おつまみミステリー(PART 1)
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デンマンさん。。。 “おつまみ”ってぇ、ビールのおつまみだと思いましたわァ~。。。
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確かに、ムレムレする真夏の日影で おつまみをつまみながら冷えたビールを飲むのってぇ、ルンルン気分になれると思いますよ。。。 でもねぇ~、今日の話はビールのおつまみではないのですよ。。。
どうして、ビールのおつまみではないのですか?
あのねぇ~、実は夕べ、バンクーバー市立図書館で借りていた本を読んでいたら次の絵に出くわしたのですよ。。。
フォンテーヌブロー派
「ガブリエル・デストレとその妹」
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1594年頃の作品
謎のおつまみである。
乳首四つ、指輪一つ、イヤリング二つ、ぜんぶ粒々である。
目玉も唇も鼻の頭も全部粒として描かれている。
指先までも粒になりかけているようだ。
この世界の粒々の強化のために、人体はふわふわの綿みたいに描かれている。
この綿をめくると中にも粒々がぎっしり詰まっていることを、この二人は見る者に教示している。
(注: 赤字はデンマンが強調。
読み易くするために改行を加えています。
写真はデンマン・ライブラリーより)
65ページ 『ルーヴル美術館の楽しみ方』
著者: 赤瀬川原平 熊瀬川紀
1997年2月20日 第11刷発行
発行所: 株式会社 新潮社
あらっ。。。 まだ『ルーヴル美術館の楽しみ方』という本を借りているのですか?
そうです。。。 いけませんか?
つまり、本の中に“乳首をつまんでいる絵”が出てきたので、それを話題に取り上げたのですか?
あれっ。。。 ジューンさんは呆れた表情を浮かべましたねぇ~。。。 (微笑)
だってぇ~、そういうのってぇ~、ちょっと気まぐれと言うか? 単純すぎるのではありませんかァ~?
しかし。。。、しかし。。。、 ジューンさんは、一応キリスト教徒でしょう?
そうですわァ。。。 でも、わたしがキリスト教徒である事と“おつまみ”と何か関係あるのですか?
ありますよ。。。 大有りですよ。。。 だから、僕はジューンさんを呼び出したのですよ。。。
分かりましたわ。。。 デンマンさんが、そのように言うのであれば、さっそく、その理由を聞こうではありませんか。。。 細木数子さんのように余計な事を言わずにズバリ!とその理由を言ってくださいなァ。。。
あのねぇ~、順序良くしゃべらないで、ズバリ!ズバリ!と細木数子のように見境もなく突っ込むと誤解を招いて視聴者から苦情が出るのですよ。。。それで、テレビのお偉方から睨まれ、細木数子は番組を降ろされてしまったのです。。。 物事には順序というものがある!。。。 だから、順序良く、誤解を与えないように、十分に納得のゆくように話さないと駄目なのですよ。。。
とにかく、デンマンさんの記事は長くなるのですわ。。。 できるだけ余計な事を言わずに、手短に話してくださいなァ。。。 これでも、わたしは忙しい身なのですわァ。。。 この後 やらねばならない予定が詰まっているのですから。。。
分かりました。。。 じゃあ、まず次の小文を読んでください。
ヴォルフラム・フライシュハウアー
Wolfram Fleischhauer
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(1961年6月9日~ 現在)
ドイツの小説家、推理作家、ファンタジー作家。
男性。
ドイツ南西部の都市カールスルーエ生まれ。
地元のギムナジウムを卒業したのち、ドイツ、スペイン、フランス、アメリカ合衆国の大学で文学を専攻した。
16世紀末に描かれたとされる「ガブリエル・デストレとその姉妹ビヤール公爵夫人とみなされる肖像」(ルーヴル美術館所蔵)に関する謎をテーマにした歴史ミステリ小説『緋色の線』(未訳 Die Purpurlinie)で1996年にデビュー。
1999年発表の第二作『雨の手の女』(未訳 Die Frau mit den Regenhänden)は2000年のドイツ・ミステリ大賞でドイツ語作品部門の第3位となった。
2001年発表の第三作『殺戮のタンゴ』はタンゴをテーマにしたミステリ作品で、ドイツとアルゼンチンが舞台になっている。
フライシュハウアーはアルゼンチンの作曲家アストル・ピアソラのファンで、この作品は1998年にアルゼンチンを旅したのをきっかけに構想された。
原題の『現実との三分間』(Drei Minuten mit der Wirklichkeit)はピアソラの同題のタンゴ曲からとっている。
2004年にはミヒャエル・エンデの小説『はてしない物語』の世界観に基づく小説を複数の作家が執筆する《ファンタージエン》の企画に参加し、『ファンタージエン 反逆の天使』を発表している。
小説の執筆のほか、欧州連合(EU)の会議の通訳などの活動もしている。
出典: 「ヴォルフラム・フライシュハウアー」
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
このドイツ人のフライシュハウアーさんは、上の絵、つまり16世紀末に描かれたとされる「ガブリエル・デストレとその姉妹ビヤール公爵夫人とみなされる肖像」(ルーヴル美術館所蔵)に関する謎をテーマにした歴史ミステリ小説『緋色の線』(未訳 Die Purpurlinie)で1996年にデビューしたのですよ。。。
つまり、ミステリー作家を惹きつけるほどの謎が上の絵には隠されているのですか?
