(添付画像解説);<Photo>:The displayed "Ducati999", which was taken by Mr. George AOKI, at Singapore Int'l Airport,>(「ドゥカティ999」の関連公式仕様書、こちらから参照できます)
「長編小説フォワイエ・ポウ」へ・・・
忘れてはならない大切な事、今夜ようやく学びかけていた。が、残念ながら、情けないかな、哀れにも、ここは本田の性格として、学んだことを直ちに忘れてしまう。長年に渡って身に付いた感覚、あるいは生活習慣と表現した方がよいのか。とにかく金銭感覚の無さは、そんなに簡単に直しようもなく、それはまるで本田のDNAに刷り込まれた劣性遺伝子的感性なのであった。
<前回掲載より・・・>
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(本日記事本文)
長編小説「フォワイエ・ポウ」5章-2(料理との出会い)
著者「ジョージ青木」
(1)
「はい、そうです」
「・・・」
「そうなんです。今からですよ、ちょっとしたディナーになるくらいの酒の肴を作ろうと思っていまして、今夜その試食会をしようと思って電話しました」
「・・・」
「内輪で試食するのですから、そんなホテルの試食会のような大それたイヴェントではありません」
「もちろん、試食していただく料理は、サービスですから、大丈夫。フリーサービスですよ。五反田さん、お1人では寂しいでしょうから、2~3人でお越しいただいても大歓迎。OKですよ」
「・・・」
「よかった、ぜひ起こしください」
「・・・」
「ありがとうございます、電話してよかった。おまちしています」
時間は午後5時25分。電話をかけた先はJGBの広島支店、退社寸前の五反田恵子に電話した。
時間は定かでないが、仕事が終わり次第、五反田恵子は店に向かうと約束してくれた。
五反田恵子への電話は、本田の思いつきであった。
あつかましいといえば、これほどのあつかましさも珍しい。場合によっては、あるいは相手の捉え方によれば、いかにも自己中心そのものである。とにかく思いついた時、思い立ったら素早く行動に移る、そのまま自分流になってしまう、本田はそういう性格の男であった。
今夜、店に五反田恵子を呼びつけた目的は、何なのか?
本田自らの手料理を、彼女に試食してもらうためである。フォワイエ・ポウの客であれば誰でもよかった。別に五反田でなくても、顔見知りの客であれば誰でもよかった。電話のボタンを押した本田の指先は、なぜかJGBの電話番号をプッシュしていた。
今、どのような手料理を、用意しようと考えているのか?
ペティーナイフを買い、さらに牛刀が買いたくなった時点で、自分の作りたい手料理のイメージは、すでに本田の頭に浮かんでいる。
開店時間まで、あと1時間半。
五反田恵子とのアポイントを取り終わった本田は、落ち着いて開店準備に取りかかった。
再び、外出中に口ずさんでいたホワイトクリスマスの歌を口ずさみながら、本田の独り言が、出た。
「よ~し、これでいよいよ取りかかれる。これからがきょうの楽しみなのである・・・」
洋包丁を買った満足感からか、なぜか喜び勇んでいる本田は、いよいよ満を持して『試作料理の下ごしらえ』にとりかかった。
まず、先ほど買ってきた刃物類に、あらためて目を通した。
右手でしっかりと、包丁の柄を握り、左手の手のひらの上に、軽く、刃の峰をのせる。上を向いている包丁の刃を、左手の親指で触れる。必ず直角に、触らなければならないし、触れた親指を直角に手前に引く。絶対に左右に動かしてはならない。左右に動かせば、必ず指を切る。こうして切っ先から付け根のまでの刃の全体にわたり、慎重に親指で触れてみる。
結果が出る。
結果的な本田の判断は、
(なんとか今すぐ使える、が、1~2度使ったら直ちに自分で研がねばならない。これは機械で砥いだ刃のままであるから、未だ、まともな刃は付けられていない状態である。あらためて自分自身で砥いでみて、その刃物の価値とその程度がわかる。それが良い刃物であれば、砥いだ後に、ようやくその刃物の真価が発揮できる・・・)
という結果が出た。
