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36歳未婚女性、古倉恵子(ふるくら けいこ)。大学卒業後も就職せず、コンヴィニのバイトは18年目。此れ迄、彼氏無し。日々食べるのはコンヴィニ食、夢の中でもコンヴィニのレジを打ち、清潔なコンヴィニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りを齎してくれる。
或る日、婚活目的の新入り男性、35歳の白羽(しらは)が遣って来て、「そんなコンヴィニ的生き方は恥ずかしい。」と突き付けられるが・・・。
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「小学校に入った許りの頃、同級生の男子が取っ組み合いの喧嘩を始めた。周りからは悲鳴が上がり、『誰か止めて!』という声が。『そうか、止めるのか。』と思い、傍に在った用具入れスコップを取り出し、取っ組み合いをしていた男子の片方の頭を殴った。男子は頭を押さえ、其の場にすっ転び、頭を押さえた儘動かなくなった。もう片方の男子もスコップで殴ろうとした所で、『恵子ちゃん、止めて!止めて!』と女の子達が泣き乍ら叫び、其の声で殴るのを止めた。飛んで来た先生達は仰天し、『何故、こんな事をしたのか?』と説明を求めたので、『止めろと言われたから、一番早そうな方法で止めました。』と答えた。自分がした事の何がいけなかったのか、さっぱり判らなかった。」という経験を有する等、幼少期から常人とは大きく異なる言動をして来た女性・古倉恵子が主人公の小説「コンビニ人間」(著者:村田沙耶香さん)は、第155回(2016年上半期)芥川賞の受賞作。
常人とは大きく異なる言動をし続けて来た事で、他人のみならず家族からも「“普通”では無い。何時になったら“治る”のだろうか。」と思われている。そんな恵子にとって、ずっと続けているコンヴィニでのバイトは、自分を“普通”にさせてくれる場所。「マニュアル通りに言動し、バイト仲間の趣味や話し方を真似る事で、周りから“普通の人間”と理解され、又、自分の存在意義を認めて貰えている。」と感じていたからだ。
然し、35歳の白羽がバイトとして入って来た事から、彼女の中で何かが崩れて行く。「“社会の底辺に居る人間”とか“異分子”と判断され、“普通”になる事を周りから強要され続けている。」と社会に強い怒りを覚えている白羽は、バイト仲間達を“社会の底辺に居る人間”と罵倒し、仕事にも身を入れない。そんな彼はバイトを首になるのだが、ひょんな事から恵子と一緒に暮らす様になる。“普通”で在る事を求め続けられて来た2人は、「良い年をした人間が、独り身で居るのはおかしい。」という“普通さを求める考え”から“避難”する意味で、一緒に暮らす事に居心地の良さを感じたのだ。
「“普通”とは、一体何なのだろうか?」と考えさせられる内容。“普通”に近付け様として、“普通の人達”の言動を真似し、そして周りから「“普通の人”として思われている。」と安心していた恵子だが、白羽と出会った事で“現実”に直面させられる。色んな意味で、心がざわつかされる小説だ。
去年の「火花」の様な例外は在るけれど、「abさんご」や「死んでいない者」、「異類婚姻譚」等々、近年の芥川賞受賞作には其の良さが全く理解出来ない、失礼乍ら“駄作”としか思えない作品が非常に多い。でも、今回の「コンビニ人間」はとても面白いし、心に残る物が在る。
総合評価は、星4.5個とする。