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2020年9月、新型コロナウイルスは第2波が収まりつつ在った。安保宰三(あぼ さいぞう)は体調不良を理由に首相を辞任、後継の酸ヶ湯儀平(すがゆ ぎへい)政権がGo Toキャンペーンに励み、五輪の開催に向けて邁進していた。
そんな中、日本に新型コロナウイルスの変異株が上陸する。其れ迄、目先を誤魔化し乍ら感染対策を自画自賛していた浪速府知事・鵜飼昇(うかい のぼる)の統治下、浪速の医療が崩壊し始め・・・。
浪速を再生するべく、政策集団「梁山泊」の盟主・村雨弘毅(むらさめ ひろき)元浪速府知事が、大法螺吹きと呼ばれるフリー病理医の彦根新吾(ひこね しんご)医師や、ニューヨーク帰りの天馬大吉(てんま だいきち)医師と共に行動を開始する。
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現役の医師で在り、作家でも在る海堂尊氏の「コロナ黙示録」は「田口・白鳥シリーズ」に含まれる作品で、新型コロナウイルスに見舞われた世界を描いていた。今回読んだ「コロナ狂騒録」は其の続編で、前作から1年後。
フィクションという形を取っているが、登場人物の多くが「彼(又は彼女)の事だな。」と思わずニヤッとしてしまう様な、実在の人物を思い浮かばせる設定。
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・緊急事態宣言は「全責任は私にある。」と言うが、「責任を取る。」とは言わない。
・「では今から、一年の周回遅れでワクセンがワクチンを開発できたらどうします?」。「仮定の話にはお答えしかねます。」。「政治家が仮定の話をしなくて、何を語るんですか。この世界の森羅万象はなにひとつ、確定したことはありません。仮定の上で針路を取る、それが政治家の仕事のはずです。」。
・酸ヶ湯は、「安心安全の大会を目指す。」と、壊れたレコードのように繰り返した。「安心安全」は、酸ヶ湯が捻り出した、キャッチコピーの傑作だった。「安心」かと問われれば「安心できない。」と言われ「安全」だと主張すれば「安全ではない。」と反駁される。だが「安心安全」と重ねれば、輪郭は曖昧になり論理的に判定できなくなる。安全とは客観的な事象で、安心は主観的な気持ちだ。このふたつをごちゃ混ぜにすれば、見たくないことから目を逸らし、取らなければならない責任を逃れることができる。酸ヶ湯は無理やり、そう信じ込もうとしていた。
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「“現実の世界”で、新型コロナウイルスが何の様にして広がって行ったのか?」というのが時系列で記されているので、未曽有の災厄に付いて頭の中を整理する上で非常に役立つし、後世の人達にも参考になる事だろう。
医学的な情報が盛り込まれているのは良い事なのだが、如何せん“掘り下げ過ぎ”ているので、素人としては読み進めるのにしんどい部分が在る。其れが、難点だろう。
総合評価は、星3つとする。