杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

オフィサー・アンド・スパイ

2023年02月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年6月3日公開 フランス=イタリア 131分 G

1894年、ユダヤ系のフランス陸軍大尉ドレフュス(ルイ・ガレル)が、ドイツに軍事機密を漏洩したスパイ容疑で終身刑を言い渡された。対敵情報活動を率いるピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)はドレフュスの無実を示す証拠を発見し上官に対処を迫るが、隠蔽を図ろうとする上層部から左遷を命じられてしまう。ピカールは作家ゾラらに支援を求め、腐敗した権力や反ユダヤ勢力との過酷な闘いに身を投じていく。(映画.comより)


ロマン・ポランスキー 監督によるフランスで実際に起きた冤罪事件“ドレフュス事件”を映画化した歴史サスペンスで、ロバート・ハリスの同名小説を原作に、権力に立ち向かった男の不屈の闘いと逆転劇が描かれます。

パリの広場で民衆の侮蔑の中、官位を剝奪され剣を折られ、除隊を宣告されながらも身の潔白を叫ぶアルフレド・ドレフュス大尉でしたが、終身刑となり悪魔島(監獄島)に流されます。その1年前に、陸軍内部に情報漏洩者がいる疑惑が浮上し、筆跡が似ていたことと、ユダヤ人であることから彼が逮捕されたのです。

かつてドレフュスを教えたジョルジュ・ピカール大佐は採点について意見を求めてきたドレフュスに、ユダヤ人は好きではないが成績を不当に下げるようなことはしないと言ったことを思い出していました。

上司の退任に伴い防諜局長に抜擢されたピカールは、ふとしたきっかけから機密情報を漏洩したのが陸軍少佐のフェルディナン・バルザン・エステルアジだと気付きます。そのことを将軍に報告しますが、軍の信用問題に関わるからとそれ以上の調査を禁じられ、更にチュニジアの奥地に左遷されます。それでも諦めずに調査を続けるピカールでしたが、上官はドレフュスが犯人だという証拠を捏造し、更にピカールと愛人のポーリーヌ(エマニュエル・セニエ )の不倫をネタに脅します。

エステルアジは軍法会議にかけられますが無罪となり、ピカールはユダヤ人を擁護したと世間から叩かれますが、一方でドレフュスの兄や作家のエミール・ゾラらピカールに賛同し協力を名乗り出る者も現れます。

ピカールは逮捕され刑務所に入ります。
ゾラは『私は告発する』と題した公開状で軍の不正を弾劾してドレフュスを犯人に仕立て上げた軍の高官たちを名指しで告発したことで有罪になりますが、ドレフュスの再審を求める動きが活発になり、政府も無視できなくなります。

しかしドレフュスの弁護人のラボリ(メルヴィル・プポー )が何者かに射殺されてしまい、裁判でドレフュスの潔白を証明できないまま再び有罪判決が下ります。

1899年。大統領の特赦でドレフュスは悪魔島から釈放され、その後に無罪が確定します。昇格して政府高官となっていたピカールに面会したドレフュスは、自分の昇格を要求しましたが拒否されます。当時はまだユダヤ人への反発が根強く残っていたため、ピカールの力が及ばなかったからです。ピカールとドレフュスが会ったのはこの日が最後でした。

将軍たち軍の上層部も政府も過ちを認めようとせず、隠蔽を重ねる構図はいつの世も同じです。彼らは決まって軍や政府の信頼を守るためと言い訳しますが、結局のところ自分たちの経歴に汚点が憑くのが嫌なのです。ピカールにもユダヤ人への差別意識がありますが、公平であろうとし、間違ったことを正そうと動きます。それはドレフュス個人への同情などではなく、ただひたすら自分の正義に突き動かされているように見えました。もし彼が日和見や出世を願う男だったら、たやすく上司たちの言いなりになっていたでしょう。例えば防諜局の部下アンリのように。(アンリは局長の座をピカールに奪われた上にそれまでの仕事にケチを付けられたことでピカールに敵愾心を抱いたとも言えますが)
ただし、ピカール自身は清廉潔白な人物とも言えないところが引っかかるところではありますが、人間味があるともいえるのかな。

もしドレフュスとピカールの間に友情が介在していたらもっと違った描き方になっていたかもですが、敢えて彼らの関係を希薄にすることで、不正と隠蔽に焦点を当てているように感じました。

