吾輩は義歯である。
名前はまだない。
どこで生まれたかというと、
歯医者さんとかいう場所であることだけは
記憶している。
吾輩はここではじめて、口というものを見た。
しかもあとで聞くとそれはババァという人間中で一番獰悪な
種族の口であったそうだ。
この先、このババァの口の中で暮らすのかと思うと
少々気がめいる。
なんたって、口の中が臭いのである。
なんでも昨晩、ニンニクとかいう異常に臭い食いモンを
たらふく食べているとか言っていた。
しかも、吾輩とおなじような色や形をした仲間が
すでに口の中にズラ~っと並んでいるのだ。
吾輩はその仲間たちの端っこのほうに
はめ込まれてしまったのである。
そのうえ、はめたり外したりを何回も繰り返すたびに
ガバガバ・ブクブク・ペッペッ・・・と水で
「うがい」とかいう所作をするのだ。
あ~・・・そのババァであるが
スマホとかいうシロモンで吾輩の姿を写すんだという。
もう勝手にしやがれ!