優 高3 アクリル
梅雨が一番苦手です。マユカです!本日は優のアクリル画をご紹介します。
今回優が挑戦したのは色彩構成という、デザインの基礎のようなものです。蚊が血をたっぷりと吸って膨らんだお腹を画面の主役として配置しました。蚊取り線香から伸びる煙を渦巻状にしたり、右斜め上から少しずつ迫ってくる蚊の群れの位置など少しずつ調節し、完成間際まで「ここはこうしたほうがいいか」「ああした方がいいのではないか」と、テスト前なのに自宅でまでアイパッドにラフを描いたり、色をのせたりと、悩みつつ完成させた作品です。
特に構図が素晴らしいですね。手前に大きく配置された蚊はリアリティをもって描かれており、まず目を惹きます。そこから奥に行くにつれて水玉のようになっていく蚊の、描きこみ量によって遠近感を感じさせます。地面に置かれた蚊取り線香も、最初の案では渦巻状でしたが、あえて缶にすることで画面が見やすくまとまっています。代わりに煙を渦巻に変更し、それによって蚊取り線香の缶の形を知らない人にも「蚊取り線香が入っているんだ」と分かるようになっています。色彩も蚊のお腹にビビットな色を使っているため、螺旋に入ったピンクがとても目を惹きます。周囲に線香をイメージした青・緑系の色を使うことでそのピンクを引き立てており、落ち着いた雰囲気を持ちつつ緊張感が生まれ、見ている人の興味を引きますね。また斜めに伸びた黒い影は、ヒトスジシマカの縞々の特徴のようにも、蚊に迫った死の暗示ともとれます。
実物は塗りムラがほとんどなく、面の処理が滑らかで美しい!アクリル絵の具は水分量をうまく調整しなければ、ムラになりざらざらとして違和感のある画面になってしまうのですが、優はそれが上手くできています。美しく塗られた画面は一見デジタル画のようにも見えてきませんか?
こんなに構図も色使いも上手く塗るテクニック(器用さ)があっても、美術が大好きでも、彼は一般大学に志望を決め、この作品を最後にミオスを退会しました。
「一生これで食べていくくらい美術が好きなのだろうか?他にも好きな事はあるけれど、それと比較したら?美術は趣味で十分なのではないだろうか?」...と、きっと多くの学生が、趣味の範囲を超えたその先で悩んでいるかと思います。
美大受験を決めれば、アトリエや絵の予備校に入り、学校帰りに毎日数時間デッサンやデザイン等を描き続け、何百枚も練習に練習を重ねる。それでもたどり着けないかもしれない合格。朝から晩まで”趣味”ではなく”仕事”に近い感覚で絵と向き合う日々なのです。「時間内に完成しない未完成の作品は見る価値がない」「頑張ったのは分かるがセンスがない」と言われ、努力したからと言って報われるわけではない世界。予備校から泣いて帰ってくる子さえいます。
正解が不透明な土俵で勝負するには覚悟が必要なのです。絵が好きなことはとても素敵なことですし、それを仕事にしたい気持ちもわかりますが、そのためには描きたくないものだって描かなければいけない。趣味の範疇ではどうにも乗り越えられない壁ばかりです。
正直、美大に合う、合わないというのは自分自身にだって判断できません。行きたい、頑張りたいという気持がどんなに強くても、課題に押しつぶされて大学に来なくなってしまった人もいました。もしこれから美大受験をしたいと考えてる人は、どんな荒波にもまれても自己肯定の心を強く持っていてほしいです。好きだった美術が苦痛・拷問に変わらないように、願っています。