そうですよ。。。 要するに、この絵は普通の絵じゃないのです。。。 だから、『ルーヴル美術館の楽しみ方』の著者の赤瀬川原平さんの目にも、ちょっと変わった絵として映ったのですよ。。。 僕の目にも不思議な絵という印象を与えた。。。
どこがそれほど不思議なのですか?
あのねぇ~、ちょっと次の小文も読んでみてください。
画家の遊び空間
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何が楽しいかというと、絵の中に埋もれた画家たちの私小説が読めるのである。
タッチの表現を封じられた時代の画家たちのタッチが見える。 (略)
絵を描く筆触(タッチ)は画家の存在証明である。
絵を鑑賞する裁判官はタッチなどではなくそのテーマによって判決を下そうとするが、画家には絵のタッチがアリバイである。
アリバイとは岩波国語辞典によると「犯罪が行われた時、その現場以外の所に居たという証明。現場不在証明」とある。
この「犯罪」を「テーマ」という言葉に置き換えると見えてくるのだ。
もちろんその絵はすべてその画家が描いた。
画家はその絵の中心にあるテーマを描き上げることに奉仕している。
絵の隅にはサインもあるし、証拠は挙がっているのだ。
とはいうものの、いっぽうそのころ、画家はその絵のテーマの外にもいて、絵の中の部屋の隅、机の下、窓の外、窓の外の森、森の向こうの山並み、青空、白い雲など、絵筆があちこち遊び回っていることも事実である。 (略)
このころの絵のテーマというのはだいたいにおいて人物である。
肖像的要素をもつものがほとんどである。
その場合人物の中心は顔である。
その顔の中心といえば2つの目と1つの口を結ぶ三角地帯で、そのまた中心をあえていえば鼻の先であろう。
つまり、一枚の肖像画があり、その中心は鼻の先にあるのだ。
そこがテーマの頂点であり、画家のタッチのもっとも禁じられている場所である。
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だから、鼻の先、2つの目、その間の眉間、唇、頬、といった顔面中心部は、絵の中でもっともツルツルに仕上げられている。
もちろん絵筆で描いているのでタッチがないわけではないが、そのタッチが綿密に押し詰められて、点がぎっしり並んで面になるという感じで、タッチの凹凸がそこでは完全に埋没してツルツルになっているのである。
そしてそのタッチ厳禁の場所を離れるに従って、タッチの並びは水面下でゆるやかになり、ちょうど魚の背鰭が水面からときどきのぞくみたいに、ほんのりとタッチが顔を出すようになる。
そしてさらに顔面を離れ、人物を離れ、部屋の床や壁や窓の外の風景などに行くと、タッチはピュン、ピュンと飛びはじめてくるのだ。 (略)
顔面中心の目と鼻の先の近辺だけは、とりあえずツルツルに描くことに留意している。
その中心部ではタッチを殺しながら、そこを離れた周辺部ではタッチが嬉しそうに飛び跳ねている。
画家はそこで遊んでいるのだ。
絵の中心部では重々しい受難のキリスト像が、あるいは威厳ある顔つきの実力者像が、タッチを押し殺して出来上がろうとしている。
いっぽうそのころ、そこを離れた窓の外の風景の森の葉っぱで、画家の筆先はテーマの重力を脱したかのように、すいすいと軽やかに跳ね回り、遊び回っている。
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(注: 赤字はデンマンが強調。
読み易くするために改行を加えています。
写真はデンマン・ライブラリーより)
96-99ページ 『ルーヴル美術館の楽しみ方』
著者: 赤瀬川原平 熊瀬川紀
1997年2月20日 第11刷発行
発行所: 株式会社 新潮社
上の文中に出てくる「聖セバスティアンの殉教」という絵はルネッサンス期の画家のソドマが1525年に描いたものですよ。。。 この上の絵を見れば、誰が見てもテーマは聖セバスティアンの殉教だということが分かる。。。 ジューンさんはキリスト教徒だから、もちろん、分かりますよねぇ~。。。?
キリスト教徒じゃなくても分かりますわよう。。。
でも、ジューンさんならば、絶対に間違った事を言わないと思ったから呼び出したのですよ。。。 (微笑)。。。 上の「聖セバスティアンの殉教」という絵は、真面目な絵です。。。 それでも、画家の遊び空間が上の絵にもある。。。 それが、背景の風景画ですよ。。。 この部分で、ソドマは息抜きして自由に書いている。。。 ところが、「ガブリエル・デストレとその妹」の絵は、見る人に“真面目なテーマ”を感じさせないところがある。。。 すべてが画家の遊び空間になっている!
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じっくりと見なくても、この絵には どことなくふざけたような印象を見る人に与えるのですよ。。。 ジューンさんも、そう思いませんか?
