昨年の9月21日に発売した米アップルの新型スマートフォン(多機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)5」。発売から3日で前の型の「4S」より100万台も多い500万台を売る大ヒット商品となっているのはご存じの通りですが、いま欧米では、そんなアップルが何と、来年に廉価版の「iPhone mini(アイフォーン ミニ)」を発売するのではないかと大変な噂になっているのです。
「新年が明けて間もないのに、もう来年の話かいな」と呆れられそうですが、年明け4日付ロイター通信や米経済誌フォーブス(電子版)、8日付米紙ウォール・ストリートジャーナル(WSJ)電子版など、年明け早々から欧米の主要メディアが続々と報道しています。
米大手調査会社ストラテジー・アナリティクス社の実務担当責任者、ニール・マウストン氏がロイター通信との電子メールインタビューで、その可能性について具体的に言及したことがきっかけのようです。
マウストン氏はそのインタビューで、昨年、北米や中国、アジアの先進国、欧州といった世界の主要市場でのスマホの総出荷台数は前年比41%増と猛烈な伸び率を示したものの、今年はその伸び率が27%増の8億7500万台で、これまでの勢いが鈍化すると明言。
さらに、こうした鈍化傾向に加え、「ギャラクシー」シリーズで知られる韓国のサムスン電子のスマホが今年、前年比35%増の2億9000万台と好調な売り上げを維持する一方、アップルのスマホは前年比33%増の1億8000万台になると予想しました。アップルはサムスンより1億台あまり負けているわけです。
そのため、スマホの世界市場での今年のシェアも、サムスン電子が前年比2ポイント増の33%なのに対し、アップルの方は前年比1ポイント増の21%で、サムスン電子との差は開いたままです。こうした事情を踏まえた上でマウストン氏は、アップルがサムスンのシェアに打ち勝つため「アイフォーン ミニ」の発売に踏み切ると指摘するのです。
マウストン氏はロイター通信に「アップルは、現在のアイフォーンを購入する余裕のない世界中の何億人ものプリペイド(料金前払い)式携帯電話の利用者に対応するため、今後3年以内に『アイフォーン ミニ』を発売せざるを得なくなるだろう」と説明。
さらに「現在『アイフォーン5』の市場が急速かつ有益な成長を遂げているため、『アイフォーン ミニ』は今年ではなく、恐らく2014年に発売されるだろう」と予想しました。
また、ロイター通信は同じ記事の中で、米調査会社トピカ・キャピタル・マーケッツのブライアン・J・ホワイト研究員が2日「アップルは中国やインド向けの小型で低価格のアイフォーンを販売する可能性がある」との見方を示したと紹介。
一方、欧米のIT(情報技術)系ネットメディアは米大手投資銀行ジェフリーズのアナリスト、ピーター・ミセック氏の「アップルは今年の6月か7月、200ドル~250ドル(1万7400円~2万1750円)の廉価版アイフォーンを発売するだろう」との発言を取り上げ、噂や憶測を大いに盛り上げています。
アップル側はこうした報道へのコメントを一切拒否していますが、WSJは関係筋の声として、早ければ年内に発売される可能性があり、背面の剛性アルミを樹脂に変えるなどして低価格を実現すると説明しました。アップルの狙いは確かに正しいでしょう。実際、中国やインドだけでなく、米国でも低価格のプリペイド式携帯電話の市場はどんどん拡大しています。
昨年の9月27日付WSJ電子版は「携帯電話のない生活」という見出しの記事で、不況が続く米国では、節約のため、スマホの高額プランに見切りを付け、低価格のプリペイド式携帯電話に乗り換える人が急増していると報じました。記事では、かつて毎月65ドル(約5600円)の携帯電話代を支払っていたものの、節約のため、数年前から携帯電話を全く使っていない54歳の女性の逸話や、実際にプリペイド式携帯電話に乗り換えた人々の生の声を紹介。
同時に、スイスに本拠を置き世界的な業務を展開するUSB銀行の調査結果を引用し「米国での昨年の第2四半期(4月~6月)の新規携帯電話契約者数は2億1700万人で前年同期比0・5%増とほぼ横ばいだが、プリペイド式携帯電話の利用者は11%増の7400万人で2ケタの伸びを見せた」と説明しています。
また、米独立系世論調査機関ピュー・リサーチ・センターの調べとして、全米で携帯電話を持っていない成人は全人口の約12%、人数にして約3000万人にのぼるが、過去2年間で貧困層や高齢者の所有者が若干の増加を見せたと報じました。この「若干の増加」分が低価格のプリペイド式携帯電話なのは間違いないでしょう。
さらに米国では携帯電話に限らず“プリペイド”のサービスが今後、有望な市場に成長すると見込まれています。個人的にも非常に興味深い記事だったのでよく覚えているのですが、昨年の10月8日付WSJ(電子版)が、米クレジットカード大手、アメリカン・エキスプレスと米大手スーパーマーケット・チェーンのウォルマート・ストアーズが共同で、中産階級から低所得者層に向けたプリペイドカード「ブルーバードカード」を発行し、全米の3925店で取り扱いを始めたというのです。
米国では、個人の生活に欠かせない銀行の当座預金が持てなかったり、口座の維持費の支払いに不満を持つ層が増えていることに着目したアメックス側と、カードで顧客を囲い込みたいウォルマート側の思惑の一致から生まれたサービスです。記事によると、米国で当座預金口座の月間維持費を支払わなくてよい最低預金残高の平均は前年比23%増の723ドル(約6万3000円)、さらにこの金額を下回った際に必要となる月間維持費の平均も前年比25%増の5ドル48セント(約480円)とそれぞれ、大きく値上がりました。
これには理由があります。2010年に導入された銀行に対する新たな金融規制法「ドッド・フランク法」のせいで、金融機関はデビットカードの手数料の値下げを余儀なくされ、その代わりに口座に関するさまざまな手数料の値上げに踏み切ったのです。
そのため、中産階級や低所得者層には、当座預金の口座を持っていなくても発行が可能なプリペイドカードが人気を集めているのです。さらにこの「ブルーバードカード」は他のプリペイドカードと違って入会金も維持費もほぼ無料です。プリペイドカードを発行する上位50社の1昨年の総決済金額は前年比25%増の7990億ドル(約69兆円)。クレジットカードやデビットカードの約2倍の伸び率といいます。
米国と同様、格差社会がどんどん進む日本でも、今後、こうした“プリペイド”ビジネスが盛んになると思われますが、これを“貧困ビジネスの一種”だと思ってしまうのはひねくれ者の記者だけでしょうか…。
(岡田敏一)
競争が激しくなっているので、最期はやっぱり価格勝負ということになるのでしょうね。
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