かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 2の131

2019-02-02 19:30:52 | 短歌の鑑賞
  なぎさ用渡辺松男研究2の17(2019年1月実施)
     Ⅱ【膨らみて浮け】『泡宇宙の蛙』(1999年)P85~
     参加者:泉真帆、M・I、K・O、岡東和子、A・K、T・S、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


131 超新星(スーパーノヴァ)重力に負け爆発すサラリーマンは勝たねど負けず

     (レポート)
 超新星とは「星が急に太陽光度の一〇〇億倍もの明るさで輝きだし、その後一〜二年かかって暗くなっていく現象のこと。もっとも明るいときには銀河全体の明るさに匹敵し、新星の明るさの一〇〇万倍にもなるので、超新星と呼ばれる。これは、星がその進化の最後に起こす大爆発で、その際に放出されるエネルギーは1051(10の51乗)ergと推定されている(略)」(世界大百科事典/平凡社 一九八八年刊)
 サラリーマンは重力(上司の圧力)に勝てはしない、しかし決して負けはしないという。上句の壮大なスケールが結句の「負けず」を爆発的に強くしている。決意ともとれるだろう。(真帆) 


      (当日意見)
★重力って上からの圧力とか、そこから逃げられないとかそういう感じかなと。(真帆)
★いや、超新星が重力に負けて爆発するのは宇宙の事実なんでしょう。下の句はまた別。(鹿取)
★超新星ってものすごい重力なんでしょう。そのくらい強い力で押さえられてもサラリーマンは負
 けない。短歌ってデフォルメするじゃないですか、だから初句はそういうデフォルメ。宇宙科学
 的なスケールの大きなものを出してきて、営々としているサラリーマンと対比させた。(A・K)
★私もそう思って。星は負けてしまうのに私は負けない。(真帆)
★重力というのは別に上から押さえつける力では無いです。上の句と下の句はあくまで別個のもの
 だと思います。上の句にはスケールの大きな詩的なものを据えておいて、全く別の下の句を照応
 させた。重力はもちろん下の句に全く作用していないのではないけど、「勝たねど負けず」のと
 ころは私はむしろ上下関係の圧力よりも横の関係、同僚との競争とかそういうことをうたってい
 るように思いますが。(鹿取)
★天体には詳しくないのですが、超新星って完成するとブラックホールになっちゃうんですよね。
 そして、ブラックホールというのは誰も帰って来れない所ですよね。それで、重力も取り込まれ
 てしまうということだと思います。そばを通ると吸い込まれて出てこれなくなっちゃう。それは
 こっちから見ているとあっという間に見えなくなるけど、当人や宇宙船にとっては永遠にその縁
 でじわじわじわじわ吸い込まれていく、生き地獄みたいだって聞いたことがあって。どうにもな
 らないサラリーマンのセルでしかない自分を時空間を超絶した神様の視点で見ている。「勝たね
 ど負けず」というはったり感が芝居がかった見栄をはっているような感じ、だけれどもユーモラ
 スでもある。超新星にわざわざ(スーパーノヴァ)ってルビを振っているところも面白い。ちょ
 っと英会話スクールのノバを思ったりしました。自分をやや戯画化しているところと宇宙の大き
 さとも響き合っている。(K・O)
★私も超新星とかブラックホールとか難しくて分かりませんけど、ブラックホールは光も取り込ま
 れて脱出できないというんだから(近頃は、光は回復できるという説もあるようだけれど)、何
 ものもそばには近寄れない(そばってどのくらいのスケールか分かりませんけど)。人ってここ
 では宇宙船の乗員ですよね、人間単独で宇宙に行けませんから。でも、人間は月より遠いところ
 にはまだ行っていない訳で、超新星に近づくことや、端から見ることなど到底出来ない。ブラッ
 クホールの縁でじわじわ…というのはだから理論上の話ですよね。今の話はそういう見えない宇
 宙的なスケールのものを漫画チックに見せてくれて面白かったです。松男さんには「菊の香濃き
 平行宇宙へわれすこしスリップをして死にそこないき」という歌もあるんだけど、川の向こうへ
 も飛び移れない人間が、理論上の平行宇宙に飛び移れる訳はないんだけど、もちろん詩の上では
 何でも出来る。そしてそういう映像を思い浮かべるとコミカルで楽しい。(鹿取)
★やっと分かった。超新星「は」って補えばいいんだ。そしたら上の句と下の句が別個のものでく
 っつけているだけだってよく分かる。でも「勝たねど負けず」ってうまいよね。(A・K)
★見栄を張っているってK・Oさんがいわれたけど、そこが哀切ですね。(鹿取)


     (後日意見)
 「重力」をうたった渡辺松男の歌二首をあげる。どちらも第一歌集『寒気氾濫』からで、一首目はの冒頭の一連から、二首目は表題になった「寒気氾濫」の一連から。
重力をあざ笑いつつ大股でツァラトゥストラは深山に消えた
重力の自滅をねがう日もありて山塊はわが濁りのかたち

 「重力」というのは渡辺松男の重要なテーマの一つなのだろう。たまたま手元にある『ホーキング、宇宙のすべてを語る』(2005年刊)には「宇宙の巨大構造を形作るのは「重力」であり、重力についての量子力学を探すことが世界中で取り組まれているし、この本のテーマでもある」という内容のことが書かれている。
 『泡宇宙の蛙』出版後のトークで、松男さんが「量子論的宇宙論も好き」というような発言をされているので(私の手書きメモなので正確ではないかもしれない)、そういうことに深い関心があったのは確かだろう。「重力」というのは渡辺松男の中で宇宙論と哲学を結びつけるような大事なテーマになったのだと思う。(鹿取)

コメント
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