2022年6月17日公開 118分 G
毎晩こっそりBL漫画を楽しんでいる17歳の女子高生・うらら(芦田愛菜)と、夫に先立たれ孤独に暮らす75歳の老婦人・雪(宮本信子)。ある日、うららがアルバイトする本屋に雪がやって来る。美しい表紙にひかれてBL漫画を手に取った雪は、初めてのぞく世界に驚きつつも、男の子たちが繰り広げる恋物語に魅了される。BL漫画の話題で意気投合したうららと雪は、雪の家の縁側で一緒に漫画を読んでは語り合うようになり、立場も年齢も超えて友情を育んでいく。(映画.comより)
鶴谷香央理の漫画「メタモルフォーゼの縁側」の実写映画化で、ボーイズラブ漫画を通してつながる女子高生と老婦人の交流を描いた人間ドラマです。
年齢も立場も肩書も全く異なる二人ですが、好きな漫画を一緒に読んで一緒に笑って一緒に泣いて、時には議論を交わします。夫に先立たれ独りで暮らす雪と、シングルマザーの忙しい母を持つうらら。共に寂しさを抱えた二人の58歳差の友情が眩しいくらいです。
暑さを凌ごうと本屋に逃げ込んだ市野井雪は、表紙絵に惹かれた「君のことだけ見ていたい」 というマンガを手に取りレジに向かいます。アルバイトの高校生・佐山うららがビックリした顔をしたのは、それが男性同士の恋愛を扱ったBL作品だったから。実はうららもBLが好きで部屋の段ボール箱にたくさん隠してあるのです。
一方家でマンガを読み始めた雪は、主人公の咲良が親友の佑真を秘かに思っている内容と1巻の終わりのキスシーンに驚き、続きが気になります。翌日、2巻を買いカフェで読んだ雪は、更に続きを買いに本屋に戻りますが見当たらず、うららに聞きます。思わず「貸しましょうか?」と言いそうになったのを飲み込み、うららは注文を受けます。3巻を受け取りに来た雪が、うららもBLを読んでいると知って、仕事終わりにお話したいと誘います。近くのカフェで嬉しそうにBLの話をする雪に戸惑いあまり話せないまま店を出たうららに雪は謝りますが、誘われたことは嬉しかったと話して二人は連絡先を交換しました。
その帰りに、幼馴染の河村紡(高橋恭平)と彼女の英莉(汐谷友希)に出会った麗は、会話もそこそこに走り去ってしまいます。
BL好きを母に隠しているうららは、受験についてもまだ目標を見つけられずにいます。雪から他のお薦めを教えてとメールを貰ったうららは、たくさんの本を抱えて雪の家を訪れます。広い庭を持つ日本家屋の雪の家の縁側で、「君のこと~」の作者のコメダ優(古川琴音)の過去作や似たような学園もの、日常系にファンタジー作品など次々取り出し、最後に「君のこと~」が連載されている月刊誌を渡すと、次のコミック発売まで待たなければならないと思っていた雪は喜びます。「君のこと~」のキャラの佑真と咲良を見ていると応援したくなると熱く語る雪に賛同し大盛り上がりの二人は、雪が作っておいたカレーを縁側で並んで食べました。
それからも二人はカフェでお喋りしたり、書道教室を営む雪から書道を習ったりと急速に仲良くなっていきました。
ある日、紡がお裾分けを持ってうららの家にやってきます。二人は同じ団地に暮らす幼馴染です。うららの部屋で「君のこと~」を見つけた紡は「慎重な割に脇が甘いんだよ」と何食わぬ顔で他のマンガを読み始めます。彼に気付かれないようBLマンガの入った段ボール箱を机の下へ押し込むうらら。幼馴染の親しさ以上の雰囲気があるな~~。
本屋でうららの部屋で見た「君のこと~」を手に取った紡は英莉に「こういうの読む?」と聞きます。興味はあると答えてBLを読み始めた英莉が、学校でも話題にしている様子を恨めしそうに眺めたうららは「ずるい」とつぶやきます。うららはBLを読むことを恥ずかしいと思っているので、明るく話題にするのが羨ましいのね。BLマンガと留学の本をレジに持ってきた英莉に思わず「ずるいよ。留学とかBLとかいろいろ…」と口にしてしまい、英莉に怪訝な顔をされます。彼女にしてみればわけわかんないよね~。(^^;
雪の家を訪ねると、彼女の娘の花江がいました。ノルウェーに住む花江は雪を心配して一緒に暮らそうと誘っていました。
雪からマンガを描くことを勧められ、「人って思ってもみないことになるものよ」と言われたうららは、借りた傘の内側の一面の薔薇を見て世界が開けた気がします。
「君のこと~」の作者のコメダ優はスランプに陥っていて、アシスタントから出された質問に好きなキャラクターを描いていつも一緒にいたかったという原点を思い出します。
