チャップリンの『街の灯』

2008-08-26 20:39:39 | こんなンで委員会
昭和40年代後期、毎月一度、各映画会社の宣伝部を廻っていたことがありました。パンフレットやスチール写真などの資料をいただき、ほんのサワリだけお勧め配給映画の話なんぞを伺いに。

なにぶん方向音痴の田舎モノゆえ、引き継いでくれる先輩に教えられながら、映画会社への道を覚えつつ、さらに宣伝部の担当の人の顔と名前を覚えるのに、目を白黒させる日々だったと思い返しています。

職場には試写会の案内がけっこう来るわけで、見たい人は早い者勝ちなのですが、「これ見たいなぁ~」などと言いつつも先輩方は仕事が忙しく、ために新人で決まった仕事のないヒマな私が、仕事の参考と称して(勤務時間中に堂々と?)観に行く確率は、案外高かったようです^^

試写会に行った人は、(優先的に)映画欄紹介の感想文を書くことになっていました。(そのようにニコニコ笑いながら先輩が言っていたのです・・)でも、誰も書かないようなので私が勝手に書いていました~、あっ違うかナ(笑)

今回はチャップリンの『街の灯』を、回想しながら見てみましょう。以下は昔の記事より抜粋しています。題して「大昔の試写室」より。

*  *  *  *  *

東和映配では、創立45周年記念作品としてチャップリンの十大名作を順次公開する。

その第一弾『モダンタイムス』は大当たりで、続く第二弾が『街の灯』。この後には『ライムライト』『キッド』『黄金狂時代』『サーカス』『独裁者』『殺人狂時代』『ニューヨークの王様』『(チャップリン・パレード)犬の生活者・担え銃・偽牧師』、以上が後に続く予定である。

今回の『街の灯』は1931年、チャップリン42歳の作品で、3年もの撮影時間をかけて150万ドルが注ぎ込まれたという。完全主義者として知られた彼の執念は、数々のエピソードを残している。

特に大金持ち役のヘンリー・クライブをほとんど完成間近かになって解約し、代役としてハりー・マイヤーズを起用、大部分の撮影をやり直したことなどは、ずいぶんと話題になったそうだ。

世界的大不況のさなかに投げ出された浮浪者が、盲目の美しい花売り娘に寄せる恋心を描いた映画である。パントマイムによる豊かな表現力と、わずかな字幕スーパーだけで、圧倒的な観客の共感を呼び起こした。まさしくルンペン・チャップリンの真骨頂、コメディー&ロマンス映画であった。

日本では昭和9年に日劇で公開され、大ヒットを記録したという。が、その後はまったく公開されることがなかった。ではここで、物語を少しご説明いたしましょう。

美しく整えられた街の広場に、正装した紳士淑女たちが集まっている。新しく建立されたこの街のシンボル、繁栄の女神像と騎士像の除幕式が始まろうとしていた。さて、重々しく国家の吹奏とともに幕がひかれると。。なんと、像の上では一人のルンペン男が寝ているではないか・・!

人々の驚きの声、関係者らの怒号が飛び交い、厳かなセレモニーは台無しになった。人々の騒ぎに気付いて目を覚ました彼は、女神像にへばりつきながら降りにかかった。しかし慌てているものだから、破れたズボンのお尻に騎士像の持つ剣が刺さって、どうあがいても抜けやしない。

剣からようやく解放されると帽子をとって、周囲に軽く会釈を繰り返しながら降りて来たのはいいのだが、ついでとばかり銅像の頭に帽子を載せ、その膝へ足を乗せて靴を磨きだす始末。山高帽にだぶだぶズボンでステッキを振り回す”あのチャップリン登場”である。東和の満員の試写室は、ここで爆笑の渦が巻き起った。

『街の灯』の完成をみた時、チャップリンはこんなことを語っていたそうだ。
「私はトーキーが嫌いです。トーキーは世界最古の芸術たるパントマイムの技術を損ないました・・。造形的な美しさは、スクリーンにとって最も重要なのです。視覚による芸術だからです」と。

あえてトーキー化の流れに逆らった『街の灯』は、サイレント映画の一つの頂点として捉えられるかと思う。だから笑い、泣かせる傑作中の傑作なのだろう。(東和配給・1時間27分)

*  *  *  *  *

東京にはキレイな人が多いけれど、東和の宣伝担当さんは、こんな人今まで見たことがないというほど特別の「美女」でした。なぜにこんなキレイな女性がここに?と思いました。映画会社だけに、女優さんにしか見えません。

Kさんといって、フルネームをまだ覚えているくらいです。しかし、女優にすると役が付かないかもしれないの、お顔も体型も華奢で、すべてが小作りでした。ホント惜しいです、身長がもっとあったなら。。。

純白の身体にフィットしたYシャツを、袖口を少し折って格好良く着こなしていて、ひと目で憧れました。むろん私も、白のYシャツを探しましたよ(笑)でも、薄給の身の上。よく仕事帰りに買っていた駅ビル店などの品物では、似たようなものさえありませんでした。Kさんのは、布の素材が薄手で、彼女が着ていると羽衣のようでしたから。

今思うと、高級なイタリア製ではなかったでしょうか。白さが眩しく輝いていたKさんの、凛々しく爽やかなYシャツ姿を懐かしく思い出しています。





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11 コメント

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チャプリン (山小屋)
2008-08-26 20:53:43
チャプリンはサイレンと時代の名役者です。
あの独特の動きは彼にしかできません。
もうあんな役者は出てこないしょうね。
好きな役者の1人です。

トーコさんが演じたらどんなになるのでしょう。
今度「動画」で見せてくれませんか?
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山小屋さんへ (トーコ)
2008-08-26 23:52:01
山小屋さん、こんばんは^^

うんと昔は、”活動写真”と言っていましたね、親たちなどは。
チャップリンは、本当に素晴らしかった。涙が出るほど笑いました。崇高な笑劇(パントマイム)の中には、深い悲しみや強い主張があるのです。

あらら!山小屋さんこそ、今度「動画」を見せてくださいね~ コメントをありがとうございました
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『』街の灯 (kasuta)
2008-08-27 07:53:44
『ライムライト』の美しいメロディと
泣き笑いでみたチャップリン、
切なさが蘇ります。

トーコさんの「大昔の試写室」も白いYシャツのKさんもそれとダブって何だか切なく思えてしまいました。
感情移入してしまったかな。
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Unknown (kasuta)
2008-08-27 08:03:58
「街の灯」の映画のタイトルとライムライトのメロディとごちゃになったかな…
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素敵なお話を (のっち)
2008-08-27 12:50:04
ありがとう。

トーコさんはやはり文章修業をたくさんしてきたんですね。
映像が見えてくる文章が好きです。

この秋、上質の白いシャツを手に入れようかしら。。。


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kasutaさんへ (トーコ)
2008-08-27 20:34:21
kasutaさん、こんばんは^^

だぶって見えて切なくなりました?hhh
映画のメロディーはどれも哀愁に満ちていて、たぶん私も「ライムライト」が一番記憶に残っていると思います。「大昔の試写室」も、今見ると懐かしいものですね
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のっちさんへ (トーコ)
2008-08-27 20:44:36
のっちさん、ようこそ^^

映像が見えてきました?超嬉しいです~、そう言って頂けると

文章が今と変わっていないのは、30年間字を書くことを止めていたからでしょうか。成長していませんね^^;

今まで白いシャツは何枚も買ったけど、Kさんの着ていたようなシャツではないの。あの白いシャツは、彼女だからこそ映えたのでしょう。のっちさんなら、白をどう着こなすかしら。楽しみです ありがとう~
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チャップリン (たくたくろ)
2008-08-27 20:53:47
素晴らしい映画でしたね。
ちょっと情けない主人公が笑えて泣ける、素晴らしい映画だったと思います。
CGや特撮が主流になった現在の映画もいいですが、音がなくても表現できる、こういったシーンこそ芸術と呼べるのだと思います。
人の心を打つのは、見せられる映像ではなく、自分が感じる映像だと思うのです。☆☆
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たくたくろさんへ (トーコ)
2008-08-27 21:37:08
たくたくろさん、こんばんは^^

チャップリンはこの後、トーキーや音楽などを入れた作品も作っています。来日した時は、暗殺計画もあったとか・・コワイですね~^^;
「感じる映像」素晴らしい言葉です。その通り、サイレントって、言語ではなく世界共通で感じるものなのでしょうね。CGもいいものですけれどね ありがとう~たくたくろさん
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チャップリン (かずこ)
2008-08-27 22:19:35
先日チャップリンの秘書を務め挙げた、日本人の
一生をテレビでやっていました。

秘書から見たチャップリンの一生も、感動ものでした。

もちろん秘書を務めた日本人も感動です。
余りテレビは夢中になって見る方では、ないのですが
・・・

テレビも時々は見るといいですね。知識が増えます。

今夢中なのは『篤姫』です。

トーコさんはどのような番組がお好きですか?

今日はいいお話をありがとう!
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かずこさんへ (トーコ)
2008-08-28 14:51:22
かずこさん、こんにちは^^

TVを見るとついつい、夢中に見てしまって「思考停止」?状態になります(笑)なので、TV番組表は見ないことにしています。たまたまつけた時に、時々見るぐらいです。

先日「篤姫」は見ました。皇女和宮を迎え入れる辺りでしたか。確かに見始めると嵌りそうですね。

チャップリンは、日本人の使用人ばかり置いていた時期があったそうで、周囲の人は「まるで日本で暮らしているが如きだった」と。日本人の秘書さんは、きっと素晴らしい人だったのでしょうね。かずこさん、ありがとう~
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