この言葉は「巨人の星」第10話「日本一の父 一徹」に出てくる言葉です。
模擬テストで4番だった星飛雄馬は担任や姉からほめられたり、自分でも満足していました。
しかし、帰ってきた父一徹に言われたのが「なぜ一番にならない」だったのです。
叱られてしぶしぶ机に向かう飛雄馬ですが、父が言ったのは勉強の前に「キャッチボールだ」です。
根性の塊のような飛雄馬ですが、まだ中学生ですからさすがに疲労を口にしていました。
その飛雄馬に一徹は「心配するな、勉強しすぎて死んだやつはいない」、「学問の孤独に耐えることができなくて、マウンドの孤独に耐えることができると思うのか」と叱咤します。
そして、面接官にバカにされながらも、倍率15倍という難関高校の入学試験をほぼ全科目満点で合格したのでした。
スパルタ教育の典型的ともいえる父ですが、近年このような子供に対する厳しさは失われているようです。
現代の教育は昔に比べたら、できるだけ苦しい思いやつらい思いをしないですむように、まるで温室で育てるような育て方をしています。
温室育ちは中にいるときは元気なのですが、外に出たとたんその弱さを露呈します。
厳しさに慣れていないせいか、ちょっとした問題も乗り越えることができず、すぐにへこたれてしまうようです。
子育てに関して、江戸時代の武士の母親の厳しさを伝える話があります。
子供が鬼ごっこをしているときに転んで、片目に竹が突き刺さり失明する大けがをしたときの話です。
泣いている子供に対して母親が言った言葉です。
「武士の子が片目を失ったぐらいで泣くのか」
何という気丈な母親でしょうか、そのような厳しい環境のなかで育てられた子供は立派に成長します。
その子は山地元治で、幕末から明治にかけて陸軍軍人として活躍し、最後は陸軍中将として天皇から褒賞を受けた人物として歴史に名を残しています。
私が実際に経験したことでは、水泳部の成績に関して井上敦雄先生に言われた一言が強い記憶として残っています。
20代後半頃の話で、前年まで成績が低迷していたところ、その年はインターハイ優勝者が2名、リレーでも優勝し、男子総合第2位、夏季JOでは高校記録を樹立する選手もいました。
そのときに井上先生に言われた一言です。
「まあまあだったな」
井上先生に褒められるというのは大変難しいことです。
関東大会からインターハイまでに100mで1~2秒、200mで3~4秒を縮めるベストタイムを出すこと、実績のない選手でも伸ばすこと、レース展開は前半から飛び出して後半さらに引き離すことなど厳しい条件をすべてクリアしなければ評価されません。
私自身、まあまあ満足した結果だったのでそれでよいのですが、豊山水泳部の厳しさを実感する言葉でした。
インターハイで総合優勝した時もレース内容がよいものではなく、評価されるまでには至らなかったことを覚えています。
目標を高く持って自分に厳しくなければ、他人を強くすることはできません。
見習うべきは昔の人たちのたくましさ、それが「生きる力の強さ」です。
今後も「なぜ一番にならない」という精神を忘れずにいたいと思います。
竹村知洋