確かに、「聖セバスティアンの殉教」という絵と比べると、どことなくユーモアを感じさせる微笑(ほほえ)ましい絵だと思いますわァ。。。 うふふふふふ。。。
でも、いくら微笑ましい絵だと言っても、この絵をジューンさんが日曜日に行く教会の祭壇に飾るわけにはゆかないでしょう!?
そうですわねぇ~。。。 で、上の絵は、そもそも どのような意味が込められた絵なのですか?
調べてみたら次のようなことが書いてありましたよ。
《ガブリエル・デストレとその妹》
ミステリアスにして
セクシーな作品の意図は?
謎に包まれたこの絵は作者も不詳で、フォンテーヌブロー派の誰かとしか分かっていない。
貴婦人の入浴図はこの派の画家たちが好んだテーマで、浮気ごころのシンボルとしてしばしば用いられた。
画中には、奥の部屋の暖炉の上に、裸の男性の下半身が見える絵も掛かっている……
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ルーヴルの絵画で不可思議な印象をもたらすのは、2人の美しい女性が入浴しているあの絵だろう。
画面左の女性が右の女性の乳首をつまみ、右の女性が指輪を見せている、優美で官能の薫り高いフォンテーヌブロー派の作品だ。
その前に立つと、あなたは思わず見とれ、そして首を傾げるだろう。
この美女たちは誰で、いったい何をしているのかと。
伝承によると、右の女性は国王アンリ4世の寵姫ガブリエル・デストレ、左はその姉妹ビヤール公爵夫人。
一説には、2人の謎めいた仕草は、ガブリエルが国王の私生児を身ごもり、正式の結婚を望んでいることを示し、奥の部屋では侍女が生まれてくる赤子の産着を編んでいるのだという。
だが最終的な結論は出ていない。
ちなみに、国王を夢中にさせたガブリエルは王妃の座へという願いかなわず、悲惨な最期をとげる。
アンリ4世の4人目の子供を身ごもっているときに、26歳で突然死したのだ。
毒殺の疑いがあるのは、彼女を警戒する敵が多かったからだが、真相は闇の中。
子供のいない王妃マルゴとの離婚を認められたアンリ4世が、ガブリエルの死後に再婚した相手こそ、「物語と事件」(CREA Traveller 2013年夏号 P78~に掲載)で紹介したマリー・ド・メディシスで、
こちらは愛のない政略結婚であった。
(上の絵はデンマンライブラリーより)
『ミステリアスな名画の謎解きをルーヴルで』より
貴婦人の入浴図はこの派の画家たちが好んだテーマで、浮気ごころのシンボルとしてしばしば用いられたと書いてありますけれど、そうなのですか?
あのねぇ~、フォンテーヌブロー派の画家たちだけじゃなくて、中世でも貴婦人の入浴図は、浮気ごころのシンボルとして、たびたび描かれたのですよ。
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上の絵は1470年から1480年頃に描かれたものだけれど、中世の浴場の場面なのです。。。 見れば分かるように男女が一つの浴槽に浸かって、テーブルに向かって仲良く座って食事をしている。。。 そのあとで、すぐ上の絵に描いてあるように個室に入ってベッドでシコシコと睦み合うのですよ。
でも。。。、でも。。。、「ガブリエル・デストレとその妹」の絵では、姉妹が一つの浴槽に入ってますよねぇ~。。。 どういう意味があるのですか?
だから、それが謎ですよ。。。
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言い伝えによると、右の女性は国王アンリ4世の寵姫ガブリエル・デストレで、左の女性は妹のビヤール公爵夫人。。。 2人の謎めいた仕草は、ガブリエルが国王の私生児を身ごもり、正式の結婚を望んでいることを示している、と言うのですよ。。。 それを補強するかのように奥の部屋に侍女を描き込んでいる。。。 この侍女が生まれてくる赤ちゃんの産着を編んでいる、と説明しているのですよ。
そう言われてみると、確かに、それらしくも見えますよねぇ~。。。 デンマンさんも、そう信じているのですか?
あのねぇ~。。。 結局、真相など分かるはずがないのですよ。。。 僕に言わせてもらえば、「ガブリエル・デストレとその妹」の絵は、誰が描いたのかも判明してない。。。 つまり、もともと、ある画家が画家の遊び空間で描いたものなのですよ。。。 真相を突き止めるのは野暮というものです。。。
つまり、この事を言うために、わざわざ わたしを呼び出したのですか?
いや。。。 もしジューンさんが「ガブリエル・デストレとその妹」の絵のコピーをジューンさんの教会の祭壇に飾るのだとしたら、止めた方がいい、と言いたかったのですよ。
わたしが、そのような事するわけないでしょう!
そうでしょう。。。 そうでしょう。。。、するわけないですよねぇ~。。。 でもねぇ~、ジューンさんにも“遊び心”があるから、万が一ということだってあるでしょう!? その時には次の絵を教会の祭壇に飾ってくださいねぇ~。。。
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(すぐ下のページへ続く)