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娼夫として7年もの歳月を過ごしたリョウ。御堂静香(みどう しずか)の後を引き継ぎ、非合法のボーイズ・クラブ「ル・クラブ・パッション」の経営を一手に引き受ける迄に。男性恐怖症、アセクシュアル・・・クラブを訪れる女性達にも様々な変化が。
リョウは女性の欲望を受け止め続ける毎日の中で、自分自身の未来に思いを巡らせ始めた。性を巡る深遠な旅の結末に、リョウが下した決断とは?
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石田衣良氏の小説「爽年 call boy Ⅲ」は、女性に身体を売る「男娼」の描いた作品。17年前に上梓された「娼年 call boy」、そして10年前に上梓された「逝年 call boy Ⅱ」に続く「娼年シリーズ」の第3弾に当たり、最終章になる様だ。
「娼年」では20歳の大学生だったリョウも、男娼として働き始めて7年の月日が過ぎ去り、“アラサー”と呼ばれる年代に入った。客で在る女性に身体だけでは無く、心も提供し続けて来た中で、人として成長して来たリョウ。其の過程ではオーナーの御堂静香を含めた、近しい人達の死とも接して来た。
「石田氏の『池袋ウエストゲートパーク・シリーズ』は大好きだけれど、『セックスを描く事は、人を深く描く事だ。』とでも言いたい様な、余りに執拗なセックス描写に溢れる近年の石田作品には辟易としている。」事は、過去に何度か書いて来た。其の代表格が「娼年シリーズ」なのだが、今回の「爽年 call boy Ⅲ」でも、執拗なセックス描写は少なく無い。
そういう意味では好きじゃ無いテーストなのだけれど、前2作と比べると抵抗感が薄いのは、“人の死”という物により深く触れているからなのかもしれない。人とは違う嗜好を持つ事から、“孤独な世界”に居続けていたが、リョウ達と知り合った事で漸と居場所を見出だせた或る男性の死は、特にグッと来る物が在った。
「アセクシュアル」は「無性愛」と訳され、「他人に対する性的な関心が少なかったり、又は性的な行為への関心や欲求が少ないか、或いは存在しない事。」を意味するそうだ。性欲が人並み以上に在る自分にとっては、想像出来ない事では在る。
そういう自分とは異なる嗜好の女性達と接する事で、リョウの成長する姿を描いて来た娼年シリーズが、今回幕を下ろした。読み終えてみると、あんなにも抵抗感が在った同シリーズなのに、終わってしまった事に寂しさを感じている自分が居る。
総合評価は星3.5個。