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太宰治の「晩年」を奪う為、美しき女店主・篠川栞子(しのかわ しおりこ)に危害を加えた青年・田中敏雄(たなか としお)。ビブリア古書堂の店主・栞子とアルバイト店員・五浦大輔(ごうら だいすけ)の前に、彼が再び現れる。今度は依頼者として。
違う「晩年」を捜しているという奇妙な依頼。署名では無いのに、太宰自筆と判る珍しい書き込みが在るらしい。
本を追う内に、2人は驚くべき事実に辿り着く。47年前に起こった、太宰の稀覯本を巡る盗難事件。其れには、2人の祖父母が関わっていた。
過去を再現するかの様な、奇妙な巡り合わせ。深い謎の先に待つのは、偶然か必然か?
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書籍や作家に関する膨大な知識量を元に、1冊の本に秘められた謎や秘密を、其の本を見ただけで解き明かしてしまう栞子。そして、シャーロック・ホームズの様な彼女を、ジョン・H・ワトスンの如き相棒として支え続ける大輔。三上延氏の小説「ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ」は、そんな2人の活躍を描いた作品。
御互いに好意を持っているにも拘わらず、ハッキリと好意を示せなかった2人だが、前作「ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~」で、漸く付き合う意思を表示し合えた。そして、今回の「ビブリア古書堂の事件手帖6 ~栞子さんと巡るさだめ~」に繋がる訳だが、2人、特に栞子の方が相手を意識し過ぎていて、未だ未だもどかしい関係では在る。
書籍や作家に対する深い愛情、そして其れから生み出される薀蓄。そういった物に触れられるので、「ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ」は、大好きな作品の1つ。今回は「太宰治」という作家を題材に、幾つかの謎解きが行われて行く。
太宰治というと、“大昔の作家”というイメージが在ったのだけれど、生年では自分(giants-55)の祖父よりも後で、そう考えると「そんな昔の作家では無いんだなあ。」という思いが。
「ビブリア古書堂の事件手帖6 ~栞子さんと巡るさだめ~」の中で、太宰の“心の弱さ”や“駄目さ加減”が幾つか紹介されているのだが、「そういった物が在るが故に、作品世界に魅了される読者が居る。」というのは、何となく判る様な気がする。
稀覯本に対し、異常な程に執着する田中敏雄。ストーカーに相通じる不気味さを感じてしまうキャラクターだが、今回の作品ではそんな人間が、他にも何人か登場。正直、気持ちの良さは感じ無い。
栞子の母・智恵子(ちえこ)は、「損得勘定から、不道徳や不誠実な事も辞さない女性。」として描かれて来たが、此の“謎多き人物”の謎の一端が、最後の最後に“少しだけ”明らかとなる。其の事で、「そういう事だったのか!?」と驚かされ、“先”が知りたくなる読者も多い事だろう。
後書きによると、此のシリーズは次乃至其の次の巻で完結させる予定とか。大好きなシリーズなので残念では在るが、どういう“着地点”になるのか、非常に気になる所。
総合評価は、星4つとする。