“子ども”を取り巻く諸問題

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月経前症候群(PMS, premenstrual syndrome)の漢方治療

2023年05月05日 15時58分31秒 | 子どもの心の問題
漢方医学では「血の道症」という」概念があります。
その定義は「月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性ホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状」です。
そして、血の道症を、生命維持の機能単位である「気血水」の働きが失調した病態と捉え、治療します。
私は小児科医ですが、思春期の月経関連トラブルに漢方薬による治療を提案しています。
ここでは、月経前症候群(PMS, premenstrual syndrome)について、谷川聖明Dr.のWEBセミナーのメモや著作を参考に整理してみます。

以前書いたブログ内の記事で書いた、PMSの症状を再掲します;

▢ PMSの症状
以下の症状のうち、どれか一つでも過去の生理で3回以上連続して起こっている場合に診断されます。

身体的症状
・乳房の痛み、張り
・お腹の張り
・関節痛・筋肉痛
・頭痛
・体重増加
・手足のむくみ

心理的症状
・抑うつ気分
・怒りの爆発
・イライラ
・不安感
・混乱した気分

これらの症状を漢方医学的に捉えるとどうなるでしょうか。
漢方理論の「気血水」で考えてみると・・・

身体的症状
・乳房の痛み、張り → 水毒
・お腹の張り    → 瘀血、気滞
・関節痛・筋肉痛    → 瘀血(肩こり)
・頭痛       → 瘀血、水毒
・体重増加     → 水毒
・手足のむくみ   → 水毒

心理的症状
・抑うつ気分   → 気滞
・怒りの爆発   → 気逆
・イライラ    → 気逆
・不安感     → 気滞
・混乱した気分  → 気滞

というわけで、PMSは漢方医学的に考えると、
気:気滞、気逆
血:瘀血
水:水毒
からなる病態になります。
各個人で、これらの“証”がどのような比率・バランスで生じているかを評価すると、
おのずと方剤が決まるのが漢方医学です。

当帰芍薬散(23)  :水毒、血虚、(瘀血)
加味逍遥散(24)  :瘀血、気逆、(水毒、気虚、血虚)
柴胡桂枝乾姜湯(11) :気逆、気滞、(水毒、気虚)
半夏白朮天麻湯(37):水毒、気虚、気滞

かみ砕いて説明すると、以下のようになります。
あなたに合っている漢方薬はありますか?

当帰芍薬散(23):水毒、血虚、(瘀血)

体力低下、冷え症、貧血傾向のある人用のくすりです。
・PMSの身体症状(腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張り)を改善することが得意。
・陰証の駆瘀血薬。
・月経前に多く分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)は体内に水分をため込む性質があるため、
月経前は水毒の病態を招きやすくなります。
・PMSにおける水毒症状(頭痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張り)には本剤がよい適応になります。

加味逍遥散(24):瘀血、気逆、(水毒、気虚、血虚)

・比較的虚弱で冷え症(冷えのぼせ)の人用のくすりです。
・陽証(冷えのぼせ)、気逆・瘀血を目標に使用します。
・柴胡剤(生薬の柴胡を含む方剤):柴胡は気を巡らせる作用があり、自律神経を調節する働きに優れており、PMSの精神症状(情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、睡眠障害、自律神経症状など)を改善させることが得意。
瘀血症状(頭痛、肩こり、めまい)、気逆症状(精神不安、不眠、イライラ)に合います
・診察所見では、臍傍部圧痛(瘀血)、臍上悸(気逆)が参考になります。

柴胡桂枝乾姜湯(11):気逆、気滞、(水毒、気虚)
・体力が虚弱な人用のくすりです。
・気滞をベースにした気逆の人に合います。
・柴胡を6gと多く含んでます(加味逍遥散は3g)。柴胡は肝の高ぶりを鎮める生薬であり、肝気が強く人一倍がんばれるものの、その後ぐったり疲れてしまう、いわゆる“がんばり屋さんタイプ”に合います。
・瘀血に効く生薬は含んでいません。
・近年では自律神経調整剤的な用途で処方されることが多くなりました。
神経過敏症状(精神不安、不眠、動悸)に対する治療薬として選択されます。
・「隠れ我慢タイプ」「頑張りすぎて疲弊してしまうタイプ」に合います。

半夏白朮天麻湯(37):水毒、気虚、気滞
胃腸虚弱で体力が低下した人のめまいや頭痛用の薬です。
・気虚・気滞・水毒の人に合います(瘀血に効く生薬は含んでいません)。
・胃腸を整え消化吸収を高めることで体を元気にしてくれます。
・長期間のストレスのために心身ともに衰弱し気虚・気滞の病態を呈した場合に適応となります。

上記は主に「気血水」での使い分けを示しましたが、
“陰陽”で分けると次のようになります;

  半夏白朮天麻湯(37)
 ⇩ 当帰芍薬散(23)
 ⇩ 柴胡桂枝乾姜湯(11)
  加味逍遥散(24)


次に、PMSの重症型であるPMDD(premenstrual dysphoric disorder)について考えてみましょう。
PMDDの各症状を漢方医学的に評価すると、以下のようになります;

▢ 月経前不快気分障害(PMDD:PMSの重症型)の症状
✓ 著しく感情が不安定      → 気逆
✓ 著しい怒り・人間関係の摩擦  → 気逆
✓ 抑うつ気分・絶望感・自己批判的思考  → 気滞
✓ 著しい不安          → 気滞

“気逆と気滞の嵐”状態ですね。
すると、選択すべき漢方薬は、
血の異常があれば加味逍遥散(24)
血の異常がなければ半夏白朮天麻湯(37)
ということになりますか。


<参考>
・がんばる女性をサポートする「漢方処方プロセス」(谷川聖明著、南山堂、2023年発行)


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