うららはコミケに雪を誘いますが、腰の具合が悪そうなのを見て受験勉強を理由にコミケの話を断ってしまいます。進路調査票の提出に悩むうららが描いたノートのマンガを覗いた紡が「熱くなれるものがあって良いな」と話しかけてきます。
雪の家で、昔の少女マンガを見つけたうららに、雪は子供の頃の思い出を話します。ファンレターを書いた自分の字が汚くて出せず、書道を習い始めて気付いたら先生になっていたこと・・・「大事なものは、大事にしなきゃだめね」との言葉に一念発起したうららは5月のコミティア(オリジナル同人誌即売会)に自分の作品を出そうと決意し、雪も一緒に出ると大賛成してくれます。
道具を揃え、Youtubeで描き方を勉強するうららは挫けそうになったり悩んだりしながらも描くことを続けます。ある日、雪の書道教室の生徒で懇意にしている沼田(光石研)の印刷会社に連れて行かれたうららは、作品をオフセット印刷して製本する話を聞いて固まります。お金は雪が出させて欲しいと言い、10日で原稿を仕上げて欲しいと言われ覚悟を決めて必死に描き続けるうららです。
雪の家の縁側で窓ガラスに紙を押し当ててトレースするシーンがありますが、雪同様「私も同じことしてた」のを思い出して懐かしくなりました。
表紙の絵に水彩で色をつけて完成した原稿を沼田に預けた帰り道、うららは笑顔で「楽しかった」と呟きます。
コミティア当日。前夜に腰痛を発症した雪が行けなくなり、独り会場に向かったうららでしたが、周囲の雰囲気にのまれてしまい何も出来ずベンチでぼーっとしていると紡が現れて一冊買ってくれます。
一方、沼田にお願いして車で会場に向かった雪でしたが、車が故障して道端に座り込んでいるところにサングラスをかけたコミティア帰りの女性が心配して声をかけてきます。雪は状況を説明し、うららとの出会いのきっかけとなったコメダ優の「君のこと~」を絶賛します。(実は彼女こそがコメダ優本人なんですね。)その女性は雪の持っていたうららの作品を買ってくれました。
夜、雪の家で、がんばって作品を完成させたことを褒め、2冊も売れたことを喜ぶ雪に、うららは号泣します。
夏が来て、雪は「君のこと~」最新話の掲載誌の表紙を飾る佑真の服の柄と自分の服の柄が同じことに気付いて歓び、その服で証明写真を撮りました。
うららは紡から英莉の留学が決まり別れたことを聞きます。後日、英莉に「あの…がんばって」と声をかけたうららに彼女も「うん、ありがとう」と答えました。
「君のこと~」最終回を読んだ二人は、佑真と咲良が幸せになってよかったと盛り上がり一ヶ月後のサイン会に一緒に行く約束をします。片付いている家に気付いたうららに雪は娘と一緒に暮らすことになったと話し、あの証明写真が貼られたパスポートを嬉しそうに見せます。
サイン会当日。紡から英莉の見送りに行くべきかどうか聞かれたうららは行くように答えます。行くなと言われることを期待?していた紡は動揺し、途中までついてきて欲しいと言い出します。急いで雪に連絡して先に行っていてと伝えたうららは紡の手をつかんで走り出します。
サイン会場で、雪の順番になると、コメダはコミティアの帰りに会った老婦人だと気付いて話しかけます。驚いた雪は、あのマンガはうららが描いたものであること、遅れてこの会場に来るので直接伝えて欲しいと頼みました。
無事にサインをもらったうららが待ち合わせたカフェにやってきて、二人はそれぞれのサイン(雪は佑真の、うららは咲良のイラスト)を見せ合います。雪がマンガを買ってくれたのがコメダ先生だったことを説明するとうららは驚きます。
雪の家に帰り雨の降る様子を縁側で眺めながら「完ぺきな一日でした」と締めくくる二人。これはマンガにちなんだセリフです。
数ヶ月後。うららが雪の家にやってきます。家に風を通しに来ていた沼田と孫のまさきもいます。ノルウェーの雪と電話で短い話をしたうららが縁側で風を感じているとどこからかカレーの匂いが漂ってきました。
メタモルフォーゼとは変身のことで、思いがけない出会いがくれた素敵な変化が描かれていてほっこりさせられました。
うららは引っ込み思案で自分に自信が持てずにいる女の子で、英莉のような明るくて自分の目標をしっかり持つ子に憧れと嫉妬のない交ぜになった感情がありましたが、マンガがきっかけで自分にも熱くなれるものがあることに気付いて英莉のことも応援する気持ちに変化していきます。どこにでもいる女子高生の揺れて悩む心にそっと寄り添うようなお話でした。年の離れた友だちに喜び若返ったような気持ちではしゃぐ雪も可愛かったです。自分もそんな出会いが欲しいなぁ💛