「3年」の濁りは「残念」に経過中。。。
~政権交代間もなく3年~
2012年06月24日(日)
木下まこと氏、ブログ転載
国会では明後日にも増税法案の採決が行われるとの見通しですが、
私にはそうした国会状況そのものが、なんとも不可思議でなりません。
というのも、政権交代を果たす当時の民主党は
「4年間は消費税増税しません」と反増税で訴えて国民の支持を得た
わけだからです。一方で、前回の参院選でも公約として消費税10%を
掲げたのは自民党です。是非は別として、政治の筋論から見れば
自民党が増税法案に賛成することは特段の不思議はありません。
しかし、与党民主党が消費税増税を推し進めることは政治的に
まったく筋が通りません。
まして、政治生命をかけて増税を、と意気込む野田総理自身は過去に
消費税増税に関する反対請願の紹介議員となっています。
(参照 http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_seigan.htm)
陳情・嘆願書とは異なり、請願書というのは正式な文章として
議員の名前が残るため、請願内容がよほど政治信念と合致しない限り
紹介議員としての記名を安請け合いしないものです。
総理の信念が変節したのか、あるいは単にそうした政治常識に欠けて
いるだけなのか、それは分かりかねます。しかし、選挙期間中を
除いて唯一ともいえる、国民の「声」を直接国政に届ける「請願書」の
重みを考えるに、総理の手のひら返しの増税強行姿勢は、政策是非の
以前に政治家として「信」に値し得ないことだけは確かなようです。
一方で、民主党内では小沢派を中心とする反増税グループも存在
します。
私は、彼らが政治家として筋を通そうとする姿については
好意的に見ています。民主党内の良心、と言えばこれはさすがに
言い過ぎですが、民主党内の少数の『政治家』といえるかもしれません。
あとの方は政治家ではなく、単なる「党人」です。
政権交代から間もなく3年が経過します。政権素人集団としての
試用期間はとうに過ぎました。幻想のマニフェストは実現することなく、
デフレ不況を脱出することもなく、外交・安全保障問題は混迷化の
一途です。なぜこれほどまでに「約束」と異なる政治になってしまったか
というと、やはり原点のマニフェストに誤りがありました。
もっというと「バラマキ政策を散りばめて、財源は埋蔵金でなんとか
します」という票欲しさの「濁り」があったということです。その濁りを
違う色で埋めるために「増税」という手段を持ち出してしまい、方向性
としては国民生活がますます濁っていく方向に進んでいます。
そのためか、政権交代から「3年の経過」という言葉にも濁点がついて
しまって「残念な経過」で今日にいたっているということです。
さて、冒頭の部分では自民党の増税姿勢について、筋論としては
不思議ではないと述べてみましたが、政策論としては間違っていると
言わざるを得ません。「税収不足=増税やむなし」という増税論法は
昔からありましたが、「増税=税収増」という方程式は成り立ちません。
特にこのデフレ不況期に消費税を増税しても、全体の消費がさらに
落ち込むことで、法人税収や所得税収が大きく減少してしまうため、
全体の税収は減少します。これは前回3%から5%へと、わずか
2%増税した時にはっきりとデータで示されました。加えて、税収減
と逆相関するように失業率と自殺者数が急増し、当時の増税内閣を
務めた(故)橋本元総理は、その過ちを公の場で認め謝罪しています。
自民党は財務省の増税役人のレクチャーではなく、先人の遺訓にこそ
まず耳を傾けるべきです。
今国会では2段階の引き上げで5%から10%への増税案が採決されよう
としていますが、その影響の具合を身近な具体例をとりあげながら
考えてみます。
例として近所の小さな居酒屋さんをイメージしてみてください。
平均客単価を3,000円とします。1日平均の来客数を15名とします。
毎月の稼働日は25日間とします。仕入の原価率は30%とします。
この場合、年間の総売上額が1350万円で、徴収される消費税額は
47万2,500円となります。
そして、10%に増税された場合にお店が徴収される消費税額は
94万5,000円です。同じ売上額で倍の徴収が試算されます。
この場合の数値を「試算」とするのは、現実を考慮したある種の
「計算間違い」をしているからです。それは、売上額と仕入額に5%増税分を
加えずに計算しているということです。まったく加算しないということは
やや極端な例かもしれませんが、現実はこちらのほうが近いでしょう。
国内の中小企業に分類される企業数は全企業数の99%以上ですが、その
多くの企業は増税分を価格転嫁できずにいます。特に個人や零細企業は、
増税なので値上げです、とは言いづらい経営環境にあります。
ちなみに、売上額と仕入額にそれぞれ5%税率加算した場合の徴収額は
現在値の倍以上になることを付記しておきますが、これに加えて現実は
さらに厳しい展開が想定されます。たとえば、増税分を価格に反映しない
場合、お店としてどうするかを考えます。まず、バイトさんの残業や場合
によっては人数を減らす等、いわゆる人件費削減があります。
チェーン店で展開して社員さんがいるような居酒屋企業さんであれば、
ボーナスや給料の削減もあるでしょう。
あるいは仕入素材のランクを落とすという考え方もあるでしょう。
安い素材を仕入れても、技術でカバーできる部分もあるかもしれませんが、
それにも限界があります。「最近味が変わった」などと噂が立とうもの
なら、小さなお店からはあっという間にお客さんがいなくなってしまい
ます。
また、どんな小さなお店の経営者さんでも日々に数字と真剣に向き合って
いますし、景気の変化を肌感覚で感じています。その分だけ個人の金銭
感覚にもシビアですから、お店の利益や売上が減少すれば、真っ先に個人
の消費活動を抑制するグループの人々となります。
そして上述の従業員さんも、一歩お店の外に出れば、他店にとっての
「お客さん」です。懐事情が傾けば、暖簾をくぐる回数も減ります。
これらは負の循環として、業界をまわります。この例では飲み屋さんを
挙げましたが、あらゆる業界で同様の負の循環が展開されます。
総理は「増税で将来の社会保障不安がなくなり経済活性する可能性が
ある」などということを国会でも述べていますが、まったくの間違いです。
むしろ、景気悪化と税収減に加え、生活保護等の社会保障を必要とする層
が増大し、さらに歳出が膨らむことは間違いありません。過去のデータから
みるに、自殺者数も増加するでしょう。総理には特に親しみは感じませんが、
一人の人間として「大規模間接殺人」の犯人が誕生するようなことは望み
ません。
また、それを幇助する政治家が一人でも減ることを心から望みます。
今からでも遅くありません。増税法案を廃案に追い込み、真水の財政出動を
伴う景気浮揚策を実行することです。
あわせて、野田総理におかれましては、これ以上余計な罪を重ねない
ためにも、早期に解散することを強くお勧めします。
木下まこと