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夕映え天使

2023年02月23日 | 
浅田次郎(著) 新潮文庫

東京の片隅で、中年店主が老いた父親を抱えながらほそぼそとやっている中華料理屋「昭和軒」。そこへ、住み込みで働きたいと、わけありげな女性があらわれ…「夕映え天使」。定年を目前に控え、三陸へひとり旅に出た警官。漁師町で寒さしのぎと喫茶店へ入るが、目の前で珈琲を淹れている男は、交番の手配書で見慣れたあの…「琥珀」。人生の喜怒哀楽が、心に沁みいる六篇。(「BOOK」データベースより)

1.夕映え天使
一浪が父親と営む中華屋に住み込みで働かせて欲しいと現れた純子は、半年過ぎた頃にまた突然消えてしまった。それから一年以上経った正月明けにかかってきた一本の電話は軽井沢の警察からだった。身元不明の遺体が持っていた唯一の品が一郎の店のマッチ箱と、関西のうどん屋の名刺だったことから連絡がきたのだった。純子が突然いなくなったのは父親が息子の再婚相手にと匂わせたからだと察していた一郎は、彼女が関西でも同じようにうどん屋の前から消えたことを知る。幸せに背を向け続けた彼女を想い改めて自分が純子に惚れていたことに気付く一郎。天使みたいな人だったと語り合う一郎とうどん屋だった。
彼女の過去が一切書かれていないことで、より一層薄幸な人生を浮き上がらせていました。

2.切符
オリンピックが日本で開催された年の話。両親が離婚して父方の祖父に引き取られた広志。ある日祖父の家に間借りしている八千代と女湯に入った彼は同級生の千香子に会って慌てる。口止めしようと千香子と友達になった広志は、同居していた男と別れ祖父の家を出ていく八千代に「さよなら」を何度も繰り返すことで別れを告げる。

戦地からただ一人復員した祖父は「シマツヤ」(戦友の家を訪ね歩いて焼香と香典をあげる)をすることが生き残った自分の務めと思っています。「最早戦後ではない」ことを示したオリンピックですが、祖父の中でまだ戦争の後始末は終わっていないのです。千香子は自分の本当の(朝鮮人)を隠すように親から言われています。八千代の相手は妻のある男でした。広志の両親とも再婚しており、祖父は広志のことを考えて母の引き取りたいという願いを拒絶していました。
母に会った時に渡された切符の裏に口紅で書かれた電話番号と、母が暮らしているであろう駅名、八千代にサヨナラを言った広志はその切符を捨てることで母とも決別する覚悟を決めたのね。

3.特別な一日
定年を迎えたマサヤは、最後の日を淡々といつものように過ごそうと決意している。
元カノの雅子の誘いをすげなく断り、社長となった同期入社の若月に本音をぶつけ、行きつけのガード下の飲み屋でいつものように酒を飲み、電車で同じように定年を迎えた独り身の男の誘いを拒否して帰宅する。祝いの食卓を囲んだあと、妻が丹精込めて今夜を迎えた庭の花たちを眺めながら・・・

何の変哲もない平凡なサラリーマンの述懐と思って読んで行くと、実はこの日が地球最後の日なのだとわかるSFめいた結末に驚きます。ちょっと星新一ワールドだな。

4.琥珀
定年間際の警察・米田が、有休消化のために出た旅先で入った喫茶店で、まもなく時効を迎える指名手配の犯人・川俣と遭遇します。
雪の舞う三陸の寂れた町の描写が寒々しく、店のドアの脇の琥珀色のステンドグラスから差し込む光が、米田と川俣の心に思いがけない変化をもたらします。
惚れていたが故に浮気が許せず妻を殺した川俣は、毎日妻の写真に彼女が好きだった珈琲を供え念仏を唱えてひたすら時効を待っていました。仕事にかまけて妻子に逃げられ、かといって功を成すこともないまま定年を迎える米田にとって、千載一遇の大手柄のチャンスでしたが、会話を交わすうちに気が変わります。二人の会話こそがこの話の焦点でもあります。

5.丘の上の白い家
貧しい環境に育った「僕」は子供の頃に出会った丘の上に建つ白い洋館に住む少女と高校生になって再会する機会を得ます。不良となっていた僕は、彼女との交際の先が見えて、代わりに同じ貧しい境遇だが自分と違って真っすぐな優等生の清田を紹介します。ところが二人が心中事件を起こし、清田だけが亡くなります。大人になり功を遂げた僕は没落したあの白い家を通りかかり老女に声をかけますがすげなく追い払われます。