(もっと優秀な刃の付いた包丁があるのは分かっている。分かっている。これで良い!これで納得しよう。今これ以上の贅沢はいえない、云えば切がない)
先ほど購入した2本の包丁を本田の基準で測り、自分の使う道具として合格点をつけることにした。
食材の確認をしながら下ごしらえに入る。
A・ロースハム=
品質、量とも、とりあえず問題なし。厚さは、1センチ以上~1センチ5ミリ以内。さっそく4~5枚程度、牛刀で切り分けておいた。初めての包丁は使いにくかった。厚さが偏らないよう切り分けるには、やはり機械でカットする方がよかった。しかし本田は、頑固に自分の包丁で切り分けようと、自分で上手に切り分けられる腕前になるまで、やってみたい。やるぞ!と、決意した。しかし、本田にはわかっていた。この決意、なんとなんと、まことに非科学的な決断であり、理にかなわず、利にそぐわない決意をしている自覚はあった。
B・グリーンアスパラガス=
長さ12~3センチ程度のものを20本。穂先をやや長めに切り、根元をやや短めにイメージし、1本のアスパラを、3つに切り分けておく。穂先は生のままでソテーしても大丈夫であるが、根元はやや硬い。硬いから、熱湯で一分程度茹で上げ、その後冷蔵庫に入れ熱をとっておく。茹で上げると、アスパラの緑が鮮やかになる。
C・人参=
5ミリ以上1センチ以内程度の厚さに輪切りし、あるいは大きさにより半月型に切り、グリーンアスパラと同じ要領で茹で上げ、冷蔵庫にしまっておく。
D・新鮮なキュウリ=
その中でも、さらに形のよいもの数本を冷蔵庫にしまった。本来ソテーするつもりの人参は、そのうち生のままを使いたい。場合によりキュウリと人参を取り混ぜた野菜スティックを用意し、おつまみにして客に提供する考えであった。
E・甘口の白ワイン=
価格的にも、やや甘口の味も、ドイツ産モーゼルワインが最適であると判断した。
F・フランディー=
自分の飲みかけのブランデーを使うことにした。
これらのアルコール類は、全て調理用に使用する。ここで云う『少々』とは、大匙スプーン約2杯分である。それが必要な料理には、惜しまずケチらず、たっぷりとアルコール類を使うべし、などと心がけている、そんな料理に対する本田のポリシーがあった。
G・調味料=
冷凍保存のパセリ、丸ごとのレモン、数個。岩塩・コショウなどなど、手元の残量を確認した。
尚、パセリのみじん切りとレモンは、本田にとっては調味料の領域であった。
こうして料理の下ごしらえを終えた頃、開店の時刻となった。
まずはルーティーンで、表の看板のスイッチを入れる。
いつもながら、本田は開店時間になると緊張しつつ、看板のスイッチ・オン、午後7時ジャストに点灯し開店する。
表看板のスイッチを入れて間もなく、店のフロアー通路を歩く気配がする。カウンター内で耳を澄ます本田の耳に、入り口に向かっている複数の人の足音が聞こえてきた。
足音が聞こえてわずか数秒後、入り口のドアが開いた。
「こんばんは~」
ドアを半開きにしながら挨拶をする来客、その声の主は女性である。
すこぶる丁寧に、ゆっくりと、フォワイエ・ポウの店のドアが開く。
「いらっしゃいませ!」
(このあたりの挨拶言葉は、本来この小説文面に書く必要はない。しかし、書き記さねばならない。というのも、この物語は客商売の展開であり、客商売の挨拶は最も重要な最初の客を迎え入れる言葉であり、この挨拶を外せばその時点で、客商売は成立しなくなるからだ。さりとてこの小説の物語のなか、客を迎え入れる本田のペースには、さしたる変わりはない。ペースに変化がなくとも、挨拶の言葉を、この小説から省くわけには行かない事、この小説の読者諸兄には、あらためて了解を求めておきたい・・・)
「あ~ 五反田さんだ!もうお越し頂いたのだ。早いなあ~」
我儘な本田の思いつき、そんな思い付きの子供染みた本田の急な願いを聞き届け、約束を実行する為に本田の店に入ってきた五反田を一目見て、本田は単純によろこんだ。
「今日の仕事は終わり、もう止めた!って、途中で放り投げて、大急ぎでやって来ました。お言葉に甘えておうかがいしました。早く来すぎましたでしょうか?」
「いえいえ、そんなことない!」
「こちらとしては、こんな時、いや、いつでも早い方がありがたいのです!」
珍しくも、今夜の五反田は2人連れであった。
