春になると山地ではシダが生い茂り特に出始めの姿は美しい。写真はオシダ科イノデ属の「ジュウモンジシダ(十文字羊歯)」で根茎から複数の葉身を出しで全体が輪を作るように成長する。葉身は20~50センチで主軸の下部にほぼ直角に左右に伸びる短い軸がある。
堀之内地区の谷戸の水辺に生育している「トウゲシバ(峠芝)」。ヒカゲノカズラ科ヒカゲノカズラ属の常緑性シダ植物で全国各地のやや湿った林床などに分布している。長い間探していたが、今年3月、当地の専門家情報でやっと見ることができた。各地の杉の植林地に多いと聞き、高尾山系などの杉林を探し回ったことがあったが、そこは林内ではあるものの地面は比較的乾燥した場所が多かった。そもそもトウゲシバは“峠”から連想されるような場所ではなく斜面の下部の水辺など湿った場所を好むので見当違いの場所を探していたことになる。写真は開いた胞子の様子で長さは2ミリほど。既に胞子を出し終えている。
奥高尾“逆沢作業道”の岩肌に着生している「ハマキゴケ(葉巻蘚)」。センボンゴケ科ハマキゴケ属の蘚類で、石垣やコンクリートなどで普通に見られ、乾燥すると葉の縁が巻き込むことで名付けられている。
植物の祖先はもともと水中にいたが、最初に陸上に上がった植物がコケだった。しかしコケは草木のように大きくて生存能力が高い種子を作ることができず、また根を通して土から水を吸い上げ体全体に行き渡らせる“維管束”も無い。その代わり小さくても数多く作れる胞子で繁殖することで生育に適した環境をいち早く見つけることができる。また雨や霧などを葉の表面から直接吸収することができるので土の無い岩肌にも直接生えることができる。写真はハマキゴケの葉の表面に付いた大量の水滴。あまりに小さくてピンボケだが実際は宝石のように美しかった。
タマゴケ科タマゴケ属の「タマゴケ(玉蘚)」。山地の岩肌などで見られる蘚類で明るい緑色の葉が美しい。これを敷き詰めて寝転がってみたいが、ここでは直径20センチほどで枕にもならない。葉は長さ4~5ミリの披針形で放射状に拡がっている。葉は乾燥すると縮んでしまう。さてこの写真の中に“目玉おやじ(球形の蒴)”がいるがおわかりだろうか。
奥高尾の山道に多く生育している「ジュウモンジシダ(十文字羊歯)」。オシダ科イノデ属の常緑性シダ植物で写真は芽生えの様子。ジュウモンジシダの葉は長さ20~30センチになりその基部の“刀の鍔”の部分が横に拡がる特徴がある。大きな株はこの十文字形の刀が全体として輪を作るように成長する。
『おい、鬼太郎! ここはどこじゃ?』
“目玉おやじ”のそんな声が聞こえてきそうな姿。これは「タマゴケ(玉蘚)」でタマゴケ科タマゴケ属の蘚類。山地の岩肌や土の上で普通に見られる。球形の蒴の直径はわずか2ミリほどで英語では“apple moss”と呼ばれリンゴに見立てたようだ。これは奥高尾“逆沢作業道”のもの。
タチヒダゴケ科タチヒダゴケ属の「タチヒダゴケ(立襞蘚)」。本州~九州に分布する蘚類で樹皮や切り株に着生する。先日は蒴の様子を確認したが乾燥していたため葉は閉じていた。この日は雨上がりで水分を含むと透明感のある淡緑色の葉は放射線状に拡がる。この葉の1片は長さ2ミリほど。
堀之内地区の谷戸に自生している「トウゲシバ(峠芝)」。ヒカゲノカズラ科ヒカゲノカズラ属の常緑性シダ植物で全国各地のやや湿った林床などに分布している。草丈は10~20センチで地下茎は無く茎の基部から分枝して数本が直立する。写真は胞子嚢群の様子で茎の上部の葉腋に付く。胞子嚢は黄色く熟した後、横に裂けて胞子を出す。
ヒカゲノカズラ科ヒカゲノカズラ属の「トウゲシバ(峠芝)」。北海道から沖縄に広く分布する常緑性シダ植物で林内のやや湿った日陰に生育している。当地の“由木の植物目録2020”には『各地の杉植林地や広葉樹林下に点在』とあり産量は『少』となっている。私は数年前からこのシダを探し求め時には奥高尾の杉林を歩き回ったこともあった。しかしなかなか見つからず半ば諦めかけていたところ、先日、当地の愛好家の方から『ありました!』という朗報があり、堀之内地区の谷戸の奥でやっと実物を見ることができた。草丈は10~20センチで葉は茎の周りにらせん状に付く。葉は倒披針形や長楕円状披針形になり縁には不揃いな鋸歯がある。
近年の植物分類はDNA解析によるAPG分類体系が採用されており、それに基づく“日本維管束植物目録(米倉浩司著)や”植物分類表(大場秀章著)”などではリストの一番先頭にこのヒカゲノカズラ科が登場する。
ヒョウタンボクの枝に着生している「タチヒダゴケ(立襞蘚)」。タチヒダゴケ科タチヒダゴケ属の蘚類で本州~九州に分布し樹皮や切り株などに発生する。葉の間から直径1.5~2ミリの球状の蒴を付ける。この様子から「コダマゴケ(小玉蘚)」とも呼ばれている。葉は長さ2~2.5ミリで写真はやや乾いた状態だが、湿ると鮮やかな緑色になり大きく開く。機会があればその様子を見てみたい。