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「『見る』とか『聞く』とかいう行為はさ、文脈効果によってかなりの影響を受けるんだ。文脈効果ってのは、人間が何かを知覚する過程で、前後の刺激が知覚の結果を変化させてしまう現象を言う。例えば-。」
「これ(今回の記事に使用した絵)、有名な『ラットマン』の絵なんだけどね。ほら、端っこ二つ。」
「動物と並んでいる方は、鼠に見える。ところが人の顔と並んでいる方は、おっさんの顔に見える。殆ど同じ絵の筈なのにな。」
「例えばこの絵で言うと、ラットマンだけを単独で見たとする。その時『これは鼠だ。』と思い込んでしまうと、意図的に見方を変えようとしない限り、何度見ても鼠としか思えない。逆に『おっさんだ。』と思い込めば、もうおっさんにしか見えなくなる。これが命名効果だ。鼠と言ってしまえばもう鼠。おっさんと言ってしまえばもうおっさん。」
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道尾秀介氏の近刊本「ラットマン」。同時進行で「新世界より」を読んでいた事も在り、最初はてっきり鼠男が登場する話とばかり思っていたが、認知心理学で用いられる騙し絵「ラットマン」をタイトルに用いていたのだった。
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姫川亮はアマチュアバンドのギタリスト。高校時代に同級生3人と共に結成、デビューを目指すでも無く、解散するでも無く、細々と続けて14年。メンバーの殆どは30歳を超え、姫川の恋人・小野木ひかりが叩いていたドラムだけが、彼女の妹・桂に交代した。其処には僅かな軋みが存在。姫川は父と姉を幼い頃に亡くしており、二人が亡くなった時の奇妙な経緯は、心に暗い影を落とし続けて伊いた。
或る冬の日曜日、練習中にスタジオで起こった事件が、姫川の過去の記憶を呼び覚ます。事件が解決した時、彼等の前にはどんな風景が待っているのか・・・。
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読者をミスリードさせるべく作者が張り巡らした巧妙な“罠”を見破り、“真実”を突き止めるのがミステリーの醍醐味。ましてやミスリードさせる事にかけては天才的な能力を持つ道尾氏の作品で、それもラットマンの騙し絵を持ち出してミスリードされてしまいがちな人間の弱さを記している以上、かなりの罠が仕掛けられているのは想像に難くなかった。実際に作者は或るインタビューで「(ラットマンの騙し絵は)人間の絵の中に在ると人間に見え、動物の絵の中に在ると鼠に見える絵で、人間の犯す『過ち』にとても似ているなと思ったんです。環境や状況、見る人によって同じ行動も違う意味を持つ。そんな一寸した思い違いが重なって思わぬ事件が起こる・・・。」と述べている。
現在と過去に発生した二つの“事件”に関する謎解き。ミスリードされない様にストーリーを読み進めて行く。「如何にも犯人と思われる人間では無く、限りなく犯人で無さそうな人間を疑え。」というのはミステリーの謎解に於ける鉄則。普段以上に注意を払い、現在と過去に発生した二つの事件の犯人を見定めた。そして案の定、その人物達が犯人。「今回は勝利を収めましたたよ、道尾さん!」
しかし残り30頁を切った所で、まさかのどんでん返し。特に過去の事件に関する“真相”には、「参りました。」の一言。作者がラットマンの騙し絵を持ち出したのも、これで納得。これ迄の作品と同様に、伏線の張り方も心憎い。
茫然自失の結末という程では無いが、やられた感を味わえる作品だと思う。総合評価は星3.5個。
「『見る』とか『聞く』とかいう行為はさ、文脈効果によってかなりの影響を受けるんだ。文脈効果ってのは、人間が何かを知覚する過程で、前後の刺激が知覚の結果を変化させてしまう現象を言う。例えば-。」
「これ(今回の記事に使用した絵)、有名な『ラットマン』の絵なんだけどね。ほら、端っこ二つ。」
「動物と並んでいる方は、鼠に見える。ところが人の顔と並んでいる方は、おっさんの顔に見える。殆ど同じ絵の筈なのにな。」
