前回の記事の文末にて、大学院にて建築縮小模型に関するユニークな論文を書いて話題を振りまいていた友人へ、久しぶりの電話をかけた旨を書きました。卒業式以来ずっと会っていませんでしたが、20数年振りの突然の電話にも動じることなく、「星野か、元気そうやな」と笑っていた相手が、まさか同じ京都に住んでいるとは思いもしませんでした。実家のある山口県にUターン就職したと聞いていたからです。
「いやあ、実はな、会社の支店がこっちにあるんでよ。3年前に異動できたのよ」
「支店か、どこなん?」
「四条堀川。住んでるんは西大路四条」
「おお、こっちも西大路の九条や。なんや近所やったのか・・・・」
「世間は狭いって言うからな・・・、ははは。しかし懐かしいな。今からどっかで会ってメシ食おうかや」
「いいね、そしたら、七条のフレンドリーはどうかね」
「ああ、知ってる。そこでええ。じゃ一時間後に」
というわけで、思いがけなくも大学時代の学友と再会することが出来ました。双方とも食べるよりも話す方にエネルギーを費やし、お互いの近況を報告し合って話が一段落した後、続きはコーヒーを飲みながら、ということで西大路八条のコメダに移動し、そこでようやく本題に入りました。
「俺の大学院時代の論文のテーマ?・・・何やね、それが・・・どうかしたのか?」
「確か、箱庭がどうとか、箱の中に小さな模型を入れるとか、そんなふうな建築模型の有り方を提唱してなかったっけ?」
「ああ、インボックス・ジオラマのことか」
「インボックス・ジオラマ・・・」
「うん、俺の論考上の造語なんよ。インボックスってのは、本来はインテリアの収納用品の一種の品名でな、一般的にはカラーボックスとかに入れる引出し風の箱を指す」
「そういう箱は、僕も持ってる。実際にカラーボックスに入れて引きだしみたいに使ってるな」
「その箱のような形で、棚やカラーボックスにスッポリと収納可能なジオラマや建築模型、というものの限定性の中での可能性を論じたんだな。そしたら、要するに箱庭じゃねえか、って笑われた。これは箱庭と違うの、似て非なるものなの、ポイントは、収納が楽で場所をとらない建築模型とはいかにあるべきか、ってことなんでな・・・」
「その建築模型ってのは、どういうものなんかね」
「まあ、色々あるけど、俺の場合はカラーボックスを基本単位としてたんで、そのサイズにぴったりおさまる模型、となる。小型のドールハウスなんかをイメージするとええかな」
「ドールハウス・・・、うん、なるほどな・・・」
「俺が論文書いてた時は、1/35サイズの戦車のプラモデルを含めた建築の模型、ってのを基本イメージにしてたんやけどな」
「えっ、戦車のプラモデル・・・、模型雑誌で見かけるAFVの情景ジオラマかね」
「うん、カラーボックスの中にそういうジオラマを収めて気軽に収納出来るようなサイズで作る、という形やな。ただ戦車を並べるだけじゃなくって、建物の模型と一緒に楽しむわけ」
ただ戦車を並べるだけ、という状態は、まさに私の部屋の本棚のそれです。上図のように、ガルパン車輌が並んでいます。
私の家のカラーボックス群です。縦にしたり横にしたりして、現在は「けいおん」の琴吹紬グッズコーナーやDVDなどの収納スペースに使っています。こういうスペースに収まる模型のサイズが、友人の言うところのインボックス・ジオラマ、であるそうです。
考えてみると、ジオラマ模型というのは大きなサイズのものが多く、どうやって収納して保管したら良いか、という問題がつきまといます。友人の視点では、まず収納可能なサイズを決めておき、それを一般的な家具の一つとして大抵の家庭にあるカラーボックスのそれに合わせています。そこからジオラマを設計すれば、インテリア品としても機能するだろう、カラーボックスがあれば、場所をとらないだろう、ということです。
地味で何でもないことのように思えますが、着想としては良いのではないかと思います。