「僕」が世俗の垢にまみれた不良だったのとは逆に、清田はどこまでも清く正しい心を持つ男でした。しかし、身分違いの悲しい恋の結末かとみせて、少女の身勝手な願望の道連れにされたという衝撃の事実が手紙という形で綴られます。何だかとても不条理な結末に心が重くなります。

6.樹海の人
作家が自衛隊員時代に遭遇した不思議な出来事が語られます。
憧れていた作家の自殺に触発されて衝動的に自衛隊に入隊した「私」は、通信兵の演習で樹海の奥深くに分け入ります。独り風雨に耐える過酷な訓練中、自殺願望者と思しき男と遭遇した私は、彼が奥に消えていくのを漫然と見送ります。その男は時空を超えて彷徨い出た未来の自分だと思ったから悔恨はないと言いつつ、その男の年齢を超えた今、別の理由を思いつく辺りは、心の奥底にもしやという疑念がくすぶっているからではと考えてしまいました。

鵜飼哲夫氏の解説を読んで、作者の生い立ちが短編の内容とリンクする部分があることに気付きました。人情話の作品しか知らなかったのでちょっと意外。

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鉄くずの騎士ラスティの物語

2023年02月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年製作 ドイツ 84分

すべてが鉄くずで出来た魔法の王国「スクラップランド」のお城で、ドラゴンのコール、少女ボーと暮らす鉄くずの騎士ラスティ。"騎士の競技会"でなんとしても優勝して、自分の勇敢さを証明したいラスティは、最新のエンジンを手に入れ、馬のチョッパーに搭載する。おかげで見事1位の座を勝ち取るが、そのエンジンは対戦相手のノベル王子から盗まれたものだった。ラスティは盗みの濡れ衣を着せられた上に、騎士の地位も取り上げられてしまう。一方、ノベル王子はスクラップランドを乗っ取るための計画を密かに進めていた。邪悪なノベル王子のたくらみを知ったラスティは、王国を守るために仲間と共に勇気を出して立ち上がる!(アマゾンあらすじ紹介より)


ドイツで愛され、ミュージカルにもなった絵本が原作です。

主人公のラスティは、レジの姿をしたスクラップランド王国の騎士です。この王国はお城も動物も雲すら鉄くずで出来ています。
ラスティはちょっとドン・キホーテを思わせるキャラで、我が道を突き進むタイプ。お調子者で、親友の女の子ボーの大切なミシンを勝手に馬のエンジンと交換したり、友だちであるドラゴンの首を刎ねようとするなど自分勝手なところもあります。それに本当は弱虫のびびり屋だったりもします。でも何だか憎めないところがあって、彼のピンチには大勢の仲間が集まって助けてくれるのでした。

騎士の身分を剥奪され住む城も追われたのに愛想をつかして出て行ったポーは彼女に一目惚れしたノベル王子の城に招かれ暮らすようになります。反省したラスティがミシンを持って王子の城にやってきますが、トラブルでそのミシンを壊してしまい、ボーと喧嘩別れになるんですね。
ミシンを修理しようとするボーが、「道具」を探し、スパナに協力してもらう中で、新品だけの王国にしようとしている王子の企みに気付きます。
惚れっぽいのに飽き性な王子は、飽きてしまった女性を次々閉じ込めていました。ボーは女性たちと城を逃げ出します。

一方、騎士の身分回復のためにはドラゴンと戦いその首を持って来なければならないラスティは、友だちであるドラゴンの首を刎ねようとします。おぃおぃ!代わりに別のドラゴン退治に出かけた二人は「インディジョーンズ」さながらのトロッコでの冒険を経て、何とか首を持ち帰ります。

ところが王様との謁見の最中に王子が乗り込んできて、王を拘束し王国を乗っ取り、ボーも再び捕まってしまいます。王子に戦いを挑んで捕まったラスティを助けるため、ボーは王子の要求を受け入れ后になると言います。

失意のラスティに力を貸したのは道具たちや大勢の仲間たちです。意外に人気者だったのね。
形勢不利と見て、気絶したボーを攫って逃げる王子の飛行船を自分の身体で止めようとするラスティはまさに騎士然としていました。
飛行船から落ちたボーを抱きとめるラスティ。絶体絶命の二人を双頭のドラゴンが助けます。ラスティに言い争いばかりしていた兄の首を持っていかれた弟でしたが、やっぱり寂しいと奪い返しにきたのね。

王子をやっつけ、騎士の身分を回復したラスティでしたが、城に落ち着こうとせず新たな冒険に出かけようとします。ボーもドラゴンも一緒にね。

双頭のドラゴンのキャラもとぼけた味わいがあり、子供に受けそう。



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