「例えばこの絵で言うと、ラットマンだけを単独で見たとする。その時『これは鼠だ。』と思い込んでしまうと、意図的に見方を変えようとしない限り、何度見ても鼠としか思えない。逆に『おっさんだ。』と思い込めば、もうおっさんにしか見えなくなる。これが命名効果だ。鼠と言ってしまえばもう鼠。おっさんと言ってしまえばもうおっさん。」
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道尾秀介氏の近刊本「ラットマン」。同時進行で「新世界より」を読んでいた事も在り、最初はてっきり鼠男が登場する話とばかり思っていたが、認知心理学で用いられる騙し絵「ラットマン」をタイトルに用いていたのだった。
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姫川亮はアマチュアバンドのギタリスト。高校時代に同級生3人と共に結成、デビューを目指すでも無く、解散するでも無く、細々と続けて14年。メンバーの殆どは30歳を超え、姫川の恋人・小野木ひかりが叩いていたドラムだけが、彼女の妹・桂に交代した。其処には僅かな軋みが存在。姫川は父と姉を幼い頃に亡くしており、二人が亡くなった時の奇妙な経緯は、心に暗い影を落とし続けて伊いた。
或る冬の日曜日、練習中にスタジオで起こった事件が、姫川の過去の記憶を呼び覚ます。事件が解決した時、彼等の前にはどんな風景が待っているのか・・・。
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読者をミスリードさせるべく作者が張り巡らした巧妙な“罠”を見破り、“真実”を突き止めるのがミステリーの醍醐味。ましてやミスリードさせる事にかけては天才的な能力を持つ道尾氏の作品で、それもラットマンの騙し絵を持ち出してミスリードされてしまいがちな人間の弱さを記している以上、かなりの罠が仕掛けられているのは想像に難くなかった。実際に作者は或るインタビューで「(ラットマンの騙し絵は)人間の絵の中に在ると人間に見え、動物の絵の中に在ると鼠に見える絵で、人間の犯す『過ち』にとても似ているなと思ったんです。環境や状況、見る人によって同じ行動も違う意味を持つ。そんな一寸した思い違いが重なって思わぬ事件が起こる・・・。」と述べている。
現在と過去に発生した二つの“事件”に関する謎解き。ミスリードされない様にストーリーを読み進めて行く。「如何にも犯人と思われる人間では無く、限りなく犯人で無さそうな人間を疑え。」というのはミステリーの謎解に於ける鉄則。普段以上に注意を払い、現在と過去に発生した二つの事件の犯人を見定めた。そして案の定、その人物達が犯人。「今回は勝利を収めましたたよ、道尾さん!」
しかし残り30頁を切った所で、まさかのどんでん返し。特に過去の事件に関する“真相”には、「参りました。」の一言。作者がラットマンの騙し絵を持ち出したのも、これで納得。これ迄の作品と同様に、伏線の張り方も心憎い。
茫然自失の結末という程では無いが、やられた感を味わえる作品だと思う。総合評価は星3.5個。
私はこの項目を読んでお月様を思い出しました。
東洋では月の模様が兎に見えることから月に兎が住んでいると歌われたりもしますが、西洋など他国では蟹だったり女性の横顔に見えたりする事を思い出しました。
そしてそう思い込むと他のことが思い浮かばなくなり、人の指摘により初めて気付く・・・。
これらの事に限らず、色々な面でこうゆうことってありうることですよね。仕事なんかでも「行き詰った。もう駄目だ。」と思っていると同僚の何気ない一言から新しい見方、アイディアを思い浮かべ新しい方向に見出したり・・。
この映画は残念ながら鑑賞していませんが我々が陥りやすい固定観念に対しての警鐘を示しているのかもしれませんね。
小さい頃から「月では兎が餅つきしている。」という話を聞かされて来た日本人からすると、月の模様は兎以外に見えない訳ですが、そういう概念の無い他国では別の見え方がするというのは、自分も昔本で読んで「面白いなあ。」と思ったものです。
人間って概して固定観念に捉われがちなものですが、一寸見方を変えると全く別の物が見えて来るというのは結構在るものなんですよね。それがなかなか出来ないのも事実なのですが。