昨日、お客さんの波が一段落した9時過ぎ辺りに、
ひょっこり入ってこられたお客様
背が高く、なんだか一回りも大きいスーツ姿の男性は
「こんばんは、お久しぶりです」
と、一礼して席に着かれると、早々とぼっかけを注文されました。
長い間、ご無沙汰してました・・・と、
大将と私を見て話されるその男性の顔を暫らく見ていて、
その方がやっと知人のお連れさんと判ったのは
以前来られた時とは違い、随分とやせ細ってしまわれたからでした。
「大病を患ってしまいまして・・・
」
2年前にこの方は胃に癌がみつかり、手術をされたとのことで、
一時はもう、生きてこの地には戻れないと諦めていたこともあったのだそうです。
男性は定年前まで柔道の指導をされていたこともあり、
術後から体力を取り戻すのに苦労はしたものの、
日々の鍛錬でなんとか体力も取り戻すことができ、
2年たった今は、以前の重量級の体型からはサヨナラして健康的な体型になり
自宅の近所に畑も借りて、週二回畑仕事に勤しんで野菜を育てておられるとのこと
「今日は用事でやっと神戸に来られたので、
なんとしてもぼっかけを食べて帰らんと・・・と思ってね、飛んできたんですわ」
そう言って、私がお出ししたぼっかけうどんを一口一口味わい
「あぁ、美味い・・、美味いなぁ・・・」
と何度も何度も言って時々目を拭いながら、
一滴の出汁も残さず食べ終えた丼をカウンターの上に置き、
「ほんまに、生きてこられてよかったと思いますわ。
生きてまたぼっかけが食べられたこと、
もういっぺんこのぼっかけを食べるために、頑張って食欲を取り戻しました。
今日のぼっかけは自分へのご褒美ですわ」
と言ったその言葉に、私も目頭が熱くなりました
何でも無い様な事が 幸せだったと思う・・・と、歌の文句ではないけれど、
普段私達は何気なく生きていることが、
たとえばそれが、どんなにつまらない一日だったにせよ、
生きていること自体が幸せなことなのだということに気がついた思いがしました。
普段私達が見慣れている、何気ない一杯のぼっかけの味を
こんなにも大切に思ってくださるお客様がいることを誇りに
これからも大将と2人でぼっかけの味を守っていかねばと思い、
そしてこの味を私達の一生の財産として残してくれたお義母さんに感謝
今月のお墓詣りで報告させていただこうとおもいます