この言葉は私に伝統の大切さを教えてくれた、エドマンド・バークの言葉です。
エドマンド・バークは18世紀のイギリスの哲学者、政治家です。
フランス革命に反対し、『フランス革命の省察』を著しました。
「偏見」とは、自然な感情のことでそれを大切にすることを説きました。
通常、「偏見」は捨て去るべきもので大切にするということはありません。
しかし、「偏見」を表す「prejudice」は、あらかじめ(pre)の判断(judice)という意味です。
つまり「偏見」には、伝統や慣習という先人の知恵が「あらかじめなされた判断」として含まれているということです。
自然な感情こそが道徳のおおもとであって、「偏見」なしに美徳は成り立ちません。
例えば、目上の人にあいさつをしなさい、というのも年長者に対して自然に抱く尊敬の気持ちから出てくるものであって、あいさつをする理由をいちいち説明したりはしません。
「相続」は、先人の知恵を尊敬し、次の世代に伝えることです。
過去と現在、未来を結びつけるもので、安定をもたらします。
なぜ相続することが大切かというと、一人ひとりの人間は不完全であってその判断が常に正しいということはないからです。
そこで先人の知恵という助けをかりることで過ちを少なくするのです。
バークがフランス革命に反対したのは、国王や教会というそれまでの国家の歴史や伝統をすべて破壊し、一から作り上げようという革命だったからです。
「時効」は「時間の効果」のことです。
「時効」を表す「prescription」は、あらかじめ(pre)の規定(scription)という意味です。
「あらかじめ規定」された効果は、時間の持続のなかにあるということです。
時間はさまざまな問題や矛盾といったものを安定させ、平衡状態を保つために有効なものです。
全体を調和させて、そのなかから優れたものが生まれてきます。
「偏見」や「相続」は、「時効」に支えてられてこそ価値をもつものになります。
「時効」は物事の平衡を保とうとする知恵といえるもので、それが「伝統」なのです。
私が日大豊山の教員となり水泳部を引き継いでいくとき最初に考えたことは、学校や水泳で受け継がれてきた「伝統」を発見することでした。
それを解釈し、現場に生かすことで安定した学校教育を継続することができるはずです。
それが学校に受け継がれてきた「校訓」であり、水泳部で受け継がれてきた「55の教え」や「学校水泳の特色」だったのです(水泳部HP参照)。
エドマンド・バークは「伝統」の大切さを教えてくれた人物であり、その考え方は日々の仕事や生活に生きています。
下の写真は創設60周年記念でつくられた下敷きです。
校舎は変わってもそこに生きる伝統は受け継がれています。
竹村知洋