内閣府が公表した有識者による首都直下復興に関する報告書には、現下の財政状況から復興のための資金を増税などにより国民負担を強いる可能性があり、国民にあらかじめ周知させる必要があると述べられている。
昨年11月に検討された首都直下地震復興にかかる経済・財政状況では、避けるべき最悪シナリオと復旧・復興のための財政措置について論議されている。
想定すべきリスクシナリオとして信用リスク、金利・為替リスク、インフレ等の価格リスク、金融機関の破たん、特例措置による混乱、被災地と被災地外とのギャップの面から意見交換されており、BCPが整備された金融機関等のシステムリスクは深刻な事態を想定する必要はないとの結論だ。
信用リスクについては「日本経済の正味資産残高2,787 兆円(平成19 年末)であることもあり、首都直下地震そのものによって日本の信用力が低下することは考えにくい。ただし、土地、証券・株式が仮に値下がりすれば、資産が目減りする可能性はある。例えば、企業や人口が流出するにより東京の地価が下落すると、不動産担保割れ、不良債権化して、それが中長期的な我が国の信用リスクにつながる。」との内容だ。
金利・為替リスクについては、「復興資金66.6 兆円を仮に1 年で調達しようとすれば、約30 兆円の国際収支赤字になり、これを海外から資金調達しようとすれば、為替レート下落圧力、金利上昇圧力となる(日本の国債費は1%の金利上昇で毎年の利払いが3~4 兆円増加)。」との分析だ。
インフレ等の価格リスクは、「国内の住宅着工数(約100 万戸/年)の148%に相当する162 万戸が被災すること、建築物工事費(住宅以外含む、28 兆円/年)の191%に相当する55 兆円の被害であることから、建築コストの上昇圧力はかなり大きいと予想される。」
金融機関の破たんについては、「不動産担保の価格下落、マーケットの崩壊による有価証券価格の低落などによって金融機関の自己資本比率が急速に下がり、海外からの資金調達ができなくなるというシナリオはあり得る。」
注目すべきは現在の深刻な財政状況についてだ。
有識者の意見としては、
①首都直下地震の被害は阪神・淡路大震災と比較にならない規模であり、高齢化や福祉だけでなく国の抱えている大きなリスクの1 つである。
②地震に備えて準備金を積み立てる必要があるが、地震保険も国負担分の全額を積み立ててはおらず、被災者生活再建支援制度に関する国負担分も積み立てていない。首都直下地震の被害は、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震とは桁違いなので、それに対して国・地方自治体がどういうライアビリティ(負債、リスク、責任)を抱えているかを示す必要がある。
③財政需要を賄うには、増税その他の手段による財政的な裏付けが必要でる。
④復旧復興資金の調達のためには、社会保障や福祉だけでなく、首都直下地震というリスクなども踏まえて、財政の環境整備(財政の健全化等)に取り組まなくてはならない。
回避策としては、
①市場影響をできるだけ抑えて資金調達をするため、例えば国際的な再保険市場の活用、CAT ボンド(※高い利率が支払われる代わりに、自然災害が発生した場合に投資家の償還元本が減少する仕組みの債券)市場の活性化、外債発行なども検討が必要ではないか。
②数十兆円という資金を、純資産で3,000 兆円のストックをベースにして対外的にどう説得をして資金調達をするかという枠組みをしっかり考えておくということが必要。国レベルでは関東大震災後の外債調達、あるいは戦後復興の際の公的な海外融資機関とのパイプなどを踏まえ、あらゆるルートを、事前に用意をしておくことが必要ではないか。
④何兆円以上の被害があったときには、ドイツの連帯税(※ドイツ統一後の旧東ドイツ地域の復興を目的として、所得税、法人税の最高5.5%を課税する連邦税)のように、一時的な増税もやむを得ない場合も考えられる。
⑤地震保険の政府準備金1 兆数千億円の8 割程度が国債で運用されているそうで、いざそれが必要な際には、国債を市中で消化しなくてはいけないというリスクもあるのではないか。同様にインフラ整備のための積立金等の基金を準備するような対策を検討する場合も、その資金を国債などで運用していると、いざ必要になったときに資金が逼迫するという問題が出てくる。
今の財政状況で首都直下地震クラスの大地震が発生した場合には国家破たんの可能性も否定できないということなのだろうか。