2022年6月3日公開 フランス=イタリア 131分 G
1894年、ユダヤ系のフランス陸軍大尉ドレフュス(ルイ・ガレル)が、ドイツに軍事機密を漏洩したスパイ容疑で終身刑を言い渡された。対敵情報活動を率いるピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)はドレフュスの無実を示す証拠を発見し上官に対処を迫るが、隠蔽を図ろうとする上層部から左遷を命じられてしまう。ピカールは作家ゾラらに支援を求め、腐敗した権力や反ユダヤ勢力との過酷な闘いに身を投じていく。(映画.comより)
ロマン・ポランスキー 監督によるフランスで実際に起きた冤罪事件“ドレフュス事件”を映画化した歴史サスペンスで、ロバート・ハリスの同名小説を原作に、権力に立ち向かった男の不屈の闘いと逆転劇が描かれます。
パリの広場で民衆の侮蔑の中、官位を剝奪され剣を折られ、除隊を宣告されながらも身の潔白を叫ぶアルフレド・ドレフュス大尉でしたが、終身刑となり悪魔島(監獄島)に流されます。その1年前に、陸軍内部に情報漏洩者がいる疑惑が浮上し、筆跡が似ていたことと、ユダヤ人であることから彼が逮捕されたのです。
かつてドレフュスを教えたジョルジュ・ピカール大佐は採点について意見を求めてきたドレフュスに、ユダヤ人は好きではないが成績を不当に下げるようなことはしないと言ったことを思い出していました。
上司の退任に伴い防諜局長に抜擢されたピカールは、ふとしたきっかけから機密情報を漏洩したのが陸軍少佐のフェルディナン・バルザン・エステルアジだと気付きます。そのことを将軍に報告しますが、軍の信用問題に関わるからとそれ以上の調査を禁じられ、更にチュニジアの奥地に左遷されます。それでも諦めずに調査を続けるピカールでしたが、上官はドレフュスが犯人だという証拠を捏造し、更にピカールと愛人のポーリーヌ(エマニュエル・セニエ )の不倫をネタに脅します。
エステルアジは軍法会議にかけられますが無罪となり、ピカールはユダヤ人を擁護したと世間から叩かれますが、一方でドレフュスの兄や作家のエミール・ゾラらピカールに賛同し協力を名乗り出る者も現れます。
ピカールは逮捕され刑務所に入ります。
ゾラは『私は告発する』と題した公開状で軍の不正を弾劾してドレフュスを犯人に仕立て上げた軍の高官たちを名指しで告発したことで有罪になりますが、ドレフュスの再審を求める動きが活発になり、政府も無視できなくなります。
しかしドレフュスの弁護人のラボリ(メルヴィル・プポー )が何者かに射殺されてしまい、裁判でドレフュスの潔白を証明できないまま再び有罪判決が下ります。
1899年。大統領の特赦でドレフュスは悪魔島から釈放され、その後に無罪が確定します。昇格して政府高官となっていたピカールに面会したドレフュスは、自分の昇格を要求しましたが拒否されます。当時はまだユダヤ人への反発が根強く残っていたため、ピカールの力が及ばなかったからです。ピカールとドレフュスが会ったのはこの日が最後でした。
将軍たち軍の上層部も政府も過ちを認めようとせず、隠蔽を重ねる構図はいつの世も同じです。彼らは決まって軍や政府の信頼を守るためと言い訳しますが、結局のところ自分たちの経歴に汚点が憑くのが嫌なのです。ピカールにもユダヤ人への差別意識がありますが、公平であろうとし、間違ったことを正そうと動きます。それはドレフュス個人への同情などではなく、ただひたすら自分の正義に突き動かされているように見えました。もし彼が日和見や出世を願う男だったら、たやすく上司たちの言いなりになっていたでしょう。例えば防諜局の部下アンリのように。(アンリは局長の座をピカールに奪われた上にそれまでの仕事にケチを付けられたことでピカールに敵愾心を抱いたとも言えますが)
ただし、ピカール自身は清廉潔白な人物とも言えないところが引っかかるところではありますが、人間味があるともいえるのかな。
もしドレフュスとピカールの間に友情が介在していたらもっと違った描き方になっていたかもですが、敢えて彼らの関係を希薄にすることで、不正と隠蔽に焦点を当てているように感じました。