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ヤクザの下っ端、市岡真二(いちおか しんじ)と草塩悠人(くさしお ゆうと)。人使いの荒い兄貴分・荒木田(あらきだ)に扱き使われる彼等の冴えない日常は、或る他殺体を見付けてから変わり始める。
同じ頃、調布で自動車部品店を営む植草浩一(うえくさ こういち)・菜々美(ななみ)の父娘は、地上げ屋の嫌がらせで、廃業に追い込まれ掛けていた。
一方、脱法行為で金を稼ぐ宗教団体「ニルヴァーナ」では、教祖の孫娘・長尾春香(ながお はるか)が誘拐され・・・。
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第19回(2020年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の文庫グランプリを受賞した小説「甘美なる誘拐」(著者:平居紀一氏)を読了。第18回迄は「優秀賞」とされていた賞が、第19回から「文庫グランプリ」と名称変更された。
「誘拐」をテーマにした作品だが、文庫本の解説でも触れられている様に、実際に誘拐が描かれるのは、全体の半分程進んだ辺り。描かれ方も結構あっさりしているし、誘拐の目的自体がはっきりしない。「誘拐の目的がはっきりしない。」というのは、著者が意図的にそうしており、だからこそ明らかになった時の“意外性”が光っているとも言える。
取り上げられている殺人事件に付いては、犯人も動機も凡庸。又、著者としては意外性を狙っていたのだろうが、宝籤に関する“落ち”は、真二達が宝籤を購入している際の“記述”で、「最後は、こういう落ちに持って行くんだろうな。」というのが予想出来た。もう少し上手く文章の中に“溶け込ませ”ておかないと、ミステリー好きの目は欺けないだろう。
「〇〇の正体が、実はXXだった。」という設定、そして「何も考えていない様な△△が、結構な知恵者だった。」というのは、意外性という点で悪く無かったが、全体的に言えば物足り無い。
総合評価は、星3つとする。