若い人が高齢者を労る様子を見ていると心が温まる。なかなかできることでは無いと思う。しかし、最後に言った一言がそれまで親切に接してきたことを台無しにしてしまうことがある。そしていっぺんに気持ちを萎えさせてしまうのである。例えば、ある高齢者の方(M氏)が、若い方と一緒に日帰りの旅をしたという。天気も何とかもって楽しい一日を過ごすことができた。そして帰りのバスの時刻表を見ると、ほぼ同時刻に発車する立ち席だけになってしまった急行バスと時間が2倍かかるが座っていける普通バスがあった。どちらのバスに乗るかで迷っていた。M氏の方はかなり疲れていたので座っていく方を選んだ。そのとき一緒にいた若い方が、「面倒くせー」と小声でつぶやいた。その一言で、この若い人の気持ちが分かったような気がして、迷惑をかけているんだなと思うようになったという。これからは迷惑をかけてはいけないと思ったそうである。それでこれ以後この若い方にどこかへ行くときに同行してもらうことを止めることにしたという。何か誤解があるのかも知れないが寂しい別れである。
筆者が初めて山手線の電車に乗って若い方に席を譲られたのは、品川へ行くために渋谷から乗車したときであった。当時筆者は70才に手が届いた頃だった。「品川までですから」と遠慮したのだが、彼は再度どうぞといって降車口の方へいってしまった。筆者はお礼を言って気持ちよく座席に着いた。そのとき筆者も電車内で席を譲られる年になったのだと少し寂しい気がしたのも事実であった。
乗り物の中で高齢者や身体に不自由のある方に席を譲るのは少々勇気のいることであったのを思い出す。しかし健常な若い人は、高齢者を初め身体の不自由な方に是非席を譲って下さるようお願いする。