山岳ガイド赤沼千史のブログ

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槍と星

2018年08月28日 | ツアー日記

 先日は常念山脈からの槍ヶ岳を堪能したのだが、今回はとうとうその穂先に立つことが出来た。
今年の猛暑が少し一段絡した日のことだったので、例年通りの気温でなかなか快適に槍沢を登ることが出来た。
それにしても、山というのは例えそれがどんな低山でも頂上直下というのはあえぐようにきつく、早くあの天辺に立ちたいと、身も心も焦がれて苦しむものだが、 ここ槍ヶ岳は特にキツイ。
やっぱり3000メートルの世界は少し違う。
2500メートルとは雲泥の差だ。
一歩一歩進める脚は鉛のように重く、呼吸を深く心がけても、十分な満足感はえられず、息も絶え絶え ただひたすら己の肉体との会話に没頭しなくてはならない。
当然お客さん達もキツイはずだが僕もキツイ、おそらく苦悶の表情を浮かべたまま後をふり返ったのだが、幸い全員下を向いてそれぞれの肉体との会話に没頭なさっている様で誰にもそれと悟られずにすんだ。
「さあもう少し、がんばれー!」
と大きな声で檄をとばしたら、 槍沢カールに僕の声がこだました。

 山荘到着後、槍ヶ岳の天辺を往復してきて部屋にはいって寝転がると、窓から槍の穂先が丸見えだった。
「ふう、なんて良い部屋だ。」

 陽が西に傾いてくると次第に飛騨側には雲海が入り、満ちて溢れた雲の波がこぼれる様に西鎌尾根を乗り越していく。
雲の流れが速く目で観てもその流れがわかるほどの滝雲だ。
傾く太陽は徐々にその力を失って、ふり返れば岩だらけの槍ヶ岳の穂先は茜に色づいてそれでもなお胸を張りスクと立っている。
この世のものとも思えない美しさだ。 
思い起こせば怪我をする前、仕事が終わると飲んだくれては夕焼けなどはチラと観たらハイ終わり、ご来光もやはり二日酔い気味の僕にはほぼ無縁で、ギリギリまで惰眠を貪るのが常だったが、これからは少し改心して写真なども沢山撮ってみるか。
さて、いつまで続きます事やら、請うご期待。 

 気分が良くてやっぱり少し飲み過ぎた僕は早々消灯前に撃沈したせいで夜半には目が醒めてしまった。
月は西に沈んはずだなどと布団の中で思いながらさっきの素敵な窓から槍を見上げると、空は綺麗に晴れて天辺に星が降り注いで居る。
「うわー、行かなきゃ」
僕はトイレをかねて撮影する決意を固めた。 
外には他にも寝付かれない人達が結構いて、撮影をしたりたベンチに座ってただだまって空を見上げていたりしている。
それにしても凄い星の数だ。
ぼんやり雲のように見える帯はまさしく天の川だ。
「うわーすげー!」心の中でつぶやく。
一枚撮る度に液晶画面に映し出される星空の写真には、肉眼で見えない世界まで映し出されて、その度息を呑んでしまうほどだ。
しかし、 撮影前の液晶画面には暗すぎて直接夜空は写っていないのでアングルを決めるのは至難の業で、一枚とっては微調整して感で撮るしか無い。
流石にここまで来ると街の光も殆ど気にならず、空は暗く深く辺りは漆黒の闇だ。
遠く宇宙の隅々からやってくる光が時を越えてここに集っている。
「すげーな、全く。」
夢中で何枚も撮影した。
気が遠くなったところで冷えた体を布団に滑り込までせて再び朝までの短い眠りについた。 


追伸:星空の写真にアンドロメダ大星雲が写っています。さあ、どれだかわかりますか? 
ほんのお隣の銀河です。とは言っても254万光年離れているそうです。
つまり、光の速度で254万年かかる距離って事ですね。
アンドロメダ銀河は我々の天の川銀河と急速に接近中で、秒速300㎞の速度で近づいていて40億年後にはこの二つの銀河は衝突しやがて一つになるのだそうです。

あわわっ