7 (出産)
三男坊が朝方、寝返りを打って手を伸ばすと、布団に湿った、ヌルっとした感触を感じて、「あれっ!何だろう?」とびっくりし、一瞬、自分の股間に手を持って行ったが、そこには何も変化がないので、ほっと一息し、あれよ、なんだろう?と、布団の中に手を這わせていくと、何やら生暖かいものに触れた。おっかなびっくり、そのものに触ってみると、ぐにゃぐにゃと動いている。びっくりして、起き上がり、布団をめくると、そこには数匹の猫のあかちゃんが蠢いていた。三男坊は、そこではじめて状況が飲み込めたようだった。「よりによって、俺の布団の中で、子供を産むことはないだろう!」と、ぶつぶつ言いながら、さて、どうしたものかと考えた。取り敢えず、赤ん坊の寝床を用意しないといけないと思い、家の中を物色し、段ボールとぼろ切れを探してきた。段ボールを土間に置き、中にぼろ切れを敷き詰めた。そして、赤ん坊をその中に移した。
三男坊が濡れた布団は外に干していると、母ちゃんが来て、「どうした?」と聞いてくるので、「猫が俺の布団の中で、子供を産んでしまったんだ!」と答えたが、母ちゃんはさして驚いた様子見せずに、「そうなんだ・・・」と言って、作業小屋の方に歩いて行った。
私(猫)が家に戻ったのは、それから少ししてからのことだった。家に戻ると、三男坊が居たので、私は、三男坊の目を直視できずに、三男坊を避けるように通り過ぎた。三男坊の布団の中に、赤ん坊を産み落としてしまったのだから、三男坊はさぞかし起こっているだろうとドキドキ、ひやひやものだった。三男坊も何も言わずに、私が通り過ぎるのを見ていた。
私は、赤ん坊がどうなったのか?三男坊に捨てられてしまったのか?心配していると、赤ん坊の鳴き声が聞こえてきた。声のする方へ歩いていくと、土間には段ボールが置かれていて、声はそこから聞こえてくるようだった。段ボールの中を覗くと、わが子たちが這いまわっていた。中には、ぼろ切れが敷かれ、赤ん坊たちが寒くないようにと、ぼろ切れも敷かれていた。私は、早速段ボールの中に入って、横になって、赤ん坊たちにおっぱいをあげた。しばらくして、段ボールから出ると、三男坊がご飯を用意してくれたので、それを食べた。
昨夜は少し冷え込んでいたので、いつものように、三男坊に布団の中に引っ張り込まれ、足の方で、三男坊の足を暖めさせられていた。私も、体が暖かくなると、急に眠くなり、そのまま三男坊の布団の中で、眠りについた。どのくらい眠った頃だろうか、急にお腹が痛んで、破水して出産が近いことを察したが、もうその時には、布団を出るなどという余裕はなく、そのまま三男坊の布団の中で出産することになってしまった。私は何という失態をしてしまったことか、ちょっとだけ、後悔したが、まあ、仕方ない、後はなるようになるしかないと腹を決めた。朝方、布団を出て、庭を散歩して、心を整えて、家に戻ったのだった。
三男坊もなかなかやるじゃないか?と、ちょっと見直すことにした。この後も、何かと私を気遣ってくれるようで、私を見ると、ご飯を用意してくれるようになった。まあ、飽きっぽい三男坊だから、そのうち、忘れてご飯の用意何かはしなくなるだろうが、ここはひとまず感謝しておこう。