まず、本田は驚いた。
しかも、ことのほか本田はいつもの倍の驚き、つまり、二重に驚いてしまった。
<・・続く・・>
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忘れてはならない大切な事、今夜ようやく学びかけていた。が、残念ながら、情けないかな、哀れにも、ここは本田の性格として、学んだことを直ちに忘れてしまう。長年に渡って身に付いた感覚、あるいは生活習慣と表現した方がよいのか。とにかく金銭感覚の無さは、そんなに簡単に直しようもなく、それはまるで本田のDNAに刷り込まれた劣性遺伝子的感性なのであった。
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(1)
「はい、そうです」
「・・・」
「そうなんです。今からですよ、ちょっとしたディナーになるくらいの酒の肴を作ろうと思っていまして、今夜その試食会をしようと思って電話しました」
「・・・」
「内輪で試食するのですから、そんなホテルの試食会のような大それたイヴェントではありません」
「もちろん、試食していただく料理は、サービスですから、大丈夫。フリーサービスですよ。五反田さん、お1人では寂しいでしょうから、2~3人でお越しいただいても大歓迎。OKですよ」
「・・・」
「よかった、ぜひ起こしください」
「・・・」
「ありがとうございます、電話してよかった。おまちしています」
時間は午後5時25分。電話をかけた先はJGBの広島支店、退社寸前の五反田恵子に電話した。
時間は定かでないが、仕事が終わり次第、五反田恵子は店に向かうと約束してくれた。
五反田恵子への電話は、本田の思いつきであった。
あつかましいといえば、これほどのあつかましさも珍しい。場合によっては、あるいは相手の捉え方によれば、いかにも自己中心そのものである。とにかく思いついた時、思い立ったら素早く行動に移る、そのまま自分流になってしまう、本田はそういう性格の男であった。
今夜、店に五反田恵子を呼びつけた目的は、何なのか?
本田自らの手料理を、彼女に試食してもらうためである。フォワイエ・ポウの客であれば誰でもよかった。別に五反田でなくても、顔見知りの客であれば誰でもよかった。電話のボタンを押した本田の指先は、なぜかJGBの電話番号をプッシュしていた。
今、どのような手料理を、用意しようと考えているのか?
ペティーナイフを買い、さらに牛刀が買いたくなった時点で、自分の作りたい手料理のイメージは、すでに本田の頭に浮かんでいる。
開店時間まで、あと1時間半。
五反田恵子とのアポイントを取り終わった本田は、落ち着いて開店準備に取りかかった。
再び、外出中に口ずさんでいたホワイトクリスマスの歌を口ずさみながら、本田の独り言が、出た。
「よ~し、これでいよいよ取りかかれる。これからがきょうの楽しみなのである・・・」
洋包丁を買った満足感からか、なぜか喜び勇んでいる本田は、いよいよ満を持して『試作料理の下ごしらえ』にとりかかった。
まず、先ほど買ってきた刃物類に、あらためて目を通した。
右手でしっかりと、包丁の柄を握り、左手の手のひらの上に、軽く、刃の峰をのせる。上を向いている包丁の刃を、左手の親指で触れる。必ず直角に、触らなければならないし、触れた親指を直角に手前に引く。絶対に左右に動かしてはならない。左右に動かせば、必ず指を切る。こうして切っ先から付け根のまでの刃の全体にわたり、慎重に親指で触れてみる。
結果が出る。
結果的な本田の判断は、
(なんとか今すぐ使える、が、1~2度使ったら直ちに自分で研がねばならない。これは機械で砥いだ刃のままであるから、未だ、まともな刃は付けられていない状態である。あらためて自分自身で砥いでみて、その刃物の価値とその程度がわかる。それが良い刃物であれば、砥いだ後に、ようやくその刃物の真価が発揮できる・・・)
という結果が出た。
(もっと優秀な刃の付いた包丁があるのは分かっている。分かっている。これで良い!これで納得しよう。今これ以上の贅沢はいえない、云えば切がない)
先ほど購入した2本の包丁を本田の基準で測り、自分の使う道具として合格点をつけることにした。
食材の確認をしながら下ごしらえに入る。
