「糖分多い飲料に課税を」WHO呼びかけ 世界に広がるソーダ税 日本は沈黙
「糖分の多い飲料に課税を」。WHOがこんな呼びかけをした。世界では、ソーダ税からポテチ税まで特定の飲食物に課税する動きが進む。ロビー活動をはねのけ、ついに米国の大都市でも成立。ただ日本は「具体的に検討していない」と沈黙を続ける。
糖分を多く含む飲料とは、砂糖を加えたり、濃縮果汁を含んだりする商品で、炭酸飲料、果汁入り飲料、スポーツドリンク、エナジードリンク、加糖アイスティーやレモネードなどを指す。
WHOの研究グループがまとめた報告書によると、糖分の摂り過ぎは飲料によるところが大きい。平均して1缶当たりティースプーン10杯分もの砂糖が含まれると警鐘を鳴らす。
WHO指針は、糖分を1日に摂取するカロリーの10%未満に抑えるよう推奨している。5%未満なら健康増進効果がある。成人の場合、前者はティースプーン12杯分の砂糖、後者は同6杯分ほどになる。
糖分の多い飲料を1日1缶以上飲む人は、ほとんど飲まない人に比べて、2型糖尿病になるリスクが26%高い。2型糖尿病は、食べ過ぎや運動不足などによる影響が大きいとされ、日本人の糖尿病の大部分を占める。
報告書は、税金で飲料価格を2割引き上げれば、消費量は2割以上減るという米の研究成果を紹介した。
「各国が、糖分を多く含む飲料のような商品に課税すれば、病気を減らし、命を救える。医療費も減り、税収を医療サービスに投じることもできる」。WHOの責任者ダグラス・ベッチャー博士はこう強調する。
WHOはこんな研究成果も紹介した。コロンビア大の助教らの見積もりでは、アメリカ全土で10年間、糖分の多い飲料に約30ml(1オンス)当たり約1円(1セント)を課税するとしたら、計1兆7600億円(170億ドル)以上の医療費が削減でき、年1兆3500億円(130億ドル)の税収があることになった。
いいことづくしだ。
子どもの肥満も深刻だ。2015年、5歳未満の子ども4200万人が太り過ぎ、または肥満だった。
糖尿病患者も増え続けている。患者の数は1980年の1億800万人から2014年には4億2200万人に増えた。2012年、糖尿病が直接の原因で150万人が亡くなった。
砂糖や塩ーー。アルコールやタバコに加え、健康に悪影響を与える商品への課税は世界各地で進んでいる。計量経済学で政策効果の測定が進んだことも、課税に弾みをつけた。
メキシコは2014年1月、1リットル当たり約5.5円(1ペソ)の加糖飲料税を導入した。商品あたり1割ほどの値上げになった。
米ノースカロライナ大チャペルヒル校の教授らの分析によると、2014年に課税された飲料の購買量は平均6%減った。課税されていない飲料は4%増え、中でもミネラルウォーターの伸びが顕著だった。
2014~2015年の税収は約2700億円にのぼり、学校の水飲み場の整備などに使われた。
米カリフォルニア州バークレー市は2015年3月、砂糖入りの炭酸飲料などに約30ml(1オンス)当たり約1円(1セント)の税金を課した。通称「ソーダ税」で、アメリカ初だった。
カリフォルニア大バークレー校の研究者らの論文によると、税導入後、低所得者層のソーダの消費量は21%落ちた一方、水の消費量は63%増えた。近郊の都市と比べた結果、統計的にソーダ税の効果が証明された。
低所得者層を調査したのは、糖分の過剰摂取による肥満が、より深刻だからだ。
ハンガリーも2011年、通称「ポテトチップス税」を導入。砂糖や塩などを多く含む包装した商品に課税している。
ただ、課税へのハードルは高い。「国家による国民の好みへの過干渉」と非難する声は根強く、飲料や菓子メーカーは阻止しようとロビー活動を展開してきた。
ガーディアンによると、2008年以降、全米40以上の自治体でソーダ税は提案されたが、飲料業界のロビー活動に導入を阻まれてきた。2012年にニューヨークのブルームバーグ市長(当時)が提唱したときも失敗した。
ペンシルベニア州フィラデルフィア市は6月、ソーダ税の導入を決めた。来年1月に導入予定で、約30ml(1オンス)当たり約1.5円(1.5セント)を課す。
同市はこれまで2度、ソーダ税を提案したが、否決されてきた。今回は「教育や公園、図書館に財源を充てる」と戦略を変え、成功した。
全米5番目に大きい都市での可決は飲料業界に衝撃を与えた。米国飲料協会などは9月、ソーダ税は違法だとして、フィラデルフィア市を相手取って訴訟を起こしている。
2011年に1缶に対し約1円(0.01ユーロ)のソーダ税を導入したフランス。ここではコカ・コーラ社が投資計画を中止している。
フランス政府は同年8月にソーダ税の導入を発表。AFPによると、同社は翌月、「当社を罰し、当社の製品に汚名を着せる税に対する象徴的な抗議」として、南部レ・ペンヌ=ミラボーで予定していた17億円(1700万ユーロ)規模の投資計画の中止を発表した。
だが、サルコジ大統領(当時)は押し切った。
WHOによると、英国やフィリピン、南アフリカも糖分の多い飲料に課税する意向を表明している。
「砂糖に課税したらどうか」。日本でもこんな提案が昨年6月、厚生労働省の有識者会議でされた。
保健医療2035提言書で「社会環境における健康の決定因子に着眼し、たばこ、アルコール、砂糖など健康リスクに対する課税(中略)を社会保障財源とすることも含め、あらゆる財源確保策を検討していくべきである」と提案した。
それから1年4カ月。厚生労働省は「税制改正要望は出していない」。担当課があるわけではなく、生活習慣病予防を担当する健康課の担当者はBuzzFeed Newsの取材に、WHOの呼びかけは認識しているものの、「海外の状況を勉強している。一般的に、欧米に比べて、日本は肥満の人の割合が少ないことが多い。具体的な取り組みはしていない」と話した。