本来、2015年夏の8月に大洗へ行くという選択肢は、私の中には全くありませんでした。暑さに弱いため、夏季の旅行や遠出は控えるのが基本方針です。今夏はことに酷暑日が多く、外に出ただけで汗が噴き出て熱気の中で体力が奪われてゆくのでした。大好きな奈良や京都への歴史散策も8月にはやりませんから、大洗行きなどはもってのほかでした。
ところが、模型サークルの知人で先輩にあたる、自称「夜のイヨマンテA」ことアンドー氏が、
今夏の大洗ガルパン海水浴ポスターの件に接して、突然大洗へ行きたいと言い出し、模型サークル内でも「イヨマンテついに大洗を空爆か?」などと囁かれたのでした。私がそのことを知ったのは、二日後の、サークル仲間のFさんとの会話においてでした。
「星野さん、知ってる?アンドーさんがガルパンの大洗へ行きたがってるらしいよ・・・」
「そうですか、アニメは広く浅く色々楽しむって人ですからねえ、大洗に行くってのもアリでしょうね」
「なんでも盆明けの連休に行く積りらしいよ・・・。星野さんに案内してもらうんや、とか言うてましたよ・・・」
「えっ」
途端に不吉な予感に襲われました。まさか・・・、と思っていると、翌日には当のアンドー氏から打診の電話がかかってきました。
「いよう、元気かね?ひとつ頼まれて欲しいことがあるんやが」
「大洗へ行きたいんだそうですね」
「おお、もう知ってるのか、なら話は早い。要するに大洗を空爆したいわけや」
アンドー氏は、熱狂的な飛行機マニアです。外出や旅行のことを「空爆」と表現するほどです。大洗行きを思いついてから色々と調べたらしく、
茨城空港イベントや
ガルパン献血イベントの情報を得て自身なりにプランを構築し、私に相談もなしに宿まで予約してしまっていました。大洗シーサイドホテルと水戸レイクビューホテルの二ヶ所で、いずれもガルパン宿泊プランがあるから、というのが理由でした。典型的なアニメファンであるアンドー氏ならばでのチョイスでしたが、当の私はただ茫然とするほかはなく、最も避けたい真夏の大洗行きが具体化してしまったことに頭を抱えたのでした。
しかし、アンドー氏には昔から色々とお世話になっており、また拙ブログ「気分はガルパン」の実質上の立ち上げと命名もそのアドバイスに負うところが大きい、という事情があります。そのうえ、今回の大洗行きの宿泊料金を全て「ガイド料や」と言って支払ってくれたため、返礼と恩返しを兼ねて道案内を務めさせていただくことにしました。
その後、お互いに8月19日から21日までの三連休を確保して日程を調整しましたが、アンドー氏の方で一日ずらす必要が生じて8月18日から20日になったため、日程が完全に一致しなくなりました。そこで氏が計画を練り直し、一日目の大洗見学は氏の単独行動、二日目は水戸エリア見学にあてて私が同行、三日目は氏の東京秋葉原および鎌倉見物、という内容になりました。
それで、大洗で同道し道案内をするはずだったのが、19日の水戸エリア見学に同行する形に変わりました。そして20日と21日は大洗で自由に過ごすことになったのでした。
こうした計画を進めている最中、ガルパン仲間のナガシマさんと話したら、偶然にも同じタイミングで大洗の同じ宿に宿泊することが判明しました。ナガシマさんとは以前に二度大洗巡りを共にしており、今回が三度目となりました。アンドー氏に話すと、「それは良かったやないか。同じアニメファンの友達は大切にしておけ。ガルパンファン同士で大洗を楽しんでくれ」と笑っていました。
かくして、数えて18度目となる大洗行きが、これまでとは違った内容と二人の同道者を得て二泊三日の日程で実現したのでした。
8月19日の早朝、7時55分にJR水戸駅に到着し、南口のバスターミナルへのエスカレーター付近でアンドー氏と合流しました。
「いよう、きっかり時間通りやな」
「昨日の大洗巡りはいかがでしたか」
「いやもう、何というか、全てが興味深い。他のアニメ聖地とは色々と異なってガルパンだけじゃねえ特色がたくさん味わえる。面白かったねえ。星野がハマって何度も行ってる理由がよく分かったね」
「恐れ入ります。で、道には迷いませんでしたか」
「多少は迷ったと思うんやが、地図よりもキャラパネルを見ながら歩いたんで、あんまり問題は無かったな。というか、ガルパンのキャラパネルって街中にいっぱいあるんやねえ、順番に探して見て行ったら、宿のシーサイドホテルにいつの間にか着いとった、という感じやった」
「それは何よりです」
この日は水戸エリアの見物にあてますが、午前中は茨城空港に行こうとのアンドー氏の提案でした。そこでパスターミナルの4番乗り場に移動しました。
「ほう、ここから大阪へ行く夜行バスも出るのか」
「一昨日の晩に大阪から夜行バスに乗って昨日の朝にこちらに着いたんですよね」
「そうや、その時のバスは、あっちの方に停まったんや」
言いつつ、エスカレーターをはさんで反対側の乗降場の方を指さしたアンドー氏でした。
やがて茨城空港行きの連絡バスが入ってきました。空港行きのバスは、高速道路経由の直通便と一般道経由の路線便とがあり、茨城交通と関東鉄道が共同で運行しています。今回利用したのは、8時10分発の茨城交通の直通便でした。
「路線便やと一時間以上かかるが直通便やと40分で行ける。料金も直通便の方が100円安い。時間も費用も節約してスピーディーにいくのがええな」と満足げなアンドー氏でした。