A・ロースハム=
品質、量とも、とりあえず問題なし。厚さは、1センチ以上~1センチ5ミリ以内。さっそく4~5枚程度、牛刀で切り分けておいた。初めての包丁は使いにくかった。厚さが偏らないよう切り分けるには、やはり機械でカットする方がよかった。しかし本田は、頑固に自分の包丁で切り分けようと、自分で上手に切り分けられる腕前になるまで、やってみたい。やるぞ!と、決意した。しかし、本田にはわかっていた。この決意、なんとなんと、まことに非科学的な決断であり、理にかなわず、利にそぐわない決意をしている自覚はあった。
B・グリーンアスパラガス=
長さ12~3センチ程度のものを20本。穂先をやや長めに切り、根元をやや短めにイメージし、1本のアスパラを、3つに切り分けておく。穂先は生のままでソテーしても大丈夫であるが、根元はやや硬い。硬いから、熱湯で一分程度茹で上げ、その後冷蔵庫に入れ熱をとっておく。茹で上げると、アスパラの緑が鮮やかになる。
C・人参=
5ミリ以上1センチ以内程度の厚さに輪切りし、あるいは大きさにより半月型に切り、グリーンアスパラと同じ要領で茹で上げ、冷蔵庫にしまっておく。
D・新鮮なキュウリ=
その中でも、さらに形のよいもの数本を冷蔵庫にしまった。本来ソテーするつもりの人参は、そのうち生のままを使いたい。場合によりキュウリと人参を取り混ぜた野菜スティックを用意し、おつまみにして客に提供する考えであった。
E・甘口の白ワイン=
価格的にも、やや甘口の味も、ドイツ産モーゼルワインが最適であると判断した。
F・フランディー=
自分の飲みかけのブランデーを使うことにした。
これらのアルコール類は、全て調理用に使用する。ここで云う『少々』とは、大匙スプーン約2杯分である。それが必要な料理には、惜しまずケチらず、たっぷりとアルコール類を使うべし、などと心がけている、そんな料理に対する本田のポリシーがあった。
G・調味料=
冷凍保存のパセリ、丸ごとのレモン、数個。岩塩・コショウなどなど、手元の残量を確認した。
尚、パセリのみじん切りとレモンは、本田にとっては調味料の領域であった。
こうして料理の下ごしらえを終えた頃、開店の時刻となった。
まずはルーティーンで、表の看板のスイッチを入れる。
いつもながら、本田は開店時間になると緊張しつつ、看板のスイッチ・オン、午後7時ジャストに点灯し開店する。
表看板のスイッチを入れて間もなく、店のフロアー通路を歩く気配がする。カウンター内で耳を澄ます本田の耳に、入り口に向かっている複数の人の足音が聞こえてきた。
足音が聞こえてわずか数秒後、入り口のドアが開いた。
「こんばんは~」
ドアを半開きにしながら挨拶をする来客、その声の主は女性である。
すこぶる丁寧に、ゆっくりと、フォワイエ・ポウの店のドアが開く。
「いらっしゃいませ!」
(このあたりの挨拶言葉は、本来この小説文面に書く必要はない。しかし、書き記さねばならない。というのも、この物語は客商売の展開であり、客商売の挨拶は最も重要な最初の客を迎え入れる言葉であり、この挨拶を外せばその時点で、客商売は成立しなくなるからだ。さりとてこの小説の物語のなか、客を迎え入れる本田のペースには、さしたる変わりはない。ペースに変化がなくとも、挨拶の言葉を、この小説から省くわけには行かない事、この小説の読者諸兄には、あらためて了解を求めておきたい・・・)
「あ~ 五反田さんだ!もうお越し頂いたのだ。早いなあ~」
我儘な本田の思いつき、そんな思い付きの子供染みた本田の急な願いを聞き届け、約束を実行する為に本田の店に入ってきた五反田を一目見て、本田は単純によろこんだ。
「今日の仕事は終わり、もう止めた!って、途中で放り投げて、大急ぎでやって来ました。お言葉に甘えておうかがいしました。早く来すぎましたでしょうか?」
「いえいえ、そんなことない!」
「こちらとしては、こんな時、いや、いつでも早い方がありがたいのです!」
珍しくも、今夜の五反田は2人連れであった。
まず、本田は驚いた。
しかも、ことのほか本田はいつもの倍の驚き、つまり、二重に驚いてしまった。
<・・続く・・>
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