例えば、私の部屋の一角にあるこのカラーボックス、現時点ではガルパン公式キットなどをとりあえず入れています。いずれは開封して制作し、片付くことになります。
プラモが片付きますと、こんな感じにスペースが空くわけです。このスペースに収まるサイズで、建築模型の一種として、モケジョのユキさんに提案された「けいおん部室」を作るのは、なかなか面白そうに思えました。
「けいおん」のミニフィギュアである「ねんどろいどぷち」と「きゅんキャラ」の二つのシリーズの製品を全部集めている身としては、ただショーケースに入れて飾るだけでなく、けいおん劇中の空間をも再現して、そこに並べてみたい、という願望もあります。「けいおん部室」というジオラマは、その究極の空間として、けいおんファンの憧れの一つになっているはずです。
それを、インボックス・ジオラマという「規格」で、気軽に収納出来るという観点で作る、という試みは、一度チャレンジしてみる価値があるのではないか、と思いました。
それで、友人に肝心な事を一つ訊ねました。
「インボックスジオラマで建物の模型を作ろうとする場合、人形とかはあった方が良いかね?」
「それは、あった方が良い。ドールハウス的に作るパターンもあるけど、俺の場合は建築空間内における動線のイメージ示唆、という意味合いが強いかな」
「なるほど・・・、その人形のサイズはどのくらいが良いのかね?」
「カラーボックスの空間に合わせるならな、8センチ以下やね」
「根拠は?」
「人間の平均的身長に比すれば、8センチ以下にする。そうすると建物の一階部分の高さは平均的に13センチ以内におさまる。カラーボックスの一般的なサイズでは、高さが26センチ前後になるんで、二階建ての建物の模型がぴったり収まる計算になる」
「なるほど・・・」
聞いて、我が意を得たり、と感じました。「ねんどろいどぷち」も「きゅんキャラ」もサイズが6センチ前後であるので、友人の表現を借りると「8センチより小さければ理想的」だそうです。
しかも、インボックス・ジオラマの概念上では、そのサイズに合わせた建物の模型は、二階建てで再現可能ということになります。カラーボックスの空間内で、それだけのスケールの建築模型が作れるとは、ちょっと信じられない気持ちでした。
つまり、上図のように、ねんどろいどぷちの中野梓を置いてみると、サイズ的には二階建ての建物をイメージ出来るわけです。フィグマやねんどろいどでは、大きすぎて不可能ですが、これなら充分にいけます。
と言うより、上図の状態を見て、カラーボックスの空間ってこんなに広かったのか、と驚きました。友人の提唱していたインボックス・ジオラマの本質がなんとなく見えた気がしました。
かくして、私なりに憧れの一つだった「けいおん部室」を、「ねんどろいどぷち」や「きゅんキャラ」のサイズに合わせて、インボックス・ジオラマの形態で再現してみる、という試みに取り組んでみることにしました。友人が述べたように、計算上は二階建てが収まりますが、とりあえず「けいおん部室」を作る、という形から取り掛かることにしました。
劇中の桜ヶ丘高でも実際の豊郷小でも、「部室」は最上階たる3階に位置します。二階建てでジオラマ化すると、2階部分も再現することになりますが、そこまでの青写真はまだ描けませんでした。劇中の建物の内部構造がはっきりと把握出来ていないからです。
一度、DVDを見直して検証しないといけないな、と思いました。劇中の建物においては、実際の豊郷小学校の内部空間とは若干異なる構造になっているようなので、豊郷へ取材に行っても参考程度にしかならないな、とも考えました。
建築模型そのものは、以前の記事でも述べたように、製作経験があります。京都造形芸術大学時代に、立体造形表現の実技講習の一環で学びましたし、パソコンでのCADによる住宅設計図の描き起こしも勉強しました。平等院鳳凰堂や海龍王寺西金堂を木材で組み立て、住宅模型をスチレンボードで作ったりしましたので、そのノウハウを生かせば、「けいおん部室」も作れそうな気がします。
まずは、レッツ、トライ!!ですね。 (続く)