行った先が神社の狛犬という切ないエピソードも盛り込まれ、絶句し頭を下げる課長の姿に同情を禁じ得ませんでした。

一方、滝野は、赤坂支店時代の顧客の石本(橋爪功)から10億の融資話を持ち掛けられます。虚偽と知りつつ加担したのは、石本に弱みを握られていたことと、融資がうまくいけば出世ができるという欲があったから。ところが融資が下りてわずか三か月で石本から資金繰りが苦しくなったと一方的に支払いの肩代わりを頼まれます。困った滝野は、田端が融資先に持っていくお金から1束(100万円)抜いてしまいます。行内とはいえ、田端はお金を置いたまま机を離れていて、普段から札束を扱っていることの慣れと、まさか身内が盗むなんて思わない油断から起こった出来事ですね。

紛失が判明して行員総出で探しますが、当然見つかる筈もなく・・・ここで重要なポイントとなるのは、札束の帯封です。休憩室に落ちていたそれを北川を快く思っていない半田(木南晴夏)が拾って、嫌がらせで北川のBAGに入れたことから北川が疑われます。彼女が否定し、西木が警察に届けて帯封の指紋を調べれば犯人がわかると進言したことで、事件はうやむやにされます。九条や古川ら上役4人がポケットマネーで補填し表向きは「見つかった」とされたのです。これは、銀行に限らないけれど絶対やってはならない掟破りです。

西木はこの紛失騒ぎの際に、ゴミ袋の中から振り込み用紙を見つけていました。それが滝野の筆跡と気付き、彼が犯人だと推測します。半田の行為にも気付いた西木は彼女から帯封を拾った場所を聞いて確信を深めます。

石本の融資がこげついたことから検査が入ります。検査部次長の黒田(佐々木蔵之介)は、行員たちの聞き取りから100万円紛失の件を知って問い質しますが、九条から、過去の件で脅されてそれについては不問とします。穏やかな支店長の顔から一転、ずる賢さが顔を出す瞬間でした。

西木は、この融資自体にきな臭さを感じて調べ始め、九条と石本の関係に気付きます。西木は滝野に、彼が初めから九条たちの計画の駒にされていたことを告げ、この先どうすればよいのかは自分で判断するしかないと言います。

西木は、飲み仲間の沢崎(柄本明)を抱き込んで、北川や田端の協力も得て、石本と九条をはめる計画を立てます。沢崎は西木に所有している不良動産の相談を持ち掛けていましたが、それを利用した大博打です。ギャンブルが嵩じて出世コースから外れた九条にとって、銀行に損失を与えることより、石本と組んで得られる報酬の方が魅力だったわけですが、欲の皮が突っ張った人間は脇が甘くなるものなんだな~~と思わされます。
この騙しの場面は観ていてドキドキしてスリルがありました。

西木は沢崎から報酬を受け取り債務(兄の連帯保証人となって負債を抱えていました)を返済すると銀行を辞めて姿を消します。黒田も銀行を辞めて別の職に就いていました。競馬場での九条とのやりとりで、黒田も過去の自分の罪と向き合ったのだと伝わってきました。
罪に問われ刑に服していた滝野の出所当日、妻子が待っていました。彼もきちんと罪を償い、家族と再び前を向いて生きていくのだとわかるシーンです。

黒田も滝野も罪と向き合いましたが、西木はどうなんだろ?沢崎と組んで石本たちを嵌めたのは「倍返し」のリベンジとはいえ、やはり詐欺には違いない。
自分の落ち度ではない借金を返すためとはいえ沢崎から報酬を受け取るのも「まっとうな銀行員」とは言えない。だから銀行を辞めたのでしょうけど・・・。ちょっともやもやが残りますね。

芸達者な役者揃いの中でもやはり橋爪さんと柄本さんが素晴らしかったです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする