ガード下の天使(宮城まり子)/合歓の木の花

2008-03-30 10:33:19 | こんなンで委員会
その女性(ひと)は、急に怒りだした。

僕は身の置き所もなく、立ちつくすだけ。少し、膝も震えてきて、回れ右して帰りたい気分を、必死にこらえていた。

だって、これはお仕事なんだよぉ。どうあっても、彼女の話を聞いて、記事を1本仕上げなければならないのさ。

僕は、その場の最悪の雰囲気が、ただ後方に過ぎ去るのを、ひたすら待っていた。

時は、昭和46年。場所は、「日劇」の楽屋。女性は、女優の「宮城まり子」さん。

日劇の「秋のおどり」に出演中の宮城さんに、お話を訊けることになっていた・・筈だった。出演中の合間の時間に、楽屋で、と。

マネージャーさんと約束していた事なのだが、どういうわけか、ご本人の宮城さんには伝わっていなくて、彼女は、マネージャーさんを烈しく叱りつけたのだった。

精一杯の舞台を勤めてきて、歌と踊りの後の息づかいは、荒く、辛そうだった。

彼女は、僕のほうを見て、「ごめんなさいね。あなたに怒っているんじゃないの。あなたが悪いんじゃないのよ。悪いのは、この人なんだから・・」と、マネージャーを睨んだ。

それでも、約束は約束だから、と、気を取り直して笑顔を見せて、僕の、若干腰の引けた質問に、ポツポツと答えてくれた。

(この取材をしたのは、当時私の上司であったTさんである。見習社員の私に、温和に笑いながら、聞かせてくれたエピソードを基に、書いています。曰く、あんなにビビッたことはなかった、とか)

歌手で女優の宮城まり子さんが、在宅肢体不自由児のための学校、「ねむの木学園」を建てて、3年半ほどが経過していた。

「私が世の中に出させていただいた歌は、『ガード下の靴みがき』というのですよ。貧しい子どもをテーマにした歌です。そのお陰で、今日(こんにち)の私があり、そういう子どもたちに対しての、なにかココロの負い目のようなものを、ずっと感じてきました」

「この学校建設についても、私はけっして同情や思い上がった気持ちなどでは、全くありません。人に施しをしたり、恵んであげるなどという、慈善事業でもありません。もう、借金だらけなのですから」

宮城さんは「ときどき、私はなんでこんなことをしているのか、よく分からなくなってしまうの」と、言った。

「・・でも、私には丈夫で健康な体がある!あとは、この体を使っての、肉体労働よ~!」と、童顔の可愛い顔を、ほころばせた。という。

まだ、あまり納得していないさまの、Tさんの表情を見て、「あなた。。。本当に困っている人に、道でたまたま出会ってしまった時、何も見なかったみたいに、知らん振りして、通り過ぎれる?私はネ、黙って通り過ぎれなかっただけヨ」

まだ、お元気でご活動されていらっしゃるらしい宮城さんを、少し前に、TVで拝見しました。

優しい語り口、変わらぬ、穏やかでキュートな笑顔、気さくな包容力。この人は、”地上に降りた最後の天使”、のお一人なのかもしれない、と思ったのです。(次回も、宮城まり子さんです)

(合歓の木の花)


(宮城さんをイメージするこちらの写真は、四季彩フォトギャラリー≪森の時計と丘の風≫のkenさんからお借りしました)


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16 コメント

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Unknown (たくたくろ)
2008-03-30 11:53:59
宮城さんのそういう施設をやっておられるのはエライと思います。
しかし、やるからには誠意を持って取り組んでもらいたいですね。
そういう行動するということは大変な苦労を伴うと思います。
すばらしいことです。
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たくたくろさんへ (トーコ)
2008-03-30 15:58:09
たくたくろさん、こんにちは~

いよいよ「鼻毛日記」も、小説へ転進か!?

楽しい小説、これからも頑張ってください

お笑いの方も、好調ですね。スゴイ

宮城まり子さん、ああいう人を天使とか、天女とかいうんじゃないかなぁ、と、ふと思いましたのデス。

コメントとクリック投票、ありがとうございました
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漠然とT上司と同じように・・ (ぶちょうほう)
2008-03-30 18:05:14
トーコ様 こんにちは
宮城まり子さんの番組を小生もこの2-3ヶ月前に、これは偶然でしたがTVで見ました。

小生も当時の御上司の方と同じようなことを今でも思っているのです。
「何故にそこまでするのか?」・・・これは崇高な行為に対して小生のような俗人の持つ卑俗すぎる疑問ですね。
学園発足から今年で40年・・・半端ではないですね。
「ガード下の靴磨き」で演じたキュートで天衣無縫の彼女の瞳の力は>「地上に降りた最後の天使」・・・一万ボルトどころではなさそうです。
続けられてきた努力に頭が下がります。

今日の記事も書き出しから迫力がありましたね。
豪腕で読ませてしまう、その力に参りました。

そこで、ランキングに一票入れてから、退散させていただきます。
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また変えたのですか (ひよどり)
2008-03-30 18:42:42
宮城まり子さんの活躍には深甚なる敬意を表します。
彼女でなければできない頑張りのように見えました。好きな作家であった吉行淳之介さんとのこともあって、気にかかっていた人でした。
露出度が極端に少ない人なので、動静を知る由もなかったのですが、トーコさんのブログでどこまで知ることができるのか、楽しみです。

ランキングのカテゴリーを変えたとのこと、理由の如何を問わず、応援クリックをして戻ります。
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ぶちょうほうさんへ (トーコ)
2008-03-30 20:29:49
ぶちょうほうさん、こんにちは~

私も、たまたまほんの数十秒、TVでチラッと見かけたのでした。今も、ご健在なのだなぁ、と感心しました。

お年の割には、昔の面影がそっくりそのままで、さながら、”天女”のような人だと思いました。

誰しも、「何が彼女をそこまでさせるのか?」疑問です。

1971年頃の彼女が、どんな感じだったのか、垣間見た一瞬間を、熟慮検証吟味、そのままお伝えできれば幸いと存じます。

”豪腕”で読ませてしまいましたか(笑)民主党党首みたい?・・始めの数行で引っ張れるように、これでも一応、考えてはいるんですよ。ほとんど、最初のヒラメキだけで、ぶつけていますけどね。要するに、行き当たりバッタリ。あはは。

コメントと投票クリック、ありがとうございます。また、がんばります!





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ひよどりさんへ (トーコ)
2008-03-30 20:41:51
ひよどりさん、こんにちは~

吉行淳之介さんが、最期の最期まで、甘えて甘えて、甘えきった女性です。

私はね、実は、あまり好きな作家ではないの。吉行さんの本は、読んでいましたけれどネ。。。

宮城さんは、本当に心優しい人。あの包容力は、海よりも深い、母親のようなイメージ。

でも、本人は、「私はエゴイストなのよ!」と言っていました。これも、謎。

コメントと投票クリック、いつもありがとうございます。記事を書く”力”が出ます!
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トーコさんへ (ken(森の時計と丘の風))
2008-03-30 21:29:40
トーコさん、こんばんは!

さっそく伺いました。
文章の素晴らしさに、僕の写真が貧弱に見えますよ(笑)

宮城まり子さんって「地上に降りた最後の天使」なのかもしれませんね。

でも、自分を含めて、少しでも天使に近づきたい
と思います。
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ありがとう! (かおりん)
2008-03-30 23:32:15
トーコさん、こんばんは^^

最近ブログで落ち込んでいました。
写真俳句の辺りからかしら。
何をやってもうまくいかなくて…
今日は励ましてくれて有難うね~♪
とても嬉しかったです *^-^)
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ねむの木学園 (山小屋)
2008-03-31 10:44:32
ねむの木学園は確か静岡県の掛川市の郊外にあったように思います。
数年前にその近くをウオーキングして通ったことがあります。
誰でもできると思うことでもできないことがたくさんあります。
「困った人がいたら手を引いてあげる・・・」
このあたりから実行したいと思います。
トーコさん、いつでも手を出してください。
やさしく引いてあげますよ。
(少し風邪気味の山小屋です。早く放したいです。)
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Unknown (sararin)
2008-03-31 11:14:08
いつもながら深みのある文に魅せられました
真剣に読んじゃいます
またきれいな写真 あとでフォトギャラリーにもお邪魔させていただこうかな

ブログパーツの桜、貼ってみました
パーツ変換後、テンプレート編集画面に行って、
ここぞの場所に貼り付ければOKです
ただね、テンプレートに因っては不可というのもありますので
その辺はテンプレートを選択するときに確認ですね
おしゃれで凝ったテンプレートは組み込めないのが多いみたいです
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