第2次世界大戦のさなか、イタリア・トスカーナ地方の村で、全村民がナチによって虐殺された事実に基づく小説の映画化です。
第2次世界大戦でファシストから自由を勝ち取り、連合国側を勝利に導いた勇敢なアメリカ合衆国とその軍隊。 ヨーロッパで反ファシストの栄誉あるたたかいを繰り広げたパルチザンの闘士たち・・・正義と祖国愛という名のものとに命をかけた戦いに存在した人種差別、裏切り。
アメリカ、ドイツという異なる立場でさえ、軍隊という組織の非人間性、そのなかでも人であろうとする理性に光を当て、痛恨の歩みを未来につなぐ希望と、戦渦のもとで極限状態におかれた一人ひとりの葛藤を描いていて秀逸な作品だと思います。
タイトルの「奇跡」とは・・・、ナチスによる村民虐殺の中、たった1人生き残った少年。そして、40年後の殺人事件は、自分だけが生き残ったことへの悔恨の生を解きほぐすもうひとつの奇跡となります。
この物語の奇跡は、人の中に存在する残虐と、奇跡を生み出した人間性を描き、希望を紡ぐ物語になっています。
この希望に溢れた奇跡は、それゆえ永遠に語り継がれていくとともに、伝説の物語として、地上にふたたび起こり得ない物語であってほしいと願わざるを得ません。
第二次世界大戦ではナチスドイツと同盟国であり、原爆の惨禍を経験した日本であればこそ、その歴史もまた多くの奇跡をはらんでいるに違いありません。
残念ながら、アメリカではB、Cランクに評価され、日本での公開は一部劇場に限られてしまっています。
実際、ナチと黒人兵の銃撃戦のシーンはアフガニスタン、イラク戦争を彷彿とさせ、戦争の終結を切に願いました。
「大いなる陰謀」(Lions for Lambs :2007)、「告発のとき」(In the Valley of Elah:2007)など、イラク戦争批判の視点で製作された秀作も一部劇場でしか公開されませんでしたが、こうした映画が作られ続けられていることもアメリカ映画という世界の見逃してはならない側面だと思います。
セントアンナ村の悲劇は、チェコ・プラハ近郊のリディッツェ村の虐殺を思いおこさせました。アウシュビッツから生還した子どもたちと村の復興もまた奇跡と呼べるかもしれません。
監督:スパイク・リー 脚本・原作:ジェームズ・マクブライド
キャスト:デレク・ルーク(スタンプス二等軍曹)、マイケル・イーリー(ビショップ三等軍曹)、ラズ・アロン ソ(へクター伍長)、オマー・ベンソン・ミラー(サム・トレイン上等兵)、マッテオ・シャボルディ(アンジェロ)、ジョン・タトゥーロ(リッチ刑事)、ヴァレンチナ・チェルビィ(レナータ)、オメロ・アントヌッティ(ルドヴィコ)