最近私は、人との関係について、相手に伝えられたことよりも、
伝えられなかったことについてよく考えている。
人は人に対していろいろな思いを抱くものだが、
相手に届く思いはそのうちごく僅かで、
届けられなかった思いの方がずっと多いように思う。
ポジティブな思いだけではなく、伝えずにいた方がよい、ネガティブな思いもあるだろう。
世の中には、伝えられないまま、胸のうちに留まっている人々の思いが満ちている。
コミュニケーションを通じて相手に届く思いは氷山の一角のようなもので、
人の心の水面下には、巨大な氷の塊が鎮座しているのだ。
そのエネルギーの総量はいかほどのものになるだろう。
私は胸に沈んだこの氷の塊が、意味のないものとは思いたくない。
相手に届けられなくても、存在しなかった訳ではないし、
無価値なものとは限らない。
思いが相手に届いて化学反応を起こし、
関係性に何らかの変化が生じるのは貴重で美しいことだが、
胸に重みを感じて生きることにも、何らかの意味や可能性があると信じていたい。
伝わらなかった思いは、自分の中で変化して、
自分を活かす前向きなエネルギーになればいいなと思う。
届かなかった思いが自分の中で、美しい結晶になって輝けばいい。
結晶は人の心の一部を形づくり、その人の表情や仕草や眼差しとなって、
外に表れ出ていくだろう。