杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

千夜、一夜

2023年06月19日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年10月7日公開 126分 G

北の離島の美しい港町。登美⼦(田中裕子)の夫・諭が突然姿を消してから30年の時が経った。彼はなぜいなくなったのか。⽣きているのかどうか、それすらわからない。漁師の春男が登美⼦に想いを寄せ続けるも、彼⼥は愛する⼈とのささやかな思い出を抱きしめながら、その帰りをずっと待っている。
そんな登美⼦のもとに、2年前に失踪した夫を探す奈美(尾野真千子)が現れる。
「理由が欲しいんです。彼がいなくなった理由。自分の中で何か決着がつけられればって」彼⼥は前に進むために、夫が「いなくなった理由」を探していた。
奈美が登美子に問いかける。「悲しくないですか?待ってるのって」
「帰ってこない理由なんかないと思ってたけど、帰ってくる理由もないのかもしれない」と登美子。
しばらくして、奈美は新しい恋人ができたため、夫・洋司(安藤政信)と離婚したいという。そんなある⽇、登美⼦は街中で偶然、失踪した洋司を⾒かけて…。(公式HPより)


久保田直監督が、日本全国で年間約8万人にも及ぶという「失踪者リスト」に着想を得て制作したヒューマンドラマです。

ある日突然いなくなった夫を持つ登美子と奈美という二人の女性が登場しますが、個人的には奈美の方に共感できました。

水産加工場で働く登美子は、30年間という長い年月、夫を待ち続けているのですが、彼女の中で夫の面影は薄れつつあります。当初はビラ配りをするなど情報を求めて懸命に動いていましたが、今ではただ一日を無為に過ごすばかり。そんな自分を認めたくないという気持ちが登美子を意固地にさせているような気がしました。また、彼女自身が独り身を寂しいとか哀しいとか感じていないようにも見えます。だから夫と同じ漁師で幼馴染の春男(ダンカン)に好意を寄せられてもその気持ちに応えることはしません。ならばいっそきっぱり跳ねつけたら良いのにと、登美子の態度には不快感を覚えてしまいます。

夫の失踪から2年が経つ看護師の奈美は、夫が拉致された可能性も考えて元町長の入江を訪ね、登美子を紹介されます。奈美の話を淡々と聞いた登美子は、警察に連れて行って「身元不明の遺体の似顔絵」の閲覧をさせたりしますが、手掛かりはありません。そんな奈美を同僚の大賀が気遣い寄り添っていきます。

気持ちに区切りをつけて前に進もうと考えた奈美が、特定失踪者の届け出をして夫との関係を解消しようとしていることを知った登美子の気持ちが揺れます。奈美に夫の失踪当時の自分を重ねて協力していたのに、裏切られたような気持ちになったのかもしれません。奈美は登美子に特定失踪者問題調査会への夫の調査依頼書作成を頼んだことがここにきてようやくわかりました。単に失踪者を持つ先輩のアドバイスを受けにきたわけじゃなかったのね。😞 

登美子に手酷く振られた春男が、死んでやると言い捨て海に出たまま行方不明になります。春男の母・千代(白石加代子 )になじられても動じない登美子は憎らしくさえ映ります。いなくなった人を待つ身の辛さは登美子が一番知っている筈なのに・・。

夫の母の葬儀で彼の実家を訪れた登美子は夫の父(平泉成 )から、そろそろ気持ちの整理をしたらどうかと言われます。そんな時、街中で偶然奈美の夫・洋司を見かけた登美子は、帰ろうか迷っているという彼を半ば強引に奈美のところへ連れて行きます。奈美に新しい男がいると知っているのにです。まずは奈美に連絡して意向を確かめるべきなのに、いきなり大賀と暮らしている部屋に連れてくるなんて嫌がらせとしか見えません。当然奈美は二人に対して怒りを爆発させます。

奈美に追い出された洋司が雨の中ずぶぬれで登美子のところへやってきます。
「幸せの絶頂」にあった頃の会話を記録したカセットテープを何度も再生し、遂に切れてしまったテープを洋司が繋いでくれます。
夜中、登美子の話声に気付いた洋司は、彼女がそこにいない夫の諭と会話を交わしている独り言を聞きます。洋司を諭が帰ってきたと思い込む登美子に彼も話を合わせながら、自分がしてしまったことの罪深さを改めて思い知ることになるのです。

登美子に振られた(ちょっと違うけど)春夫が死んでやると言って海に出たまま行方不明になっていたのが無事に戻り、まだ諦めきれずに一緒になってくれと迫る春夫に、登美子は今のままでいいと浜辺をどこまでも歩いていくシーンで終わります。

春男が無事に戻ってきた知らせを聞いた登美子は、千代の家に飛んで行って知らせます。千代は待つ身がどれほど不安で苦しいのか身を持って知ったと言い、二人は抱き合って喜びます。登美子にもまだそういう優しさ?は残っていたのね。

「一緒になって欲しい」と諦めきれずに迫る春夫に、「今のままでいいの」と言いながら浜辺をどこまでも歩いていく登美子・・そしてエンドロール。

春男がどこまでも冴えない中年男で、若い頃の諭の男ぶりと比べあまりにも貧弱なこともあり、この男と一緒になるのは無理だ~と思わせてしまいます。苦労はさせないと言いながら、酒浸りで年老いた母親もいる彼との生活が楽しいとは思えないし。
ただ一点だけ同情の余地があるとすれば、それは彼が若い頃から登美子を想っていたことですね。でもだからこそ余計に可哀相でもありました。

「帰って来ない理由なんてないと思っていたけど、帰ってくる理由もないのかもしれない」劇中の登美子のセリフです。う~~ん、結局登美子は気持ちに整理をつけることができたのかしら?夫はもう死んでいると認めることが出来ずに長い夢の中にいる状態から抜け出せたのでしょうか?

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