この時の乗客は我々を含めて8人でしたが、アンドー氏は「後ろの方の席がええ」と言って最後尾に近い列の席に着きました。そのほうが、窓の景色とともに車内を広く見渡せて旅気分が味わえるから、と言うのでした。旅好きで全国各地のアニメ聖地巡礼を楽しんでいる氏ならばでのスタンスでした。
きっかり40分後に茨城空港に着きました。
「茨城空港に着きましたよ」
「こらこら、茨城空港って言うな。百里飛行場と呼ぶんや」
飛行機マニアの氏は、空港施設を正式な飛行場名で呼ぶことにものすごくこだわります。もともと航空自衛隊の大ファンであるため、基地名もしくは飛行場名が第一であり重要である、と考えているようです。
以前の記事でも触れた通り、茨城空港は、防衛省・航空自衛隊が管理する百里飛行場に2010年より民間共用施設として新設されています。それまでは航空自衛隊百里基地として機能していたため、現在でも「百里基地」と呼ぶ付近住民が大半であるそうです。飛行場の滑走路と自衛隊施設の大半は茨城県小美玉市百里に所在しますので「百里飛行場」が正式名称ですが、茨城空港の旅客ターミナルビルは隣の与沢に位置しているので、氏の言葉を借りると「与沢ターミナル」となります。
空港ターミナルの入口付近のウインドーには、ガルパンイベントのポスターが貼ってありました。
「おい、航空自衛隊百里基地のポスターが見当たらんやないか」
「ここは茨城空港のターミナルなんで、そんなのは関係無いのと違いますか」
「茨城空港って言うな。呼称はつねに正しく、百里飛行場。そう、百里飛行場。ではもう一度」
「茨城空港です」
「・・・第302飛行隊全機に攻撃を許可する。AAM-4、発射ぁ」
両手の人差し指をミサイルに見立てて、私の脇腹に深く突き刺すアンドー氏でした。
入口を入ると、御覧のようにガルパンイベントの案内だらけでした。
「こんなのが、百里飛行場のメインゲートの景色とはどういうことや、説明しろ」
「なんで私が説明せんとアカンのですか、ガルパンイベントのスタンプラリーをやってるから、それ目当てにここへやって来るファンが沢山居るから、こういうふうになってるわけですよ」
「航空自衛隊百里基地の栄光のエンブレムはどうした?」
「そんなのは私に聞いたって知らないですよ」
「おい、スタンプラリーの案内があるで」
「それが今回の目的と違うんですか?」
「いや俺はな、首都圏唯一の防空任務を担う輝かしき航空自衛隊百里基地の臨場感を味わいたくてやってきたわけ。ガルパンのスタンプラリーは、本来の任務ではない」
と言いつつも、「台帳は一人一冊で、か・・・。チッ」と舌打ちするアンドー氏でした。なんだかんだ言っても根はアニメファンです。限定的グッズの一種には違いない茨城空港ガルパンスタンプラリーの台帳は、どうしても二冊ぐらいは欲しかったのでしょう。
メインゲートから二階へと登るエスカレーターの入口付近の天井から、巨大なガルパンデザインのタペストリーが掛けられてありました。劇場版のポスターと同じく大洗女子学園チーム全員の集合写真スタイルです。
「これはいいですねえ」
「分かってるやろうけど、撮影の時は気をつけてくれ、俺を絶対に入れるなよ。俺は写真は絶対に駄目なんや。いつも言ってるように、俺の姿は一部たりとも撮るなよ、魂が吸い取られて寿命が縮まるんやからな。俺も出来るだけ長生きしたいんやからな」
アンドー氏の写真嫌いはものすごく徹底していることで知られています。学校のクラス写真でも必ず横を向き、模型サークルでの記念写真にも全く入ったことがありません。氏との付き合いはもう20年近くになる私ですが、氏との記念写真は17年前にホビーショーで偶然に撮った一枚が唯一のものです。
なので、今回の同道に際しても、氏の姿は絶対に写さないように念を押されていました。なので、数多の武勇伝や珍エピソードを持つ氏の勇姿を、拙ブログにてお見せすることはありません。
よくみると、施設内のあちこちにガルパンのポスターが貼ってありました。二階の方にも並んでいました。
「なんであんなにガルパンばっかり貼るんや。3メートルぐらいおきに貼ってあるやないか。仮にもここは航空自衛隊百里基地の与沢ターミナルやろ?それ相応のポスターをきちっと貼ってしかるべきやのに、まったく見当たらん。どういうことか、ちゃんと説明しろ」
「なんで私が説明せんとアカンのですか」
「応答なくば、空爆を開始する。SSM-1B全弾展開準備完了」
「SSM-1Bって、護衛艦の90式艦対艦誘導弾じゃないですか、飛行機の空爆には使えませんよ」
「うるさい、俺が命令すれば、ただちに使えるようにカスタマイズされるんや」
「なにがカスタマイズですか・・・」
とにかく何やらブツブツ繰り返していたアンドー氏でしたが、二階にあがって送迎デッキに出た途端、にわかに機嫌が良くなってテンションも上がりました。
「おい見ろ、あれが栄光の百里基地の施設群や。ほほう、割と近くに見えるのか、こりゃええなあ」
すぐに双眼鏡を取り出して細かく観察を始めていました。
「ここの第7航空団で首都圏を護る・・・か。入間基地にも要撃部隊を展開出来たらベストなんやが・・・。代替案としてはここのF15をF22に機種変更するだけでええのに、なんで不安要素の多いF35なんか導入するんやろうなあ・・・」などと、色々と独り言を繰り返しているのでした。
航空自衛隊百里基地の公式サイトは
こちら。 (続く)